【移住者インタビュー】バレエを通じて自分を磨き、新たな世界と出会ってほしい/ミガクバレエ 大場めぐ美さん
インタビュー
さまざまな視点で美しさを学び、自分を磨くことをテーマとしたバレエ教室〈migaku Ballet(ミガクバレエ)〉。4歳の頃からバレエを始め、現在は指導者として活躍する大場めぐ美さんに、バレエの奥深さと山形を拠点にしながらその魅力を発信することについて、お話をうかがいました。
幼少期の出会い、コンクール出場、海外留学。
一度は離れたものの、再び戻ってきたバレエ人生
山形市内のバレエ教室〈ミガクバレエ〉を主宰する大場めぐ美さん。子どもから大人まで幅広く、現在は80人もの生徒にバレエを教えています。教室は今年で5年目を迎え、生徒のコンクールでの受賞歴も多数。2年に1度は山形市民会館で教室の発表会も開催しています。
「講師は私一人ですが、ありがたいことにたくさんの生徒さんが通ってくださっています。年齢層でいうと、3歳の小さなお子様から60代の大人の方まで。クラスはレベルに合わせた6つに分かれていて、パーソナルレッスンなども行っています」
山形出身のお父様と東京出身のお母様のもと、幼い頃を東京で過ごした大場さん。バレエとの出会いは4歳のころ。あるとき両親に連れられて、ミュージカルの公演を観に行ったときのこと。
「両親がいうには、観終わったあとに私が舞台のキャストの真似をしながらずっと楽しそうに踊っていたそうなんですよね。バレエは母が小さいころにやりたかったというのもあり、興味があるんだったらスタジオを探してみようということになって、そこから始めたんです」
ちょうどそのころにお父様の仕事の都合もあり、家族全員で山形へ移り住むことに。同じタイミングで習い始めたバレエも、小学校中学年になるとコンクールに出場するようになり、そこからは本格的なバレエ漬けの日々。その後も継続的にレッスンに打ち込み、高校卒業後は神奈川にある昭和音楽芸術学院のバレエ科に入学します。
「そこで出会った先生方にたいへんお世話になり、ロンドンに短期留学することになったんです。とても刺激的で楽しい2年間でした。帰国後は、東京を拠点にしながらミュージカルのダンサーやお芝居、マナー講師や化粧品ブランドの美容部員などいろいろな仕事をしていました。それまで私はバレエのことしか知らなかったので、違う世界も見てみようと思ったんです」
さまざまな経験をしながらも、いよいよ将来どうしていくべきかと考えるようになったという大場さん。そんなあるとき、バレエ講師を探しているという連絡があり、再びバレエの道へ。2015年に指導者としてのキャリアをスタートさせました。教室で担当する生徒も次第に増えていき、自身のスタジオを構えようかと考えていた矢先、父・正仁さんが急逝。突然の出来事でした。その後、大場さんは2019年5月に山形へUターンすることになります。
「それまで山形へ戻ることを考えたことはなかったのですが、当時は母のことも心配で、寄り添ってあげたかったという気持ちが強かったんですよね。ただ戻ってきてからは、私自身も家族に支えられています。父のことがきっかけで『大場家集合!』みたいになったのは、結果的に良かったのかなと思っています」
バレリーナへの道だけがすべてじゃない
多様な視点で「楽しいバレエ」を提案
「集中しなさい、今はバレエのこと以外考えない」
生徒たちの背筋がスッと伸び、ピンと張り詰めるスタジオの空気。
指導者として、自分は厳しいほうだと話す大場さん。そのぶん自らも手本となれるような意識を保つようにしているそうです。バレエは美しく在らねばならない。髪の結い方から身だしなみ、言葉遣いやものの扱い方まで細かく注意する一方で、ストイックすぎず、ゆるすぎず。レッスン中は親しみやすい言葉を投げかける場面も。
「うん、いい背中!」
「はい、おしり出さないよ〜」
「よし、今度はおなかめっちゃ締めて〜」
