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愛すべき「ぬた(ずんだ)餅」の世界へようこそ(4)枝豆の風味のこと、餅の文化のこと

連載

2024.07.25

かつて「real local 山形」では、「納豆餅」をテーマにロングトークするという企画を実施したことがありますが、今回お届けするのはその「ぬた(ずんだ)餅」バージョン。

山形市旅篭町にある「餅の星野屋」さんの店主・星野輝彦さんと、real localライターの那須ミノルが、「ぬた(ずんだ)」について語りあった時間の記録、お届けします。

愛すべき「ぬた(ずんだ)餅」の世界へようこそ(4)枝豆の風味のこと、餅の文化のこと

那須:「ぬた(ずんだ)」の原材料のポイントというと、どうでしょう。

星野:枝豆は季節モノで、旬は夏と秋。その時期は、すべてではありませんが、山形産の地モノを仕入れて使います。

また、年間を通して安定的に商品を提供していくには、どうしても冷凍モノを使う必要があるのですが、2種類の枝豆をブレンドするやり方にしています。1種類だけだとどうしても味に偏りが出てしまうので、味にバラつきが出ないように、そして味わいに奥ゆきが出るように、という工夫です。

那須:枝豆選びで大切にしていることはありますか。

星野:フレッシュな生の枝豆では「香り」を重視します。山形の枝豆には色々なブランドがありますが、ウチでよく使うのは「秘伝豆」。秋が深まってくれば価格も落ち着きますし、豆の粒が大きく、歩留まりもよく、安定的に手に入りやすいのもいいです。何種類かの農家さんのものをまず試しに買ってみて「あ、これおいしいな」と思ったものをまとめて買う、という感じです。

那須:さまざまな品種や生産者の枝豆を試せるというのは、枝豆の生産が盛んな山形ならでは、という感じがします。

愛すべき「ぬた(ずんだ)餅」の世界へようこそ(4)枝豆の風味のこと、餅の文化のこと

那須:食べる側として、おいしい「ぬた(ずんだ)餅」ってどういうモノでしょう。

星野:やっぱり枝豆本来の甘み、フレッシュ感、風味が感じられる「ぬた(ずんだ)餅」はおいしいと思います。
枝豆ってそのまま畑で放っておくと大豆になるわけですけど、そこまでいっちゃうとおいしくない。枝豆っていうのは、特有の若くて青々しい風味が大切なんです。ビール飲むときの枝豆もそうでしょう?

那須:山形の人たちはそこにはとても敏感ですよね。ツマミの枝豆が季節モノか冷凍モノかすぐ見極めてしまうし、目も舌も厳しい。きっと「ぬた(ずんだ)」もごまかしがきかないんじゃないでしょうか。

星野:たしかにそうかもしれません。そもそも「ぬた(ずんだ)」って、それぞれの家庭で旬の枝豆を買ってきて、豆を茹でて、すり鉢ですりつぶしてつくる、お母さんとかおばあちゃんの料理だったわけなので、みんな本当の味を知っているのかもしれません。今ではもう、おうちでつくっているご家庭ってほとんどないでしょうけど。

那須:小さいころ、おばあちゃんの「ぬた(ずんだ)」づくりを手伝いした思い出があります。お盆の時期、枝豆と白砂糖の入ったすり鉢でずりずりずりって…。ぼくにとってはすごく懐かしい記憶です。

星野:「ぬた(ずんだ)餅」は家庭料理であり、そしてまたお盆に食べるご馳走でもあったわけです。
ちょっと昔だと、お店にくるお客さんは「餅を二升くれ」とか言って炊飯器を持って来て、その炊飯器に二升の大きい餅を入れて持って帰ったものです。で、自宅でその餅を手でちぎって、あんこ餅とか納豆餅とか「ぬた(ずんだ)餅」にして家族で食べていました。できたてを食べられるこのシステムが一番いいと思います。

那須:熱々の餅を餅屋で買って、それを熱々のまま自宅でちっちゃくして、餡を乗っけて食べていた…。今はそういうお客さんは?

星野:だいぶ少なくなりました。もう今のお母さんは、餅を手で切れないと思いますね。

那須:餅の扱いかたが、家庭から失われてしまった、と。

星野:それもまたひとつの文化であり技術ですけど…、今ではもう取り戻すことができないでしょうね。

那須:でっかい餅を扱う経験はぼくもしたことがないですね。

星野:餅ってすごく熱いので、まずは手を水で濡らして、冷まして手にくっつかないようにしてから触るものなんです。でも、みんなそういうことも知らないから、ばーって一気に触っちゃって、熱い餅が手にくっついて、はがれないから火傷しちゃうんです。そういうこともわかんないようになってしまっている。今は、いかに手を汚さずにおいしいものを食べるか、みたいな時代ですから。とはいえ、少しさみしいですね。

愛すべき「ぬた(ずんだ)餅」の世界へようこそ(4)枝豆の風味のこと、餅の文化のこと

星野:食べ物っていうのは、食べるタイミングが本当はとても大切なんです。餅はやっぱりできたてがおいしいから、こちらとしてはオーダーもらってからつくりますし、できたらすぐに食べていただきたい。でも、お客さんはお客さんで自分のペースで食べたいでしょう。いくら「30分以内に食べて」ってお願いしても「いや、今日中に食べれば大丈夫でしょ」って感じなんです。
それでも、ラーメンだってのびたらおいしくないし、天ぷらだって揚げたてがいいように、餅もやっぱりできたてがいいんですよ。

那須:その時でなければおいしく食べられない。その最たるものが餅、というわけですね。

星野:食べるべきおいしいタイミングを逃しているというのは、すごく勿体無いことです。

那須:「ぬた(ずんだ)餅」にもおいしい作法やタイミングがあるわけですね。

星野:あります。30分以内ですら遅い。できたてを、いますぐ、食べてほしいです。

那須:すぐ、この瞬間に、おいしい今のうちに、食べなきゃならない。「ぬた(ずんだ)餅」は、そういう大切なことをぼくらにメッセージしてくれていたんですね。
ありがとうございました。

終わり

 

写真:布施果歩(STROBELIGHT
文 :那須ミノル