【岐阜県・岐阜市】長良川の畔に灯る まちを愛する人たちの拠り所「&n~アンドン」
インタビュー
1300年以上もの歴史を誇る長良川鵜飼の里・岐阜市鵜飼屋地区。伝統の香りが漂う風光明媚なこの場所に、廃業した木材問屋の倉庫をリノベーションし、個性が集結した複合施設に生まれ変わった「&n(アンドン)」があります。
地域の魅力発信の場として2019年5月にオープンしたこの施設は、長良川リバースケープ有限責任事業組合(LLP)のみなさんが運営を担い、コロナ禍に見舞われながらも自然豊かな自慢のロケーションを生かし、イベントを継続して企画するなど、さまざまな取り組みを行っています。
正面の壁に設られた大きなガラス窓からは外光が差し込み、倉庫だったとは思えないような明るく居心地の良い空間に。この中に、現在10軒のショップやアトリエが入っているそうです。
今回、LLPを代表してインタビューに答えてくださったのは岐阜市出身の建築士、「エレファント・デザイン」の門脇和正さん。お話をお聞きする前に、まず&n (アンドン)内の主なテナントさんを紹介してくださいました。
<1階>
居酒屋「うかいや食堂」
庭師が本業の店主さんが長年の夢だったという居酒屋を開店。お店に集うお客さんは個性豊かな顔ぶればかり。自主企画で「音楽祭」を開催することもあるそう。
アウトドアショップ「フリーク」
冬はスノーボードのスクールをしているアウトドアのお店が、夏に長良川でサップを楽しむお客さんのための基地として受付を設置しています。
「ゆいのふね」
長良川の漁師さんのPRコーナー。川魚の販売が行われることも。
アンティークショップ「ノマドライフ」
芝生の庭に面したアンティークショップ兼カフェ。ギャラリーやワークショップのためのレンタルスペースとしても利用できるそう。
<2階>
フラワーショップ「プハラ」
季節を感じる花やグリーンを使ったアレンジを完全オーダーメイドで。
イタリアンカフェレストラン「ラ ルカンダ」
ミラノ・ベルガモエリア出身のイタリア人シェフによる本格イタリアンとスィーツが楽しめます。
<3階>
古美術アンドン
鵜飼屋地区で生まれ育った陶芸家、交田さんが営む骨董店。
現代美術家 渡辺悠太さんのアトリエ
「ノスタルジア・オブ・マッド」
コスチュームなどを手掛けるデザイナー、松田氏のアトリエ。
違った個性が集まる〝長屋〟のような佇まい
ーー外から見ただけではわからない、迷宮のような造りがとても楽しいです。テナントさんもそれぞれ個性豊かですね。
「だいぶカオスな感じですよね(笑)。最初、ここをどんなふうに使おうかとみんなであれこれ考えたんですよ。
結果的には当初のイメージとは違う感じになりましたけど、庶民的な居酒屋もあれば、松田さんのようにものすごく洗練されたデザイナーのアトリエがあったりして、ただ似通った人やお店が揃っているのではなくみんながそれぞれ好きなことを楽しんでいるのがここの良さかなと思っています」
――大きな梁や柱をそのまま生かして大胆にリノベーションされているのも印象的です。
「建物自体は古いですが、造りは非常にしっかりしているんですよ。さすがは材木商さんの倉庫だなと感心しました」
――雑多な感じが意外に居心地よくて、他にない魅力を感じますが、そもそもこの「アンドン」はどのような経緯で誕生したのですか。
「15年ほど前からこの界隈で毎月仲間たちと飲み会をやっていて、そこにこの物件の話が舞い込んだのがきっかけでした。
せっかくだからみんなで何かやろうということになったんですが、お金もかかることですし、最終的にはリスクを負ってもいいという本当にやる気のあるメンバー13人が中心となって借受けることにしました。
それを機に『長良川リバースケープ有限責任事業組合』(通称LLP)を立ち上げて、みんなで管理をすることになりました」
――みなさん、最初は飲み仲間だった?