ミガクバレエでは、世界で通用するような技術を教え、将来バレエダンサーとして活躍するための育成を目標にしてはいるものの、根底の部分で伝えたいのは「楽しいバレエ」。日々、夢に向かって練習を重ねる人は多いものの、バレエの世界は厳しいのが現実で、プロのバレエダンサーになれる人はほんの一握り。だからこそバレリーナになることだけに捉われずに、バレエというものを通じてどんどん自分の興味のあることを見出していってほしい。そんなふうに話します。
「とはいいつつも、私自身がバレエを続けるなかで1番楽しくなってきたのはコンクールに挑戦するようになった頃から。壁にぶつかっても努力することで変わっていく自分に出会えたりとか、目標をクリアすることで次の目標ができたり、がんばったぶんだけ結果につながったりもしますからね。だから上を目指すバレエももちろん楽しいですよ。
ただ、純粋にバレエが好きなら道はひとつだけではありません。私のように指導者になってもいいし、舞台でのメイクに興味を持ったらメイクアップアーティストを目指すのもいいでしょう。それに体づくりをするためのトレーナーや、トゥシューズを作る職人さんになる道だってあるかもしれない。あくまでもバレエを起点にしながら、いろんな人生の選択肢と出会ってほしいと考えています。ミガクバレエを通じて、いろんな世界に飛び込んでいける人を育てたいという思いがあります」
県外に行かずとも本物にふれられる機会を
山形からバレエの魅力を発信していきたい
自然光が差し込む明るいスタジオで、バレエのレッスンに励む生徒たち。ピアノの音楽が流れると、リズムに合わせて軽快なステップを踏んだり、ゆったりとした動きの振り付けをしたり。レッスンが始まる前とは姿勢や表情も違い、踊っているときの一挙一動がエレガント。幼いながらも女性ならではの繊細さと美しさを感じます。
「バレエには500年以上の歴史があり、貴族たちが嗜む教養がはじまりなんですね。バレエというとフランスのイメージがあると思うんですが、イタリアが発祥で、その後フランスで大きく発展し成長していくんです。基本的なポジションやステップなどもこのときに生まれました。そこからロシアへと渡り、現代の形になっていった流れがあるんです」
大場さんには、山形を拠点としたバレエの魅力を発信したいという大きな目標があります。それは、自身の学生時代の経験に基づいた理由と、山形のバレエ文化をもっと活性化させたいという思いがあるから。
「私にとって大きすぎる夢なんですけど、将来いつか、山形の人たちで山形にまつわるものを取り入れたバレエの舞台をしたいと思っているんです。それこそ会場はやまぎん県民ホールで、審査員には市長さんをお招きして、公演チケットも街中のお店で購入できるようにしたり……といったように。夢は膨らみます(笑)。山形を拠点に、山形の街と共にあるバレエというのを発信してみたいんです」
バレエの技術を習得したいと思ったとき、高校生のころは週末になると県外へ出て練習していたという大場さん。本物にふれたい、学びたいときは結局、山形を出ていかなければいけないということに危機感を感じていたといいます。
このことは、バレエに限ったことではありません。こういった状況が続けば、いいものはどんどん外へ出ていってしまう。それならば逆の発想で、山形にしかないものや山形でしかできないことがあれば、県外から人がやってくる理由や流れが生まれるのではないか。そんなふうに考えているのです。
「山形を目がけてやってきてもらうようなシステムを作りたいんです。バレエ人口を増やすこともそうですけど、バレエに興味がある人を増やして観にきてくださる人が増えることで、山形のシーンも活性化していくんじゃないかと思っています。映画祭や芸術祭じゃないですけれど、今年はバレエ公演がある年だよね、みたいなひとつの話題を生み出せるような、山形から新たな文化を創造していけたらいいですね」
Data
migaku ballet(ミガクバレエ)
http://migaku.tokyo/index.html
Instagram:@megu_mi_gaku_ballet
写真:伊藤美香子
文:井上春香