【北九州】まちの活性化につなげたい! Z世代の視点で編集した「くろさきマップ」/九州ポリテクカレッジ
インタビュー
この日訪ねたのは、北九州市小倉南区にある九州職業能力開発大学校〔九州ポリテクカレッジ〕。この春卒業を迎える建築科中山ゼミの学生4人の卒業制作「くろさきマップ」が完成したという知らせを受け、話を伺いに行ってきました。
建築の専門知識と技術を2年間かけて実践的に学んできた彼ら。その集大成となる卒業制作として取り組んだのは、北九州市の副都心である八幡西区黒崎地区のマップを制作することでした。
「あまり行ったことがなかった」という黒崎というまちの魅力を自分たちの目線で見つけ出し、同世代に伝えることをテーマに取り組んだこのマップは、Z世代と呼ばれる彼らの等身大の視点と建築科の学生らしさがあふれた仕上がりでした。
黒崎というまちを歩く面白さを伝えたい
――卒業制作に「くろさきマップ」を制作しようと思ったきっかけを教えてください。
仲田光汰さん:僕はこのメンバーの中で唯一の北九州市出身者で、就職も北九州市に決まったので、卒業制作でも北九州市に関わることをやりたかったんです。先生から、去年卒業した先輩が作ったマップを見せてもらって、自分たちもやってみたいと思いました。
黒崎を選んだのは、小倉に継ぐ第2の都市だということと、賑わいが少なくなっているという課題があったから。このマップを通じてまちの活性化につながればいいなという思いがありました。
高嶌莉恵さん:私たちZ世代が、同じZ世代に向けたマップを作ることが、いちばん自分たちらしいものができるんじゃないかと思いました。「黒崎ってこういうまちだよ」ということが伝わるといいなと思っています。
――マップの制作はどのように進めていったのですか?
福川翔平さん:まずは黒崎というまちの歴史や、「北九州市都市景観賞」を受賞した建築について調べました。そのあとは実際にまちを歩いて、自分たちなりに気になったお店に行ったりしました。
北九州市都市景観賞は、北九州市が個性的で魅力のある都市景観に寄与した建築物やまちなみ、屋外広告物などを表彰しているものなのですが、マップのエリア内にある受賞作品「株式会社安川電機」と「黒崎ひびしんホール周辺」は、実際に現地に行って見学をしたり写真を撮ったりしました。
仲田さん:そのほかにも黒崎駅から全国に向け貨物列車で輸送される「世界に誇る150mレールの出荷」の景観が北九州市都市景観賞に選ばれていることを知って、そんな大きなレールを生産する工場があることも初めて知ることができました。
福川さん:マップに掲載しているスポットは16箇所ですが、実際にはいいところも悪いところも含め、130スポットくらいをピックアップしてセレクトしました。「キャプション評価法」という景観調査などで使われる手法を使って、どんなところに注目したか、何を感じたかを文章にしてスポットを集めていきました。
――実際に黒崎のまちを調査して感じたこと、新たに発見したことはどんなことでしたか?
上村妃向さん:駅の北側には工業地帯が広がっていて、南側には商店街があります。商店街は若い世代が好むようなお店は少なくて、むしろ、昔からそこに住んできた人たちで形成された場所だなって感じました。
仲田さん:商店街が放射状に広がっているのが特徴で、都市計画をする上で意図的にその形にしたようでした。こういう形状の街路網が商業地域にあるのは日本では珍しいらしいんです。住宅街には多いらしいですけど。
高嶌さん:発見したといえば、商店街で見つけた七福神ですね。現地調査で歩いていてたまたま見つけて、7体全部を見つけようと探したんですが、最後の1体だけは見つけられなかった。商店街の角とか店のそばにあったり。台車に乗せられた七福神もいたので、移動式かもしれません。そんな意外性のあるものを見つけるおもしろさもありました。
福川さん:マップには載せていないんですけど、ライオン像の近くに鳥居と小さな神社があって、ちゃんとお供えもされていました。商店街の中にもそういう場所があって、地域の人に大切にされているんだなと感じました。なにげない商店街だけどよく観察すれば発見があるので、歩きながら楽しんでもらえたらいいなと思います。
高嶌さん:印象に残っているのは「氷菓子屋KOMARU」。目の前にある「トランポリンパークとびくる」には以前行ったことがあったけど、KOMARUは今回のマップ調査で歩いてみて初めて知りました。店内には写真を撮るスポットもあって、Z世代は絶対好きな写真映えするお店です。アイスもおいしくておすすめです。
同世代にちゃんと届くように細部にもこだわりが
――ターゲットを「Z世代」に絞ったことで、特にこだわったことはありますか?
上村さん:アーケードから1本入った暗めの細い路地など「ちょっと怖いな」と思うようなところはあえて掲載候補から外しました。あくまでも同世代にとって魅力的なところ、安心して紹介できるところ、黒崎をいいと思えるところを厳選しました。
仲田さん:Z世代に向けたマップなので、紹介文の言葉の使い方はなるべく柔らかく、親近感を持てるようにみんなで考えました。なるべく堅苦しくならないように意識して、フォント(書体)選びにもかなり時間をかけました。
高嶌さん:最終的に丸い感じでかわいいフォントを選びました。独特なフォントだと読みにくいこともあるけど、これは比較的読みやすいし、堅苦しくなくてよかったと思います。
上村さん:表紙の写真もかなり検討したよね。駅前のモニュメントとか候補が何枚かあって。色々検討した結果、明るくて商店街らしいものを選びました。
仲田さん:表紙の写真は僕が撮りました。結構お気に入りです。
全員:これ、むっちゃいいよね!
