【鹿児島県霧島市】誰もが平等にチャンスを掴み、幸せだと感じる環境づくりを / 菓子店 & Gallery 横川正丸屋
ショップ情報
明治時代、金山と物流で栄えていた霧島市横川町。そこにはかつて、お米や塩・タバコなどを取り扱う大きな商店として営み、現在は築120年を超える国登録有形文化財となっている旧池田家住宅があります。横川町を拠点に地域の魅力発信や課題解決に取り組む『一般社団法人横川kito』(以下:横川kito)は3年がかりかけ、旧池田家住宅を再生・事業化するプロジェクトを進め、8月4日に『菓子店 & Gallery 横川正丸屋』としてオープンさせました。その足どりを追ってみようと思います。
誰もが平等にチャンスを掴める環境づくりを
まずは横川kito・代表理事の白水梨恵さんに横川町で事業を展開するようになった経緯について話を聞きました。
2019年。横川町を舞台にしたまちづくり事業に関わったことが大きなきっかけだったといいます。まちの文化や人の優しさに触れていくうちに「このまちに住んでみたい」という気持ちが芽生え、横川への移住を決意したそうです。
「実は、自分たちの家探しと同時に拠点運営ができる物件探しもしていたんです。関わっていた事業の中で、地域課題の一つとして空き家活用が出て“私がやります!”と手を挙げました。」
「しかし、数ヶ月経っても条件の合う物件は見つかりませんでした。心が折れ、人前で泣いてしまうこともあり、諦めようとも思いました。そんな時、大隅横川駅保存実行委員会メンバーの方から“物件が見つかった”と連絡があったんです。」
「すぐに内見し、借りることにしました。建物の傷みがひどく修復が難しいと思ったのですが、地域や仕事仲間の手を借りながら、みんなの力で空間をつくっていきました。」
そして、2021年4月。古民家カフェ&ゲストハウス『横川kito』がオープン。地域交流拠点として、霧島市内外問わず、多くの人が連日足を運ぶようになります。
横川kitoの1F部分はカフェとなっており、地元産の食材を中心にした手づくりスパイスカレーやスイーツなどを提供。さらに、ショップスペースもあり、地元の有機農家がつくった旬の野菜や県内各地の作り手の想いが込もった食品を中心に販売しているのだとか。2F部分は歴史とアートの融合をテーマにした1日2組限定のゲストハウスになっています。
そんな横川kitoを彩るメンバーは白水さんきっかけで横川に足を運ぶようになった20~30代の人たち。横川kitoと関わるうちにイベント出店を重ね念願のカフェ開業を実現した人もいれば、アーティストとして活動をしつつブランドを立ち上げた人など、様々。
そんなメンバーたちと場を運営する上で目指してきたことを聞きました。
「私たちが目指すのは“暮らす場所や生まれ持った個性にかかわらず、誰もが平等にチャンスを掴める環境をつくる”ことです。」
「過疎化が進む地域ではコミュニティが固まりがちで、どうしても新しい価値観や情報に触れる機会が少なくなります。挑戦したいことを見つけて応援がほしいときに“このお店に行けば何か得られる!チャレンジできる!”と思ってもらえる作戦基地のような場所を目指しています。」
「嬉しいことに“楽しそう”と感じ、外から横川kitoに来てくださる方は多いです。温かく見守ってくださる地域の皆さんも多いので、内と外のコミュニティを行き来できる面白さがあり、それが新しい可能性につながっていると思っています。」
横川の課題や魅力を活かし、誰かの“やってみたい”をカタチに
話は遡り、2020年の夏。横川kitoの改修現場に訪ねてきた一人の男性の一言が一つの転機を迎えたといいます。
“まちのために活用できないか?”
