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Uターン次女の就農日記(7)農家のいっぷく

連載

2024.05.08

2023年4月。山形にUターンした。山形に戻るのは、高校卒業以来。

Uターンするまでは、大学卒業から6年間、公務員として働いてきた。29歳のアラサーにして、脱・公務員からの就農。退職前、周囲からかけられた声の中で多かったのは「頑張ってね」という応援と、「辞めるなんてもったいない!早まるな!」という声。後者は、主に身内や親戚から(笑)。どちらの声もありがたく頂戴して、約10年ぶりに山形に戻ってきた。

2024年4月。Uターンして1年が経った。農家2年目の春。

春の時期の主な作業は、さくらんぼの「芽かき」だ。芽かきは、さくらんぼの芽を減らす作業のことで、文字どおりに芽を一つずつポキポキとかいていく。こうすることで、残った芽に十分な栄養がいき、大きな充実した実がなる。

昨年は、せっかくなっている芽をとってしまうのが、なんとなくもったいなく感じて、こんなに取り除いて本当に十分な収穫量が確保できるんだろうか?とおっかなびっくりに作業をしていた。無論、作業は進まない。花が咲いてしまう前に芽かきを終える必要があるが、全圃場の作業が終わる前に開花してしまい、無念にもタイムアップとなった。

今年こそ全部終わらせるぞ!と意気込んで1人でコツコツと作業を進めていたが、4月に入り20度台の暖かい日が続き、今にも開花してしまうのではないかというぐらい芽が膨らんでいた。

Uターン次女の就農日記(7)農家のいっぷく

Uターン次女の就農日記(7)農家のいっぷく
開花したさくらんぼの花。春の山形は、沿道にこの白い花がよく見受けられる。

花が咲く前に作業を終わらせないと、と土日も休まず畑に向かう。近くの畑では、7〜8人が一斉に1本の木を取り囲んでワイワイガヤガヤと作業する光景を目の当たりにし、羨ましさでいっぱいになる。焦る気持ちをグッと堪えて、1人で黙々と作業していく。

家族経営の我が家は、基本的に父と私の2人で農作業を行っているが、作業が忙しい時などに時折、親戚の人に手伝いに来てもらっている。1人で進めていた芽かきを親戚に手伝ってもらうことになった。

Uターン次女の就農日記(7)農家のいっぷく
桃の花を摘花(てきか)する様子。余分な花を取ることによって、残した花に養分が回るように調整する。

終わらない作業にヤキモキする私にとって、親戚を交えた「いっぷく」の時間が束の間の息抜きとなった。

「いっぷく」は、10時と15時のおやつの時間を意味する。おもてなしの気持ちも込めて、大抵は親戚などが手伝いに来てくれた時にこの「いっぷく」時間があり、1人で作業する時は水分補給くらいですぐ作業に戻ってしまう。

「『いっぷく』するべ〜。」

コンテナを逆さまにして座り、お茶菓子を並べてコーヒーをいただく。晴れた青空の下だととても気持ちが良い。外で作業する農家にとってのご褒美タイムだ。

Uターン次女の就農日記(7)農家のいっぷく
農家によっていっぷくのスタイルは様々。甘いお菓子や煎餅、時にはお漬物が出たりするところも。

親戚から「農家2年目だね」と言われた。そういえば昨年も、やれどもやれども終わりが見えない作業に途方に暮れていたな、と懐かしい気持ちになった。

2年目になって変わったことは、1年の作業をだいたい見通せるようになったことくらいだ。きっと、こうして、毎年焦ったり悩んだりする気持ちを抱えては、目の前の作物に向き合うよりほかはないのかなと思う。

「あんまり無理すんなな!」と隣の畑のおじさんに声をかけてもらったり、「やれるころだけやるしかねえべ」と達観する周りの大先輩たちに自分のちっぽけさを感じる日々。

春になり、畑の景色も一気に色めく。隣の畑が見慣れない若い顔ぶれになったり、畑だったところが更地になったり、同じように見えて、少しずつ変化する風景。来年はどんな想いで、この花々を見られるだろう。

Uターン次女の就農日記(7)農家のいっぷく

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写真:江口大輔
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