仲田さん:商店街というのも伝わりやすいし、飾りのガーランドがカラフルで明るさも感じられてよかったです。人が少ないのは本来まちにとってはいいことではないんですけど、「商店街を見せる」という意味では人が少なくて全体がよく見えてよかったです。
高嶌さん:私は全体マップの担当だったんですけど、最初はスポットの番号の振り方も感覚でつけていたけど、先生から「見る人の目の流れを考えて番号を振ったほうがいい」とアドバイスをもらって、できるだけ見やすく使いやすく気を配りました。写真のサイズも道が見えなくならないよう心がけました。
地図が苦手な人でもわかりやすいよう立体模型も制作
――紙のマップと合わせて模型をつくったねらいはなんですか?
仲田さん:平面のマップが苦手な人に対して、模型で立体的に見せることでより興味を持ってもらいたいという意図がありました。
マップに掲載しているスポットのピンを模型と連動させて、ちょっとでもわかりやすく、黒崎の魅力が伝わるように作りました。授業の中では設計した家の模型をスチレンボードで作ったことはあったけど、まち規模での大掛かりな模型づくりは初めての作業でした。
上村さん:模型制作は主に私が担当しました。建物が密集しているところはビルごとに小さなパーツを密に並べました。Googleマップも参考にしながらの細かくてすごく大変な作業だったけど、実際のまちに忠実に、細かく作ったつもりです。
白とグレーの色の違いは、1色だと見づらいことと、明るいイメージにしたくて2色にしました。
仲田さん: 実際に模型をつくってみて、密集しているエリアの防災面はけっこう気になりましたね。
高嶌さん:最近、小倉の商店街でも火災が起きたけど、隣同士が近いから1軒燃えると燃え移って危ない。密集地の課題だと思いました。
――2月に行われた「北九州市都市景観賞景観講座・バスツアー」で制作したマップと模型を発表したそうですね。
仲田さん:模型も交えてマップの紹介と制作意図、工程などを紹介させてもらいました。
高嶌さん:聞いてくださった方からは、ただ「マップを作りました」だけではなく、実際にそれを使ってまち歩きをした人の意見や感想も聞いてみたい、という意見をいただきました。私たちはもう卒業するのでそこまではできないのですが、できれば後輩たちに引き継いでもらって、その結果も知りたいなと思いました。
建築科で学んだからこそ気づけたことも
――2年間の学習の成果として制作した「くろさきマップ」。ポリテクカレッジで学んだことが活かせたと思うことなどはありましたか?
高嶌さん:「アベンジャーズ」というお店を掲載しているのですが、そこのトイレのドアが、男性トイレは引き戸で女性トイレは開き戸で隣りあっていて、ドアを開けるタイミングが合うと鉢合わせてしまうつくりだったんです。この設計はどうにかならなかったのかなーと思ったのは、建築目線が活かせた点だと思います。
仲田さん:またトイレの話なんですけど(笑)、僕はひびしんホールの近くにある公衆トイレをみんなに推してて。めちゃくちゃ光の取り入れ方が綺麗なんですよ。建築を学び始めてから、建築物への光の取り入れ方とかを意識するようになりましたね。
――このマップをどんなふうに活用してほしいと思いますか?
福川さん:自分たちの目線で「いいな」と思った場所を載せたので、実際に訪れて、黒崎の魅力を知ってもらえたら嬉しいです。
現地調査の中で、古くから商店街でお店をしている人に話を聞いたりしたんですけど、“人が優しい”というのが印象的でした。人の優しさは商店街の魅力でもあるので、これからもそのよさが続いていったらいいなと思いました。
上村さん:マップに載せられたのは16スポットしかないんですけど、4人でまちを歩いてみて、いいところもこれ以上にいっぱいありました。掲載スポットに行く途中の周辺も、よく見て歩いてほしいですね。
ほかにもいっぱいいいお店とか建物とかデザインも見つけられると思います。マップを参考に実際に黒崎に行って、まちを見てほしいなと思います。
この「くろさきマップ」は学内で配布されるほか、オープンキャンパスなどで学生の成果物として配られる予定だそうです。
制作を指導したゼミの中山先生は、「今年は同世代に向けたエリアマップということで、物件や写真のピックアップも学生たちに任せました。これがZ世代向けの、彼らにしかできなかったマップ。完成まで持っていけたことが、彼らががんばってきた成果だと思います。
つくり始めた2年生の初めの頃は、作業やスケジュールを立てることがなかなかうまくできなかったですが、就職先が決まり、夏ぐらいからは人が変わったように真面目に取り組むようになりました。まだまだ、考えを言葉にするのが苦手なところもあるとは思うけれど、これから社会に出てもしっかりやっていける子たちになれたのかなと安心しています」と笑顔で話してくださいました。
卒業後はそれぞれ就職をしていく彼ら。ポリテクカレッジで学んだ2年間と、卒業制作で経験したことを活かして、新しい世界でも活躍してくれることと思います。
(取材/文:岩井紀子 写真:清原裕也)
備考 |
●2023年度 / Z世代の建築学生が作った「くろさきマップ」 九州職業能力開発大学校〔九州ポリテクカレッジ〕のサイトよりご覧いただけます。 ●北九州市都市景観賞 ●建築・景観冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU-時代で建築をめぐる-」
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