【鹿児島県大崎町】理屈じゃない動きが人をつなぎ、新しい文化を醸し出す / カフェ・ド・グリル・サザンクロス 坂元健太郎さん
インタビュー
鹿児島県大崎町にて『カフェ・ド・グリル・サザンクロス』(以下:サザンクロス)をご家族で営みつつ、ふるさと納税やコミュニティFM、醤油屋を通した切り口で、地域の発信をされている坂元健太郎さん。それらの活動を取り組むようになった背景等についてお話を伺いました。
ポテンシャルを最大限に引き出す
サザンクロスは今年で創業35周年。
東京の銀座で修行を積んだお父様の孝司さんが洋食屋としてオープンさせました。
店名の由来は航海士だったお祖父様だったのだとか。
貿易船に乗り、南アフリカにある喜望峰(※1)を越えると
サザンクロス(南十字星)が見え、安堵の気持ちと同時に、その美しさに感動し、それが店名の由来になっています。
21歳の時、福岡の飲食店へ就職されますが、
調理中に指を負傷し、料理人として仕事を続けることが
困難になってしまいます。
「そこから自暴自棄になってしまいました。気持ちを紛らわそうにも、何をしても変わりませんでした。」
「そんな時、福岡のデパートで大鹿児島展(※2)が開催されたのですが、そこで大崎町の焼酎が販売されていたんです。“大崎じゃん、これ”と思い、御守り代わりに買うことにしました。」
「元々、両親からは“継業せずに、好きな道を歩めばいい”と言われていました。でも、その焼酎がきっかけで大崎町へ戻ろうと決意し、家業を手伝うことになりました。」
(※1)1488年、ポルトガル人の航海者バーソロミュー・ディアスによって発見された岬。この海域が非常に荒れていたことから「嵐の岬」とも呼ばれたことがあったという。
(※2)鹿児島県の食やお酒、工芸品を紹介する物産展のこと。
指のリハビリをしながら、
できる範囲でお店のサポートをしていく上で、
ある想いが芽生えたそうです。
“誰もが、どの時期でも安心してまた帰ってこられるお店が町にあるのは、とても大事なことだ。そんなお店を自分も守っていきたい。”
チーフとしてホールをメインに担当し、
ご両親の背中を見ながら、
自分なりの役割を見出していかれました。
「父の料理技術は、この地域の誰にも負けないと胸を張って言えます。母は昔ホテルでサービス業務の経験があり、接客が非常に上手なので、それを居心地よく思ってくださるお客様も多かったです。」
「そんな二人のポテンシャルを最大限に引き出し、料理やサービスの質を高めることが僕の役割なのではないかと思うようになりました。それが両親と一緒に事業をやっていく意義なのかなと。」
家業に合流し3年経った時のこと。
お店で提供していたドレッシングが評判を呼び、
大崎町のふるさと納税の商品として販売しないかと声がかかったのです。
「今後、町の飲食業として生き残りを模索していたこと。そして、故郷でもある大崎町に恩返しをしたいと思っていたこと。この2つが重なり、サザンクロスの次のステージとして、ふるさと納税にチャレンジすることにしました。」
“この人と一緒なら…”と思ってもらえる空気感を
大崎町はふるさと納税において
平成27年度には全国4位の寄附額を集め、
マンゴーやパッションフルーツ、鰻等、
食材の宝庫といわれる町ならではの返礼品が人気です。
寄附者の割合として女性が多いことや
返礼品としてスイーツがないことに目をつけ、商品開発に取り組むことにしたのだとか。
そこで生まれた商品が『シェフの魔法のアイスプリン “カタラーナ”』。
作りたてと同じ味わいのプリンを全国へ届けるため冷凍での配送を考え、試行錯誤を繰り返し、解凍の過程で変化する食感を楽しめるスイーツになりました。
「最初は父に反対されましたし、本当に売れるかどうか不安の中でのスタートでした。容器や材料といったものも自分なりに投資し、妥協せずに商品開発を進めていきました。」
「嬉しいことに注文がくるようになり、今でも人気の商品になっています。少しずつ、容器やラベル、箱、カタログなどを改良し、今のカタチにしていきました。ファンを徐々に増やしつつ、自分の無理のない範囲でブラッシュアップさせていったからこそ、ずっと続けることができたのだと思います。」
ふるさと納税の取り組みを通し、
今まで以上に町を知るきっかけになったといいます。
「行政や事業者の皆さんとチームを組み、県外へPRしに行くと、お客様に町のことを色々と聞かれます。それをちゃんと説明できないと興味を持っていただくのは難しいと感じました。」
「完璧に答えられるように、ふるさと納税の制度や町のことを細かく勉強しました。それが町のことを一番知るきっかけになったと思います。」
「町の文脈を掬い上げるからこそ、新しい商品が生まれ、チームの連帯感が増しました。本当の意味での町の特産品が出てきたと思っています。」
「地域での面白い広がりにつなげるために必要なのは“この人と一緒にやりたい”という空気感をつくることです。どんなに効率が悪くても、動き続ける人こそが人の心を動かすのではないかと。」
