山形移住者インタビュー /彫刻家・外丸治さんの古民家暮らし
インタビュー
山形市内の西部、のどかな田園風景が広がるエリアに佇む築140年の古民家。そこで暮らしているのが、彫刻家の外丸治(とまる おさむ)さんです。
埼玉に生まれ群馬で育ったという外丸さんが山形で暮らしはじめた最初のきっかけは、1999年、東北芸術工科大学へ進学したことでした。大学卒業後は山形を離れ、宮城や地元の群馬で過ごしてきたそうですが、2020年からふたたび山形の地に戻り、古民家での暮らしをはじめたのだそう。
外丸さんはなぜ山形の地に戻って古民家に暮らし、今なにを想っているのか、お話を伺います。
===群馬で過ごす中で、大学進学の際、なぜ山形の地を選んだのでしょう。
外丸さん:東北芸術工科大学(以後、芸工大)を選んだのは、芸術を学び、感性を育むには、自然のゆたかな環境が必要だと考えていたからです。自然のゆたかな地域にある美大は西日本にもありますが、東北という土地に強く惹かれるものがありました。母が青森出身ということも影響があるのかもしれません。
大学を卒業したあとは、宮城県で就職し、石材を扱う職人として働きました。その後は地元である群馬に戻り、大工をやったり創作活動をしていましたが、そうした日々のなかでも、山形への想いがずっとあったんです。芸工大を卒業してからも山形に残っている仲間もいましたし、仕事や展示会のために山形を訪れるたびに「やっぱりいいな、楽しいな」と感じていました。
山形への気持ちはどんどんふくらみ、山形で暮らすための家を探すことにしたんです。
===この素敵な古民家を住まいとして選ばれたのは、どのような理由でしょう。
外丸さん:私が探したのは一般的なアパートや戸建ではなく、古民家でした。かつて芸工大に通っていたころに借りた住まいも古民家だったんです。
古民家は現代的な家と違って、外との境目があいまいなところがあるんです。たとえば鳥や虫の鳴き声が聴こえてきたり、風や雨の音がゆるやかに家の中に入ってきたりと、とても居心地が良くて。それに古民家は大工さんの手仕事でできていて、人の良心がこもっている。いずれは終の棲家として古民家で暮らしたい、と思っていました。
だいたい40軒くらいは見たんですが、この古民家には一目惚れしたんです。
この家は使用している材料がすばらしくて。杉をメインに、太くて大きい欅の梁や柱などもある贅沢なつくりです。大工さんはすごく気合いを入れてつくられたのだろうなと思いましたし、持ち主だった方もこの家を大切にされてきたのだろうと思いました。
母屋とつながっているお蔵では、展示会を行ったりしています。以前は10日間の展示期間中に250人以上もの方が来てくださいました。山形市の郊外にあるのに大勢の方に来ていただけたのもうれしかったです。
===古民家にご自身で色々と手をかけていらっしゃいますね。
外丸さん:蔵のほうは畳を張り替えて照明を取り付けたくらいで、元々の佇まいを活かしています。一方で私が暮らす母屋は、DIYをしたり色々と手を加えています。
改装するときに業者さんに頼めば早く仕上がるけれど、DIYというのは一気にできないことがかえって良かったりもする。暮らしていく中でより良いアイデアが出ることもありますから。
ここで暮らしはじめて最初のころは床がない部屋もありましたし、半年くらい風呂がなかった時期もあり、家の中なのに雪が降ってきたりもしました(笑)でも、だからこそ、「どうしたらより良い暮らしになるか」ということを考えさせられることになるので、この家に鍛えてもらっているんです。
それに、古民家で作られる自然素材は劣化していくものではなく、育っていき、味わいとして変化していくんです。この古民家とともに、手づくりしながら暮らせる可能性を自分の手で実践していきたいです。
===玄関を入ってすぐ、大きなアイランドキッチンがあるのも面白いですね。
外丸さん:私の暮らしの中では、食べることも大切なテーマです。毎日のことですし、命をいただくことですから。
キッチンはいただく食材たちと私たちが同じ生き物として接点を持ち、交われる場所なので、キッチンは特に大切にしたいという想いがありました。開放的で使いやすく、もともとある梁を活かした間取りにしたくて、たくさん考えました。このアイランドキッチンは自分で見つけたアウトレット品で、キッチンの壁のタイルも自分で張りました。
最近ハマっているのは「三五八(さごはち)漬け」。お魚やお肉を漬け込んだり、野菜と一緒に炒めていただいています。食材は、蔵王の産直「ぐっと山形」や、山形市内のスーパー「moh’z」あたりを利用することが多いですね。山形は季節ごとの食材が豊富でおいしいのが魅力的だと思います。
今はお蔵で個展をひらいたりもしていますが、今後はキッチンで食にまつわるイベントもしてみたいと考えています。
それから、芸工大に在学中していた6年間の間に、心惹かれていた伝統的な建物がいくつか失われていったのが悲しくて…。この家が古民家や伝統的な建物の良さを見直すきっかけとなる場所にもなってほしいですね。
理想の家をつくっていくことは、こだわりだすとキリがないです。でも、だからといって妥協もしたくなくて。
どうしたら自分が思い描く理想の暮らしを実現できるのか、工夫していく過程も楽しみながら日々を営んでいきたいです。
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外丸治さんInstagram
写真:布施果歩(STROBELIGHT)
文:屋宜 美奈子