【移住者インタビュー】自分のための時間をゆったりと過ごす、七日町の小さな美容室/hair&spa konoha 安部恵美さん
インタビュー
山形市七日町、とんがりビル3階の一番奥の部屋にあるプライベートサロン〈hair&spa konoha〉。カットやカラー、パーマといったメニューのほか、ヘッドスパも人気です。お店を営む安部恵美さんに、今のお仕事やこれから考えていること、働き方や暮らしについてお話をうかがいました。
幼いころの身近な原体験が
将来の道を志すきっかけに
スタイリストでありスパニストの安部恵美(あべ・えみ)さん。3人兄妹の真ん中で4歳までは大阪で過ごし、両親の転勤で群馬へ。学生時代から就職するまでを群馬で過ごします。その後は結婚を機に、旦那さんの実家がある山形へ移住しました。自身のお店をオープンしたのは3年前。店名の「konoha(コノハ)」には、木陰でひと休みするように過ごしてもらいたいという思いが込められています。
「日々の生活に追われていると、一日があっという間に過ぎてしまって、自分の時間がなかなか取れないですよね。ここではゆったりと過ごしていただいて、リフレッシュしてもらえたらと思って。一人でやっているお店なので、お客様に合わせた施術を心がけるようにしています」
親子や友人同士、パートナーと一緒に来店される方や小さな子ども連れの方も多いそうで、アットホームな雰囲気も。他の人を気にせず過ごせるというのもプライベートサロンならではの魅力です。店内は落ち着いた空間で、生花やドライフラワー、グリーンの鉢植えなどさまざまな植物で彩られ、さらには安部さんの明るく親しみやすい人柄も相まって、居心地の良さが生まれています。
「旦那が建築の仕事をしているので、お店の空間についてはいろいろと相談しました。お客様がゆっくりできるようにしたいとか、私の好きなテイストを伝えたりしながら。こだわったのは、大きい鏡を置きたいっていうことですかね。そういうのを元に配置を考えてもらって、床材はこういうのが良いんじゃない?とか、壁の色は真っ白じゃなくて淡いグレーはどうかとか、提案してもらいました」
もともと美容師の仕事に興味があったという安部さんは、幼いころに近所のおばさんが編み込みの仕方を教えてくれたことがきっかけで、ヘアアレンジが好きになったといいます。リカちゃん人形などでお人形遊びをするよりも、人形の髪の毛をさわっているほうが楽しかったのだとか。
「小学生ぐらいのときの記憶なんですけど、母親と一緒に美容室に行くと、ハサミの使い方とかドライヤーの持ち方とか、いつも美容師さんの手の動きばっかり見ていました。だからそのころから美容師という仕事は気になっていたんだと思います」
高校は、3年間で身に付けられるものがあるところへ行きたいという考えから、商業高校へ入学します。卒業後の進路を決めるとき、高校時代の学びを生かした就職先が良いかとも思ったものの、美容師への憧れと興味から群馬県にある美容専門学校に進学。卒業後は地元の美容室に就職しました。
「東京に出ることも考えたんですけど、とりあえず地元の美容学校を出て、そのときまだ行きたいと思ったら行けばいいかなと思って。働くなら規模の大きいチェーンではないところが良かったので、最初は昔ながらの小さな美容室に入りました」
やっぱり、美容師を続けたい。
仕事と家庭と向き合い模索した日々
いくつかの美容室を転々としながら経験を重ね、山形への移住後も市内の美容室に就職したものの、旦那さんとの休日が合わず、いつしかすれ違いの生活に。
「当時はお互いの仕事のペースが合わなかったんですよね。私は平日休みで土日が仕事で、夫は土日休みだけどすごく忙しい職場で。私、結婚してこっちにきたけど、これって何のための生活なんだろう?って思っちゃって。だからまずは一緒に過ごせる時間を作ろうと、美容師の仕事を一旦離れることにしたんです」
そこからは土日休みという働き方を条件に探しながら、調剤薬局の事務に就いたり、洋服の販売員として働いたりしていたそう。美容師の仕事からは既に7年ほど遠ざかっていたそんなあるとき、たまたま日曜が定休日の美容室の求人が目に留まりました。
「美容師自体が嫌になって辞めたわけではないので、できることなら戻りたいとは思ってたんですよ。日曜定休だったら家庭とも両立ができるかなと思って復帰してみたら、久々の現場はすごく楽しかったですね。お客様とのコミュニケーションとか、施術が終わって帰られるときに、ありがとねっていってもらえたときの達成感とか。私はこの仕事が好きなんだなっていうのを再確認できた部分もありました。だから戻ってきて良かったなと思っています」
自分に合った理想の働き方を求めて
立ち止まり、向き合い、考えたこと
konohaをオープンする前までは、フリーランスの美容師として働いていた安部さん。自宅兼店舗のような形で美容室ができたらと考えることはあったものの、明確な時期までは決めていませんでした。一方で、今後の働き方については考えることが多かったのだとか。
「いつか自分のお店ができたらっていうのはあったけど、本当にぼんやりとでしたね。それよりも30代後半に差し掛かったあたりぐらいから、ここでずっと働き続けられるのかな?って思うようになったんです。このまま50、60歳までできるのかなって思ったのと、お店が変わるたびに、新しい環境に合わせられるかなって思ったら、無理だなあって。そんなふうにして一度立ち止まって考えたことも独立のきっかけにはなっているかもしれません」