「それは地域を越えても同じです。商売上はライバルかもしれない。でも、困りごとをお互いの得意なことで解決できれば、さらに予想もできない面白い展開が出てきます。そこの見極めをしつつ、実現に向けて話を広げていくのも僕の役割だと思うようになってきました。」
理屈じゃない動きが新しい文化を醸し出す
ここ3年程は飲食業以外にも2つ取り組まれています。
まず一つが東串良町にある山中醤油株式会社の取締役です。
2021年2月に設立され、デザインとアップサイクルを軸に醤油文化の発信をされています。
「大隅半島の観光に関する集まりで代表の村山さんと知り合いました。何度か話をしているうちに意気投合するようになって。彼が当時勤めていた会社が醤油事業を停止したのを機に、一緒に新会社を立ち上げることにしたんです。」
「新型コロナウイルスで人の行き来が制限された時期に、錦江町と大崎町の特産品フェア(※3)を開催しました。周りからは“無理だよ、できないよ!”と言われる中、提案してから当日までたった2週間の短期間で、ほぼ無理やり押し通すカタチで開催したんです。」
「事業停止し使われなくなった醤油屋の道具を会場へ持っていき、村山さんや他のメンバーと夜遅くまで打ち合わせし、多くの人に見てもらえるようなパフォーマンスを考えました。僕は元々醤油屋さんではないけど、有言実行する姿を評価してくれたのか、取締役として声をかけてくれたんだと思います。」
(※3)2020年から錦江町と大崎町がお互いの特産品を展示・販売するイベントを開催していた。2021年春は、東串良町の事業者も出張するカタチで開催。
もう一つはコミュニティFM『FMおおさき』のパーソナリティー。
週に3回ほど、1時間の生放送番組を担当し、大崎町の情報を幅広く発信されています。
「パーソナリティになる前に外郎売り(※4)を完璧に話せないといけませんでした。覚えるのは大変でしたが、そのおかげもあり、今では声が通り、滑舌も良くなりました。講師や催事の際に役立っています。」
「飲食業とは違う仕事をすることによって、今までにない視点で町のことを知れますし、発信の仕方も勉強するようになりました。町の新しい情報にもアンテナを張るようになったと思います。」
「一つの言葉や物事でも、一人ひとり捉え方が違います。信頼する仲間が増えてきたからこそ、状況に応じて、いろんな発信ができるようになったのは今の僕の強みだと感じています。」
「実は、学生時代は発酵について学びたかったんです。結局、それは叶いませんでしたが、まわり巡り、醤油屋とコミュニティFMの仕事を通して、いろんな意味で“醸す”につながって面白いです。」
「鹿児島弁で“なこよか ひっとべ” (※5)という言葉があります。その意味のとおり、理屈どうこうではなく、思い立ったら動くことを大事にしています。」
(※4) 歌舞伎演目の一つ。役者に必要な発生・滑舌を鍛えるための要素が満載なため、昔から教材として利用されている。
(※5) 薩摩郷中教育の教え。迷ったら立ち止まっているより、結果を恐れず行動してみろ、という意味がある。
つながりが生み出すローカルの面白さ
大崎町に戻ってから、
どんな状況でも、どんな手段でも、
まずは動くから始まり、そこから人を巻き込み
実現できることが増えてきたように思えます。
坂元さんにとって
多岐に動き続ける中での気づきを教えてくれました。
「最近は出水や阿久根とのつながりも濃くなってきて、この1~2年で何度も足を運んでいます。実際に現地の風土に触れることで、その町の良さもわかるし“文化や人が違えど、同じ鹿児島なんだ”と感じるようになってきました。」
「“ご飯が美味しい、景色が綺麗”は地方の良さでありつつも、それだけだと他のまちと比べようがありません。最終的には人になってくると思うんです。」
「それが目的地になるようなポイントをつくり、連絡綱のようになっていけば“ローカルって、本当に面白い”と言える土壌が生まれてくるかなと。」
一見つながりのなさそうなことでも、
自分の考え次第では、一つの道となる。
坂元さんの今まで起こしてきた行動は
そんなことを教えてくれているように感じます。
最後に今後の展望について伺いました。
「恥ずかしがることが、一番恥ずかしい。そう思っています。20~30代の僕だったら、カッコばかり気にしていましたが、今は違います。カッコ悪く見えても、誰かのために突き進んだ先に目に見えないカッコよさがあると知ったからこそ、実現できることも増えてきました。」
「これから僕たちよりも若い世代の巻き込みも大事になってきます。今までの学びも活かしつつ“どのように巻き込んでいくか”を意識していきたいです。」
「最後まで諦めなければゴールは絶対にあります。地方が元気になるのは人とのつながりが一番です。それらを掛け合わせることで、理屈では導けない答えとなり、僕自身や関わる人にとっても、ワクワクする未来につながっていくと思います。」
屋号 | カフェ・ド・グリル・サザンクロス大崎 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県曽於郡大崎町永吉8155-2 |
備考 | ●SNS ●シェフの魔法のアイスプリン ●FMおおさき ●山中醤油株式会社 ●大崎町ふるさと納税 |