【名古屋市中区】 クラフトマンの技と夢を結集した 高架下の大空間「24pillars」
インタビュー
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名古屋・金山総合駅からJR中央線沿いに東へ歩いて10分ほどの場所にある「24pillars」。高架下ならではの圧倒的な広さの中に、本格的な木工の機械を備えたファクトリー、ナチュラルワインやクラフトビールが楽しめるカフェ、さらにギャラリーを併設した複合施設を運営する「DaLa木工」代表・勝崎慈洋さんにお話を伺いました。
人通りが少なく殺風景なイメージのある鉄道の高架下が、近頃ではすっかり様変わりして、感度の高い個性的なショップが続々オープンするなど新しい〝カルチャー発信の場〟として注目されています。
「24pillars」を運営するのは地元・名古屋では知る人ぞ知る木工職人集団「DaLa 木工(ダラモッコ)」https://dalamokko.net 。
2009年の設立時、社員の数はわずか4人。必要最低限の機械を揃え、小さな木工会社としてスタートしたそうですが、独自のセンスと腕の良さが評判を呼び、今や全国各地から家具や内装のオーダーが次々に舞い込むほどに。
現在は職人さんとスタッフの数も総勢35名という大所帯へと成長。2022年には自社3か所目の拠点となる新しいコンセプトの複合施設「24pillars」をJR中央線の高架下にオープンしました。
…と、ここまで順調に事業を拡大してきたかのように見えますが、実は会社を立ち上げた翌年、社員全員が絶望の淵に立たされてしまうほどの災難がDaLa木工を襲ったのです。
それから15年が経ち、今では「あの時の経験が自分自身にとっても、DaLa木工にとっても大きな転機になった」と、ポジティブに話す社長の勝崎慈洋さん。
ずっと変わらず、勝崎さんの胸の中にあるのは職人さんたちへのリスペクト。全てを失い、絶望の底からたくましく立ち上がった今日までの思いを、みんなの手で作り上げた「24pillars」の紹介とあわせてお聞きしました。
高架下ならではの広さと開放感に圧倒!
――広くて開放感も抜群。居心地いいですね。電車の音もほとんど気になりません。
鉄道の高架下って奥行きはそんなに広くないんですけど、横幅が72mあって天井の高さも6mぐらいあるので実際よりも広く感じますよね。
――店内の家具や内装には木がたくさん使われていますね。
什器も家具もここにあるものはほぼ全部、自分たちで手作りしました。普段はお客様からのオーダーに合わせて作ることがほとんどなので、職人さんたちが、ここぞとばかりに好きなものを楽しんで作ってました(笑)。
家具職人を目指して飛び込んだ木工の世界
――木工の工場とカフェの組み合わせってユニークですよね。勝崎さんご自身も職人さんなんですか。
30歳になる少し前に、家具職人になろう!と思い立ってこの世界に入ったんですけど、自分には向いてなくて2ヶ月で諦めました。
――職人さんの世界って厳しそうですもんね。
それまでずっと金山にあったレコード店で働いていて、毎日毎日大好きな音楽に囲まれてイベントやライブでDJやったりしてたんです。そんな生活から一気に厳しい世界に飛び込んじゃったので、もう辛くて辛くて。危ない機械とかもいっぱいあって怖いし、とんでもなく厳しく感じてすぐ限界がきました。
――そもそも好きな音楽の仕事を辞めてまでなぜ家具職人になろうと?
ずっと音楽で食べていけたらいいなと思っていたんですけど、28歳の頃に音楽配信っていうのが世に出てきて、レコード業界にもう将来はないなって感じたんです。それで何か手に職をつけなくちゃ!と思い立ったのがきっかけです。
――木工とか家具にも興味があって?
特に興味があったわけではないんです。私、出身が岐阜で、岐阜って木工が盛んなので子供の時から木工の会社に見学に行ったりしていたから、「手に職」といえば木工職人しか思い浮かばなくて(笑)。工場に就職したけど、たった2ヶ月で音を上げて「辞めます」って言ってしまいました。でもそこで社長に引き止められて、「営業とか他の仕事ならできるかもしれない」って部署を変えられたんです。
――きっと社長さんは勝崎さんの別の能力を見抜いていたんですね。
どうなんでしょうね。ただ、営業って接客と同じだと思うんです。それまで接客業をやってた自分には合っていたのかも。お客さんの要望を聞いて図面に起こして、それを職人さんに説明して作ってもらうんですけど、実際に手を動かすわけじゃないのに自分が作ったような気分になれるし、技術を身につけるため厳しい修行とかしていなくても達成感が味わえる(笑)。美味しいとこ取りできるのが楽しくて、結局、7年ぐらい勤めました。
「DaLa木工」を立ち上げた翌年に工場を襲った災難
――その後、どんな経緯でDaLa木工を始められるんですか。
実はその頃からだんだん会社の経営が厳しくなってきて、いよいよ潰れちゃうっていう状況になってしまったんです。腕の良い職人さんたちも何人かいたし、みんな仕事が無くなったら困るので、なんとかしなくちゃって。それで、職人だった上司3人と一緒に新しい会社を作ることになったんです。
――先輩たちの中で一番後輩の勝崎さんが代表になったのはどうして?