一人前の美容師になるまでは、知識や技術を覚えることはもちろん、毎日がひとつの積み重ね。安部さんが美容室に就職したてのころは、営業前の朝練はもちろん夜練も当たり前で、日付が変わってから帰宅するといったこともしばしば。そんな中、少しずつお客さんを担当できるようになることが、仕事のやりがいにつながっていきました。
「私はシャンプーをするのが好きだったんですね。美容室での施術の中でお客様が『ああ気持ちよかった』っていってくれるのって、シャンプーのときなんです。そうやってもっと喜んでもらえるものってなんだろう?って思ったときにスパっていうものに興味が湧いて、そこから勉強して資格を取りました」
konohaのヘッドスパメニューはいくつかのコースから選ぶことができるので、そのときどきの気分で施術を受けられるのも嬉しいところ。自分の好みの香りで癒やされるひとときは、日常のあれこれから解放され、リフレッシュするのにも最適です。
暮らしも仕事も前向きに楽しむには
マイペースぐらいがちょうど良い
山形での暮らしは今年で18年目を迎え、現在は旦那さんと2人のお子さんとの4人暮らし。移住したてのころに比べて、家族や身近な人には頼ったり、良い意味で力を抜いて過ごしたりできるようになったといいます。
「旦那もお義母さんも、できないことは協力するよっていってくれるのでありがたいですね。できないときはしょうがないって割り切って、やれるときにやるって感じですかね。家のこともちゃんとやりたいのにどんどん溜まっていくから、たまに掃除ができていなさすぎて、わー!ってなったりします(笑)」
お米や果物など、とにかく食べものがおいしい。ふらっと行ける温泉が街中にあるのがうれしい。優しい人が多い(ような気がする)。日々、感じることはさまざま。冬の山形では、ここで暮らす人たちの勤勉さに驚いたというこんなエピソードも。
「群馬で雪が降ると、仕事もゆっくり来ていいよ、そんなに無理しなくていいからね、ぐらいの感じなんですけど、山形だと『雪なんだから早く起きねば!』みたいな(笑)。仕事に行く前の雪かきって一仕事なのに、当たり前のように粛々とやっていて。こっちの人のそういうところって本当にすごいですよね」
現在はお店の通常営業の傍ら、メイクや着付けの勉強をしているそうで、近々、成人式や結婚式のヘアメイクなども始めたいと考えているとのこと。
「私自身、スキンケアやメイクアップをちゃんと勉強したいっていう気持ちはあったんですけど、今までなかなかそういう機会がなくて。それでやるなら今だと思って、去年の秋から今年の春ぐらいまでの間、講座を受けていました。最終的にはヘアセットとメイク、着付けといったトータルでのスタイリングをご提案したいなと思っています」
縁あってお店を始めることになった
この街の魅力をもっと伝えていきたい
お店を開くなら街中から離れた静かな場所がいい。安部さんは当初、そう考えていました。しかしながら、なかなかそう簡単に希望に合う物件はなく、良さそうなところを見に行ったり、空いているところがないかと自らの足でも探していたそう。
そんなあるとき、安部さんの旦那さんが仕事でとんがりビルに行く用事があり、こちらのビルを管理している会社の方が、空いている部屋があるから良かったら見てみてと教えてくれたといいます。
「実際に見にきてみたら、ビルの奥の方にあって落ち着いた感じの雰囲気ですごく良いなと思って。プライベートサロンなので、ひっそりとできるところを探していたんですよね。街中なのに外の音も気にならないし静かで、それでここに決めたんです。だからすごい偶然でしたよね。旦那がとんがりビルに行かなかったら知らなかったわけですし」
縁あって七日町にお店を構えることになり、お客さんとの日々のコミュニケーションの中で、街の魅力が客観的に見えるようになったと話す安部さん。
「七日町には今、いろんなお店が増えてきていますよね。本当は歩くと素敵なお店がたくさんあるのに、住んでいる人たちがそれを知らないのはちょっともったいないなっていう気もします。山形の人はみんな車移動が中心だから、駐車場を探して停めなきゃいけないっていうハードルもあるのかな。意外と徒歩圏内には小さなお店がいろいろあるんですけどね。
ときどきお客様に、せっかく七日町にきたからパン屋さんに寄って帰るんだとか、気になってたあそこのお店に行こうと思ってる、みたいなことをいってもらえると、七日町にお店を出して良かったのかなとも思ったりします。美容室にきていただいたら、この街で過ごす楽しみも一緒に見つけてもらえたらうれしいですね」
Data
hair&spa konoha(ヘアーアンドスパ コノハ)
住所 山形市七日町2-7-23 とんがりビル3F room5
電話番号 023-666-4712
E-mail : info@konoha-hair.com
営業時間 9:00〜17:00
定休日 不定休
https://www.konoha-hair.com/
写真:渡辺 然(STROBELIGHT)
文:井上春香
協力:山形エリアマネジメント協議会