愛すべき「ぬた(ずんだ)餅」の世界へようこそ(3)組み合わせと展開
連載
かつて「real local 山形」では、「納豆餅」をテーマにロングトークするという企画を実施したことがありますが、今回お届けするのはその「ぬた(ずんだ)餅」バージョン。
山形市旅篭町にある「餅の星野屋」さんの店主・星野輝彦さんと、real localライターの那須ミノルが、「ぬた(ずんだ)」について語りあった時間の記録、お届けします。
星野:うちの店に買い物に来てくださるおばあさんで、餅なしの「ぬた(ずんだ)」だけ買っていかれる方がいらっしゃいます。気になって「それ、どうするんですか?」とお聞きしたら「ナスと和える」っておっしゃるんです。そういう食べ方もあるんだって驚きました。
那須:焼きナスですかね。田楽味噌みたいに付けるイメージかしら?
星野:どうなんでしょう。あの甘い枝豆の「ぬた(ずんだ)」をナスに和えて、どんな味になるのか、気になりますね。
那須:そういった、「ぬた(ずんだ)」の、お餅と団子以外の組み合わせの可能性ってどうなんでしょう。
星野:仙台の有名店の「ずんだシェイク」、あれはおいしいですよね。考えた人は凄いですね。
うちの店は夏の時期はかき氷を提供していますから、「ぬた(ずんだ)」をかき氷に使えないかと色々試行錯誤したことがありましたが、結局ピンと来るものになりませんでした。どうもボヤける。「ただ乗せてるだけ」感が出てしまうんです。
那須:「ぬた(ずんだ)」は展開がむずかしい、のかな。
星野:「餅」と「団子」。やっぱりこれらがベストマッチで、揺るがないと思います。
那須:星野屋さんでは「ぬた(ずんだ)」を使うのはお餅と団子だけですか。
星野:フレッシュな枝豆が取れる秋のシーズンだけ「ずんだ大福」をつくります。
那須:期間限定の季節商品ですね。
星野:そう、1ヶ月くらいだけのものです。やっぱりそのシーズンの「ぬた(ずんだ)」は格段においしいんです。旬の地物なので、風味がまるで違います。
那須:例えば「あんこ」にはそういう季節感って出ますか。
星野:あんこの原料の小豆は乾物ですし、北海道の広大な土地でつくるものですから、味のバラつきはあまりないような気がします。もちろん品種によって淡白さとか風味の強さといった違いはありますけど。でもそれに比べると、枝豆は生鮮品ですし、品種でも時期でも畑でも生産者でも、風味も味も全く違ってきます。
那須:「ぬた(ずんだ)」には、あんこにはない面白さがある、と。
星野:そうですね。「ぬた(ずんだ)」こその面白さというのはあると思います。あとは…そのほかの商品というと……「ずんだアイスクリーム」くらいかな?
那須:「ずんだアイスクリーム」は、カップ型の商品を見かける気がします。
星野:市販されていますよね。
那須:おいしいですよね。
星野:うん。ですからやっぱり、アイスとか、シェイクとか、なのかな。
那須:「ぬた(ずんだ)」を塗ったり挟んだりしているパンを見かけることがあります。
星野:ありますね。でも、あんことパンの相性の良さには勝てるかどうか……。
那須:味が弱いのかしら。
星野:食べたときに、あんこにはしっかりとした存在感が出る。あんぱんも、あんバターも、すごくうまい。でも、「ぬた(ずんだ)」を入れてもあの存在感を出すのはなかなか難しい気がしますね。
那須:すこし弱いかも。
星野:うん。でもそれは、「繊細」ということなのかもしれないよね。それぐらいでいいんじゃないのかな、「ぬた(ずんだ)」は。
那須:だからこそ、愛おしくもあるわけですね、「ぬた(ずんだ)が」。
つづく
文 :那須ミノル