会社を立ち上げるにはお金を借りなくちゃいけないじゃないですか。当時、先輩たちにはそれぞれ家族もいて、家のローンとかもあるのでこれ以上借金は無理だって。で、「お前が代表になって新しく会社作れ!」って私に振ってきたんですよ(笑)。最初は4人で細々とやっていくつもりが翌年には8人ぐらいに増えていました。
――社員も増えて、スタートは順調だったんですね。
ところが会社を立ち上げて一年半後のクリスマスの日にとんでもないことが起きたんです。当時、工場の近くにご飯を食べに行くお店があまりなくて、お昼は仕出し弁当を配達してもらっていたんですが、その日はクリスマスだったので「たまには外に食べに行こう!」ってことでみんなでトンカツ屋さんに出かけたんです。
食事が済んで工場に戻ろうとしたら、なんか行手に黒い煙が立ち上ってるのが見えて。「こんな季節に野焼きでもしてるのかな」なんて言いながらのんきに歩いてたら、なんと、うちの工場が燃えてたんですよ!
――うわ〜、大変じゃないですか!
気づいた時はまだボヤぐらいで、なんとかおさまりそうだったんです。中にあった完成品だけでも避難させようとみんなで運び出す余裕もあったし。そこに消防署の人たちがやってきてバリケードを作ったら私たちまで立ち入り禁止になっちゃって、しかも消火活動が始まるまでに2時間ぐらいかかって。そうしてるうちに目の前でどんどん燃え広がっちゃって結局、工場は全焼。
――会社を始めてまだ一年半ですよね。軌道に乗ってきた矢先に火事で全焼とはさすがに辛い。
もう絶望ですよ。これで終わったな、と。その夜は家に帰ってもまったく眠れませんでした。燃え盛る炎を見たせいか異様に興奮しちゃったんでしょうね。全然眠れないから当時、使い始めたばかりのスマホで工場を移転する場所を検索してたんです。そしたら近くにすごくいい場所が見つかって。翌日みんなに会ってすぐ、「いい物件あったから見に行かん?」って誘って現場に行きました。物件を見た途端、みんなで「おお、いいじゃん!」って盛り上がって。火事で絶望的な気持ちだったけど、それでまた前を向くことができたんです。
再スタートを切った「DaLa木工」
心境にも変化が
――火事の翌日にみんなで前を見て動き出せるってすごいですね。
年末もギリギリの時期だったので、とりあえず年内に契約だけ済ませて、年明けから機械を集めてまたみんなで始めるぞ!って感じですぐ動き出しました。火災保険は最小限のものにしか入ってなかったので、下りたお金だけでは再建には全然足りなくて借金は倍増。でも不思議とそこから借金に対する恐怖心みたいなものは無くなりましたね。
同時に自分自身の羞恥心も消えたみたい。それまで恥ずかしくてずっと隠していた本当の自分の姿も、こうしてありのままオープンにしようって思えるようになりました。
借金してコツコツ積み上げてきたものが全部燃えちゃったんで、もう何かを我慢するのが馬鹿らしくなったっていうか…。だったらこれからはやりたいことをやろうって。
工場は全部燃えたけど幸い怪我人は出なかったんで、それが何より大きな救いだったなって思います。
――その当時の職人さんたちは今でも一緒に働いていらっしゃるんですか。
みんなまだまだ現役で頑張ってくれていますよ。一応、社内では私が社長なんですけど誰も社長なんて呼ばなくて、用事があると「おーい!」って呼ばれます(笑)。みんな私にとっては最初に仕事を教えてもらった師匠であり尊敬する先輩たちですし、今もずっと尊敬しています。
職人さんたちの声から誕生した
新しい拠点「24pillars」
――ここ「24pillars」はDaLa木工の工場としては3か所目となるそうですが、こういうスタイルの拠点を作ろうと思ったのにはどんな狙いや経緯があったんですか。
10年ぐらい前からかな、職人さんたちの間で「木工教室をやりたい」っていう話が持ち上がるようになったんです。正直、利益にならなさそうだし、あまり気が乗らなくて具体的に話が進まなかったけど、「やるとしたらどういう場所だったらできるんだろうね」なんて話をしてた時に「電車の高架下とかどう?」みたいなアイデアは出ていたんです。
その数ヶ月後に偶然ここを車で通ったら、以前あったアンティークマーケットの看板が外れていたんです。すぐにJRに問い合わせて中を見せてもらうと、あまりにも広くてここで工場と教室だけやっても持て余しちゃいそうだなと思いました。
JRの方としても、「高架下の資産価値を高めたい」みたいな方針があるとかで、単なる工場や倉庫には貸したくなさそうだったんです。そう言われるとなんか急に悔しくなって(笑)。「じゃあ半分を工場に、あとの半分で違うことをするからどうですか?」って交渉しました。
――それでカフェとギャラリーを?