「そうなんです。そもそもは僕がこの近くに引っ越してきたことがきっかけなんですが、『長良会』という名前で毎月集まっていたのがはじまりです。それまで僕は岐阜市内でも少し離れた地域に住んでいて、このエリアの良さをあまりわかっていなくて。
でも歩いてみるとプロムナードから見る長良川と対岸の金華山の眺めが素晴らしく、鵜飼という日本が誇る伝統的な文化も根付いていてすごく魅力的な場所だと感じ、この場所でコミュニティを作りたいなと思ったんです」
――みなさん地元に縁のある方たちですか。
「鵜飼屋地区で生まれ育った陶芸家や、長良川畔の老舗旅館の方など、ほとんどがこのエリアに住んでいる人たちです。しかし、地元にずっといると自分の暮らしているまちの魅力や価値に気づいていない人が多いんですね。
こんなに素晴らしい景色なのに当たり前すぎて特別な感慨もないみたいで。僕は別の地区から来たのでここの良さをより強く感じたのだと思います。
当時はその思いを地元のみんなに熱弁していました。そんなことから、このエリアでのまち歩きイベントや「こよみのよぶね」(http://www.koyominoyobune.org)というアートイベントなど、地域の魅力を生かした取り組みが始まりました」
基本のスタンスを問い直したことで見えてきた
この場所で集まる意義
――最初に目的を掲げて集まったのではなく、まずはみんなで飲み会を続けていくうち目的や目指すものが具体的になっていったというような感じですか。
「そうですね。だんだんと仲間も増えて多い時には数十人にもなりました。基本的には単なる飲み会なんですが、一方で、それだけではいけないという思いがありました。僕としては『長良会』はこのエリアの未来に繋がっていかなければ意味がないとずっと感じていたんです」
――メンバーが増えるほど、思いを共有することや一人一人がモチベーションを維持していくことって難しくなっていく気がします。
「途中から、僕自身、これって何のためにやっているんだろう?と感じるようになってしまったんです。そしてあらためてよく考え、みんなにもその思いを投げかけました。
長良会は地元に縁のある人たちの自由な集まりには違いないし、関わり方もそれぞれ自由でいい。けれどその中心には、この川と山を愛する気持ちがあることが重要で、メンバーみんなが同じ認識を持っていなければ意味がないと。
思い切ってそう投げかけたことで長良会の意義や方向性がより明確になったように思います」
――思いを再確認したことが大きな転機になって、アンドンの誕生につながっていたんですね。そうしてできた拠点を中心にみなさんでイベントなども企画されているそうですが。
「毎年5月11日の鵜飼開きの日と10月15日の鵜飼じまいの日に、川沿いのプロムナードを利用した『夜市』を開催します。ほかに毎月第二日曜日に地元のおいしいお店や手作りの作家さんたちを募って『あんどん楽市』なども行なっています」
アンドンが担う役割とこれからのこと
――メンバーのみなさんの思いを繋いでいるのは、なんといってもこのロケーションの魅力ですよね。圧倒的な求心力になっているような気がします。
「地元の人たちが忘れかけていた自分のまちの魅力、それを再発見できたことだけではなく、このまちを好きになって何度も訪れているうちに本格的に移り住むようになった人もいます。
価値のある建物がまだたくさん残っていますし、とにかくポテンシャルのあるエリアであることは間違いないのでもっともっと有意義に生かしていきたいですね。そのためにはまず地域のみなさんとの関係性づくりが重要です。
アンドンができたことで、あいつら、まちのために頑張ってるな、ぐらいの認識はしていただけているんじゃないかなと思いますが、そういうことからまちの困りごとを相談してもらったり、お手伝いできる場面で力になったりりしながら丁寧に関係性を深めていけたらと思っています」
――最後に、門脇さんが思うこのまちの一番の魅力は?
「そうですね…この素晴らしい景色は言うまでもなく、僕にとって、ここは暮らすのにちょうどいい場所だなって思っています。名古屋に出かけるにしても電車で20分ぐらいの距離だし、駅からもバスがたくさん出ているので足には困ることもありません。
電車で出掛けた帰りに岐阜が近づいてくると、どの方向からでも岐阜城がそびえる金華山が目に入るんです。長良の人にとってはまさに〝我が家〟の象徴なんですよ。家に帰ってきたなーって思う。
この美しい金華山がホームタウンのランドマークだなんて、最高に贅沢ですよね。そんなふうに僕らがこのまちを誰よりも愛して、ここで楽しむことこそがまちの魅力発信につながると信じています」