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【連載】わたしと山形国際ドキュメンタリー映画祭|vol.1 菊地 翼 さん

インタビュー

2024.07.26

【連載】わたしと山形国際ドキュメンタリー映画祭|vol.1 菊地 翼 さん

世界的にも評価の高い映画祭として有名な「山形国際ドキュメンタリー映画祭」。1989年より隔年開催され、以来、国内外の映画ファンや山形市民に支持され続けています。このシリーズは、市民一人ひとりが主人公の物語。映画祭にまつわるリレーインタビューをお届けします。

 

Q. あなたの記憶に残る、山形国際ドキュメンタリー映画祭の思い出を聞かせてください。

 

【連載】わたしと山形国際ドキュメンタリー映画祭|vol.1 菊地 翼 さん

 

山形の映画文化に衝撃を受けた

菊地さん:
高校3年のとき、兄に「今年は山形国際ドキュメンタリー映画祭があるよ」と聞いて、初めて行ったんです。河瀬直美さんの『垂乳女 Tarachime』が上映されるのを知り、観たいと思ったのがきっかけです。同監督の『殯の森(もがりのもり)』が、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した直後でした。

映画祭の会場は山形市内にいくつかあって、まずは七日町にある山形中央公民館に向かいました。場所は「az」の6階なんですけど、行ったらすごいことになっていて。1階から6階までの階段はすごい行列ができていて、外まで人が溢れていました。

並んでもしょうがないから違う作品を観ようと思って、とりあえず近くでやっていたアルゼンチンの映画を観たんです。内心、これじゃなかったんだけどなあとか思いながら(笑)。それでも当時の体験としては、自分の中に強烈なものが残ったのを覚えています。ここまでの熱量を感じられる場所があって、映画好きがこんなに集まってくるなんて、山形すごいなと。度肝を抜かれた感じでした。

その後、大学進学を機に山形に移り住むことになりました。初めてのドキュメンタリー映画祭での記憶に残る体験もありますが、元々映画を撮りたいと考えていたこともあって、東北芸術工科大学のメディアコンテンツデザイン学科を志望していました。在学中はショートフィルムやドキュメンタリーを撮ったり、ラジオドラマのサークルに入って、脚本を書いたりしていましたね。

卒業後はラジオ局に勤めたんですけど、そこで映画祭関係者の人と知り合って話すうちに、僕自身も事務局の運営を手伝うようになりました。フリーで仕事をするようになってからですね。映画祭の期間中だけ手伝うスタッフやボランティアの人がいるんですけど、僕もそんな感じで。昨年の映画祭では、会場スタッフをまとめたりする業務を中心に行っていました。

2年に1度、山形国際ドキュメンタリー映画祭の時期がやってくると、全国各地からいろんな人たちが集まってきます。ボランティアはそれこそ30年近く毎回やっている超ベテランの人もいるし、高齢の方から学生までと幅広いです。地元の人はもちろん遠方の人も多いですね。

運営側になって感じるのは、映画祭を作っている「中の人」たち、つまり事務局の皆さんはもちろん、コーディネーターや通訳者、ボランティアスタッフなどの関わる方々がめちゃくちゃ魅力的だということです。一人ひとりのキャラクターがとにかく濃い。普段は寡黙な人でも「映画」を通すと情熱が止まらなくて、朝までみんなで語り尽くしたり(笑)。映画好きな人たちってこうなんだよなあ、ってあらためて思いました。

社会に対する生きづらさとか、悩みとか、多かれ少なかれ誰にでもあると思うんですけど、それらの表現手段のひとつが映画だと思ってます。
自身の内面に向き合ったり、他者との価値観の相違みたいなことに気づいたり。だからなのか、映画をたくさん観ている人って「こっちもいいけど、そっちもいいね」みたいな寛容さがある人が多いなと感じてます。

前々回の2021年はコロナ禍でオンラインの開催でもあったので、前例にないことをやるしかない状況でした。30年以上続く映画祭のアナログな部分も残しつつ、新しいことにもみんなでチャレンジする。その過程でも、人を尊重して、効率とか合理性みたいなことだけで判断しない。多様で曖昧な部分が残っていたりします。
この感じがものすごく映画祭らしくもあり、不思議な心地良さがあるんですよね。でも、こういうのって今はあんまりないなと思って。職場や学校にしても、身近な人間関係にしても、白か黒かみたいな議論が多い気がします。

山形ドキュメンタリー映画祭自体がそうであるように、もっとみんな自由で良いんじゃないかなと。そもそも世の中の多くの映画体験といわれるものが、感動するとか泣けるとか、共感するみたいなことに縛られ過ぎているような気もします。「なんだったんだろう?」みたいなことも全部引っくるめて、その人にとっての貴重な映画体験だと思っています。

ただ、作品に興味があるからこそ、理解したいという気持ちは生まれるものですよね。映画祭では上映後に必ず監督のアフタートークがあるんです。だから直接監督に質問することもできるし、ディスカッションすることもできる。自分なりの解釈だけじゃなくて、だれかの話を聞きながら、この人はこういうことを思ってたんだ、あのシーンにはそんな意味があったんだ、みたいな気づきを得られることもあります。

映画を「観る」という行為を深めたいと思っている人は、一度参加していただくことをおすすめします。山形の映画文化を体験してみてください。そして、朝まで映画の話で飲み明かしましょう。

 

【連載】わたしと山形国際ドキュメンタリー映画祭|vol.1 菊地 翼 さん

 

プロフィール

映像作家
菊地 翼(きくち・つばさ)さん

1990年、福島県二本松市生まれ、山形市在住。
大学在学中から映像、ラジオドラマの制作を始める。
大学中退後、コミュニティFMに勤務。2016年からフリーランスに。
2024年6月、株式会社機微を設立。
映像・写真・企画など、企業や地域、個人を問わず活動。