それまではずっと町工場だけをやってきて表に出ることもなかったし、宣伝も上手くないので、私たちがいきなりギャラリーや木工教室をやったとしても誰も来てくれないですよね。だから、まずはいろんな人に知っていただくために気軽に来てもらえるカフェがいいんじゃないかって。
最初に施設全体のコンセプトを決めたんですが、DaLa木工は手作りを大事にしてきた会社なので「クラフト」をテーマにしようということになりました。それならカフェのメニューも手作り感のあるクラフトビールやナチュラルワインとかを揃えるといいねって。
ギャラリースペースには、ショールームとして自分たちの作品を展示したり、アートが好きなスタッフに任せていろんなアーティストさんに展示をしてもらったりしています。
楽しく自由な社風の中で育まれる責任感
――職人さんもスタッフのみなさんも、楽しそうにお仕事をされているのが伝わってきます。
料理も家具も、どちらも同じ「職人」なんだなって思います。みんな手間をかけることを惜しまず楽しく働いてくれていますね。
実際、うちの会社で働くのは楽しいと思います。ものづくりの現場は一般的に作業ごとに担当が分かれていることが多いと思うんですけど、それだと自分が何を作っているのか分からなかったり、達成感や喜びが味わいづらくなると思うんですけど、うちは受注から設計、製作、お客様への納品まで、同じ職人が受け持つので、効率の面で考えると確実に低くなりますけど、責任感や達成感、楽しさという点では負けません。
あとはとにかく社風が「自由」。就業時間も設けていないので、納期に間に合いさえすればそれぞれに好きなペースで仕事ができるし、お休みも各自が自由に決めていいことになっています。
――どんな世界でも、職人さんの仕事はキツいイメージがあって敬遠されがちだと聞きますが、楽しく働ける環境って会社の仕組み次第で変えられるのかもしれませんね。
実際、世の中に楽な仕事なんてほとんどないですよね。でも、稼げるかどうかについては雇う側の仕組みの問題である部分が大きい。だから会社は職人さんたちの仕事に見合うように、ちゃんと給料も上げていかなければいけないと思います。
うちは職人さんたちの給料もまあまあ良い方だと思いますし、もの作りが好きなら仕事そのものも楽しいはずです。ちゃんと家族を養っていけて、一人前として認められる職場環境があれば職人を目指したいという人はもっと増えるんじゃないかな。
――その通りですね。ここまでお話をうかがっていると、勝崎さんは営業の手腕だけでなく、社長としてもすばらしい能力を秘めていたんだなって思います。
いえ、私は何も特別なことはしてませんし、あまりちゃんとできてないんです(笑)。
自由って、結局は一人一人の責任感に繋がるんです。お客様からのクレームやトラブルももちろんありますが、うちではみんなが責任を持って向き合ってくれるし、現場管理のスタッフたちも一生懸命やってくれるので信頼して任せてますよ。
――その信頼感こそが職場全体の雰囲気の良さにも通じる気がします。ところで、職人さんたちの念願だった木工教室の方はいかがですか。
いろいろ試しているところです。家具を仕上げるのにはかなり時間がかかるので、手軽なワークショップみたいなやり方だと難しいんですよね。かといって、がっつり作業っていうと参加費も高くなっちゃうし。今は、一般の人たちにものづくりの楽しさを味わってもらえたらということで、たとえばカッティングボードなど2時間程度で完成できる手軽なものを題材にしてやっています。
あと、スタジオをレンタルスペースとしても使っていただけるんですが、プロが使う道具や機械が揃ってるので、最近はセミプロ級の人などがよく利用してくれますね。
まちの10年後を見据えて
「24pillars」を拠点にエリアの魅力を発信
――新しい拠点を使って今後はどんなことを展開していきたいですか。
まだ具体的ではないんですけど、金山寄りの同じ高架下にここと同じぐらいの広さのスペースが空いているので、そこを使ってやってみたいと思っていることはあります。
今後はこのエリア全体をもっと盛り上げたいですね。金山から歩いても10分程度で決して不便じゃないのに人の流れを生むほどの魅力がまだまだ足りないのかな。昔に比べて街にカルチャーの空気が感じられなくなったのが残念。私自身にとっても学生の頃から働いたり遊んだりしていた思い入れのある街なので、10年後ぐらいにはもっとカッコいい街になるんじゃないかなって希望を持っています。
――「24pillars」を拠点に勝崎さんがぜひ仕掛け人になってください!
なれたらいいですね。そのためにもまずはここを頑張って続けていかなくちゃ!
スタイリッシュさとクールなイメージで、一見、無機質にも見える雰囲気の中に優しい木の温もりとクラフトマンシップが詰まった独特の世界観。他にはない魅力を放つ「24pillars」が、今後ますます盛り上がることが期待されるこのエリアのランドマーク的存在になりそうです。