【岐阜県・東白川村】誰もが森林の恩恵を享受できる社会へ
インタビュー
2024.06.01
【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
名古屋市内から車を走らせること1時間半ほど。岐阜県東部・東白川村へ。出迎えてくれたのは、森林レンタルサービス「forenta」を立ち上げた、株式会社山共の代表・田口房国さんとスタッフの安江葵さん、小林蒼悟さん。森林活用の可能性を広げる「forenta」のサービスについて話を伺いました。
※「forenta」の詳しいサービス内容は、別記事「山がプライベート空間になる! 森林レンタルサービス『forenta』」をご覧ください。
ドイツで見た光景と芸人のYouTubeにヒントを得てサービスを開発
—「forenta」は森林レンタルという、これまでにない新しい発想のサービスですよね。どういった発想から生まれたのでしょうか?
田口:家業である林業や製材の仕事に長く携わり、どうすればもっと木材を活用してもらえるだろうかという問いを抱える中で、誰もが森林を身近に感じる文化的な下地が必要だという思いから「forenta」を立ち上げました。その発想の起点には、木材研修で訪れたドイツで見た光景があります。
—ドイツで見た光景というのはどういったものですか?
田口:シュヴァルツヴァルトという森林地帯で有名なエリアを訪れたのですが、週末になるとみんな家族や仲間と連れ立って森へ遊びに行くんです。ハイキングをしたり、自転車に乗ったり、バーベキューをしたり、森の中で思い思いの時間を過ごす日常がありました。
日本はこれだけ国土を森林に囲まれていますが、公園に行ったり登山をしたりする以外に山や森に入る習慣はあまりないですよね。ドイツには個人の資産であっても森林の公益性を重視する文化があり、誰もが森林に親しみをもっています。それをうらやましいと思いました。
—そこからなぜ森林をレンタルするという発想になったのでしょうか?
田口:ドイツから帰ってきてしばらくして、日本ではコロナ禍でキャンプブームが起こりました。キャンプ好きで知られる芸人ヒロシのYouTubeが目に留まり、山を購入し、整備されていない自然のままのワイルドキャンプを楽しむ人たちがいることを知りました。
でも、実際は一般の方が山を買って手入れをするのは大変ですし、もしキャンプに飽きて山に通わなくなったら放置された山が増えてしまう。それは地域にとって歓迎できることではありません。それなら、山をレンタルして使ってもらうアイデアはどうだろうと。
そうすれば、利用者は気軽にワイルドキャンプを楽しめて、山林所有者は山から収益を得ることができる。双方にとってメリットのあるサービスになるだろうと考えました。
「forenta」が都市と田舎、人間と自然をつなぐ
—「forenta」は2020年の11月からサービスをスタートしたのですよね。
安江:そうですね。初めは東白川村にある自社林の17区画からレンタルをスタートしました。想定以上にエントリーが殺到し、今では東白川エリアだけで117区画、サービスは北海道から鹿児島まで全国23エリアへ広がりました。
—全国の山で「forenta」のサービスが提供されていますが、どのような事業スキームになっているのでしょうか。
安江:私たちが直接所有・管理しているのは、東白川エリアの117区画のみ。他は各地域の林業関係者や森林所有者と組んでフランチャイズでサービス展開しています。月に一度は各エリアの運営者と定例会をするなどして、課題やノウハウを共有しています。
田口:「forenta」が今後より大きなサービスに発展していくとしても、変わらないのは自然のままの森林を大切にしていくこと。私たちも地域の運営者さんも森林を壊してまで何かしたいとは思っていません。新しいものを開発するのではなく、今あるものを最大限生かしながら、どう楽しく過ごしていただくかを考えています。
—「forenta」は、グッドデザイン賞受賞など数々の評価を受けていますね。
安江:環境を壊すことなく、森林そのものを生かすビジネスモデルを評価いただいています。利用者は野営感あふれる森林空間を手軽に手に入れることができ、いつでも自由に自然の中でリフレッシュするという新しいライフスタイルを得られます。
一方、森林所有者は森林から木材以外の収入を得られます。未整備の森林を貸し出すサービスのため、初期費用やランニングコストはほぼ不要で、手間がかかることもありません。利用者も所有者も双方が森林の恩恵を享受できる仕組みです。
さらに、地域の関係人口創出にも寄与しています。「forenta」の利用者さんは頻繁に森林に通い、地域に愛着をもってくれます。都市居住者に地域の魅力を知ってもらうことは、地域の誇りや自信につながります。
森林活用に特化した新会社「シシガミカンパニー」を設立
—2024年4月には新会社を立ち上げて「forenta」を事業移管されていますが、どのような狙いがあるのでしょうか?
田口:「forenta」で培ってきたノウハウを応用し、さまざまな面から森林の魅力をマネタイズするサービスを展開することを構想し、森林ベンチャー「シシガミカンパニー」を設立しました。
森林資源には多くの可能性があります。特に環境や生物多様性の問題、ウェルビーイングなど、昨今の社会課題に対して、大きな役割を担うポテンシャルをもっています。今後は各分野の専門家や研究機関と組んで、多様なプロジェクトを立ち上げていきます。
—「forenta」及び、「シシガミカンパニー」で実現したいのは、どういったことでしょうか?
田口:まずは、森林が所有者にとってお荷物になっている現状を変えたいですね。森林を相続したけれど活用の仕方もアイデアもなく税金だけ取られてしまうとなると、手放したくなるのは当然かもしれません。木材の価値でしか見られてこなかった森林を多方面からマネタイズすることで、森林は素晴らしい資源なんだという誇りをもってもらいたいです。
さらに言うと、現代はスピードや効率が求められ、五感でものごとを感じづらい時代です。でも、それでは人間は疲れでしまう。自然の中でリラックスして心身ともに癒される機会があれば、社会全体の幸福度はもっと高くなるでしょう。都市部にないものを地域が補完し、誰もが森林の恩恵を享受できる社会を目指しています。
安江:私は東白川村の隣の白川町の出身です。大学卒業後は関東で働いていましたが、自分の生まれ育ったまちで働きたいと思い、戻ってきました。利用者さんに東白川村の森林を楽しんでもらっていることが嬉しいですし、「forenta」や「シシガミカンパニー」の取り組みが、地元の人の自信につながっていったらいいなと思っています。
小林:僕は岐阜市の出身です。林業や森林に携わる人を育成する「県立森林文化アカデミー」で学び、インターンを経て入社しました。森林や森林の副産物には利活用できるものがたくさんあり、まだ発見されていない価値もあるだろうと思っています。「シシガミカンパニー」ではその価値を見出し、森林活用を促進していきます。