【湘南で働くということ】トレジャーフット代表取締役社長 田中 祐樹さん
インタビュー
海や山の豊かな自然に話題のお店など観光を「楽しむまち」であり、その環境に惹かれ「住むまち」として住居を構える方も多い湘南エリア。ではそこを「働くまち」として選んだ方々は一体何に惹かれ、何を思っているのでしょうか。
今回は東京都渋谷区から鎌倉市に本社を移され、 ご自身も逗子市に移住された株式会社トレジャーフット代表取締役社長の田中 祐樹さんに鎌倉で事業を行うことについてお話を伺いました。
僕たち「トレジャーフット」は、2022年の12月に鎌倉に本社を移しました。それまでは渋谷にオフィスがあったのですが、コロナ禍で僕自身が逗子市に引っ越し、渋谷のオフィスへ出社する機会が減りました。そうした中で、東京の便利すぎるがゆえの違和感を現実的に感じるようになっていきました。
本社を湘南地域に移すことを社員みんなに相談してみると、ほぼ全員「構わない、むしろ賛成だ」と言ってくれました。場所としては湘南地域にするという大体の検討はあったのですが、最終的な決め手になったのは、現在の鎌倉市大町のこの物件と出会えたからでした。東京よりも家賃が安価で、屋上が使えて、駐車場も使えて。物件は鎌倉R不動産さんにご紹介していただき、大変お世話になりました。当初、このビルの2階3階は普通の居住用の内装だったのですが、事業用途でお借りするにあたり、中の改装工事を割と自由に行わせていただきました。貸主さんにも、事務所として生まれ変わった様子はご覧いただき、とても嬉しそうにしてくれました。
実際に移住して、オフィスも移転して。この土地の持っている文化や空気の良さは素敵だなと実感しています。名刺にも鎌倉本社と書くのですが、そうなると神奈川県の会社ではなく、鎌倉市の会社だと相手方に言ってもらえます。プライベートでも逗子や鎌倉というと、 知人も小旅行も兼ねて訪ねてきてくれます。 この土地を見て、いいと言ってくれる。鎌倉は人が行きたいと思う場所なのだと過ごす中で実感しています。一方で、自分が東京に出ようと思っても電車で1時間かからずに一本でいける。そこもやはり重要なポイントかなと思います。
当社では、「新しい働き方を創造し、地場産業に貢献する」という経営理念を掲げています。それを体現すべく、オフィスが移ったのをきっかけに湘南に移り住んだ社員もいます。うちはフルリモート・フレックスタイム制で出勤義務を無くしているので、社員たちも自由な働き方を進んで行っていて、中には移住先で副業で漁師をしている社員もいます。ミーティング前の雑談の中で「今朝、桜エビを獲って」なんて話しもしていました(笑)。今は正社員10名ぐらい。アルバイトも入れたら20名弱が働いてくれています。
もちろん、鎌倉市に移転していいことだけではなくて。リアルな部分を言うと、補助金などの行政制度には地域のギャップを感じました。以前本社があった渋谷区は特に会社多いエリアだったので補助の種類も多く、尚更ギャップを感じたのかもしれません。実際に移転してから気がついた点も多くありました。
仕事の関係でもう少しお話しすると、東京は地域活性の仕事をするのにある種、便利な場所でした。いい意味で無色で、東京の会社はどこにも接合可能な感じです。東京の会社が各地方に営業行く時は特に何も言われないんですよね。ですが、今回鎌倉に引っ越したことで、僕たちにもいい意味で鎌倉の色がついてくれたなと感じています。鎌倉から来ましたと言うと、「いいところですよね」とポジティブに言ってもらえることが多く、非常にありがたいことだと思っています。
暮らしていく中で感じるのは、働くことと生活することが近いひとが多いということ。平日仕事をしている中でも、街中で子供が同じ保育園に通っている親御さんとすれ違うことがあったり、仕事とプライベートとを別々とするのではなく、生活としてどちらもこのまちを基点に過ごしているという方が多いんです。湘南で生まれ育った人ももちろんいるけれど、自分で湘南を選択して住んでる人が多い。そうなると価値観も近い人が集まるように思います。例えば鎌倉にいると、スーツ着てる方はあまりいない気がします。肩肘張らずにありのままで暮らしていけるまちだなと感じるのです。新規の商談などで、初めて鎌倉にお越しいただく方は最初はバシッとスーツで決めてくるけれど、次回からはサンダルで来るなんて方もいます。
東京だと人が多すぎるから、どこか人間関係が希薄になりがちな気がしますが、こちらに来てから、近所の方に獲れたての野菜を譲っていただくことがありました。東京からたった45分なのに、 すごく地に足がついた暮らしという感じが素敵だなと思っています。自分たちで選択してこのエリアに住んでいるからか、コミュニケーションが生まれやすいのかもしれないですね。それでいて、強すぎず緩やかに繋がっている感覚が心地良いなと思います。
僕には上が6歳、下3歳。2人子供がいますが、子供たちが自然の中で遊べて、単純に楽しそうで。都内で子育てしている時はどうしても窮屈な部分があったように思います。もちろん、それぞれのスタイルがあると思いますが、やっぱりのびのびさせたいという思いがあったので、子供たちの笑顔を見えると引っ越してきてよかったなと思っています。
地域の方とのコミュニケーションといえば、オフィスの近所にある八雲神社では毎年お祭りをやっているのですが、うちのオフィスの駐車場をがちょうどいいところにあるようで、去年のお祭りの時は気がついたらオフィスの駐車場が知らない自転車でいっぱいになっていました。初めての光景に、誰かに貸し出してたっけ? と思いましたが、まあいいかって(笑)。近道になるからと、小学生が通り抜けしていったり。意図せず地域に馴染んでいるところが逆に嬉しくなりました。その後、お祭りの関係の方から「大丈夫でしたか?」と声をかけていただいたんですが。「全然気にしないでくださいよ」と笑い話になりました。
この建物、実は借りる前から駐車場の部分に八雲神社という看板がついてるんです。僕らもオフィスの目印になるからこの看板は取らずにそのままにさせてもらいました。それぐらい僕もいい意味で、気兼ねなくやらせてもらっていると感じています。 もともと住んでいる方と新しくやってくる方とが緩やかに融合できるのもこのまちならではなのかなと思います。
一方で、シビックプライドみたいなものもまちに感じています。お店ひとつとってみても新興した土地だと、どうしてもサービスが優先で、同質的なチェーン店が多くなってしまうけれど、鎌倉はまちに歴史も文化も強くある中で、志向性が高い。だからこそ小さくてこだわりのある店や、ストーリーを感じる直営の店などが多い。そこもすごく面白いなと感じています。
僕自身は逗子に住んで2年ちょっとですが、 ずっと住み続けたいなと思います。焦らず、緩やかに暮らしていきたいですね。
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個人としても、会社の経営者としても鎌倉・逗子という地を選んだ田中さん。良い意味で色のあるまちだからこそ、「働く」を後押ししてくれるのかもしれません。
(インタビュー/写真 山中菜摘)
名称 | 株式会社トレジャーフット |
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業種 | 地場産業特化型の顧問・複業人材マッチングサービス |
URL | |
住所 | 鎌倉市大町一丁目9-22トレジャーフットビル |
アクセス | JR横須賀線「鎌倉」駅徒歩9分 |