その男性は旧池田家住宅の大家でした。
35年前に当時の住民が亡くなり、それ以降ずっと空き家の状態で霧島市外で暮らす親族が定期的に通いながら維持管理をしてきたそうです。今後の活用を考えている中で、白水さんらの活動を知り、すぐ相談に駆けつけたのだとか。
「まずは年に1〜2回のペースで開放日を設け、小さなことからできることを始めることにしました。たとえば、建物内にある家財整理や1日限定のアートイベント、歴史探訪を絡めたワークショップだったり、少しずついろんな人たちの手を借りながらアイデアを温めていきました。」
「大家さんご一家にとっては子どもの頃の思い出がたくさん詰まった場所でもあり、地域の人たちにとっても買い物に通っていた思い出深い場所です。“地域内外問わず、いろんな人が訪れて、お茶を片手におしゃべりを楽しんだり交流する場所になってほしい”という大家さんご一家の想いを汲み取り、昨年の夏から本格的にプロジェクトが動き始めました。」
地域の人たちの声も参考に旧池田家住宅を活用した4つの事業を行うことに。これらを通して、経済の流れや地域の担い手を育てていく考えなのだとか。
●横川発祥の鹿児島郷土菓子「げたんは」の製造販売を行う菓子店
「“げたんは”は実は横川町発祥のお菓子なんです。現在、発祥時のレシピは残っているものの、町内での製造は途絶えてしまっています。それを復活させ、地元の方を中心に雇用し、げたんはの他にもつくっていた特産品の復興に一つずつ取り組んでいこうと思います。」
●近隣のアーティスト・クリエイターの作品などを展示・販売するクリエイティブギャラリー
「霧島市周辺にはアートやクリエイティブな作品づくりをされている方々がたくさんいらっしゃいます。自然豊かな地域環境からインスパイアされた作品を展示・販売しながら、文化・芸術・ものづくりに携わる方々の発信や活動促進の場、そして、多くの人が意図せずにアートに触れる機会を作り出したいと考えています。」
●「やってみたい」を形にできるレンタルスペースやトライアルカフェ
「それぞれのライフスタイルやタイミングに合わせながら、できるときにスペースを借りて気軽に小さなチャレンジに踏み出せるレンタルスペース機能を整えます。教えたり発信したりを通して、年齢や地域を問わないいろんな方々の交流を生み出せたらと考えています。」
●移住開業支援やクリエイター育成などを行うインキュベーション窓口
「レンタルスペースやトライアルカフェで自分の事業に自信を持てたら、地域の空き家を活用して開業してほしいと思っています。空き家を探すところから、リノベーションの考え方、事業の組み立て方や資金調達、立ち上げなど、私たちもゼロから経験したからこそ、この地域の状況に沿った伴走サポートができますし、地域に還元できると思っています。」
ゆるさとチャレンジ精神が根強いまちだからこそできること
そして、ついに8月4日。旧池田家住宅は地域のヒトと夢を育てる拠点『菓子店&gallery 横川正丸屋』(以下:横川正丸屋)という名前として生まれ変わりました。
横川正丸屋の運営は3名。そのうち2名はここ1年で横川町へ移住したメンバーです。
1人目は昨年夏から横川kitoの店長を務めていた鏡味さん。横川の地で1年少し働いてきた感触をこう話します。
「梨恵さんと働いていると、良い意味で何が仕事なのかわからなくなる時があります。それだけ楽しい出来事が何かしら起きていて。横川で楽しく過ごせているのは“ゆるさ”なんだと思います。気がつけば、巻き込まれているし、その空間にいる人は皆笑っていますし。そんな空気感を横川正丸屋でもつくっていけたらと思います。」
2人目は今年になり夫婦で横川へ移住した“このか”さん。元々趣味でお菓子や料理づくり教室に通っていた経験を活かし、商品やメニュー開発にチャレンジしたいと意気込んでいます。
「梨恵さんは口にしたいことをきちんと実現していくスピード感や行動力があるので、とても尊敬しています。私が提案したメニューも“お店に出そう!”とおっしゃってくださり、横川kitoでキャロットケーキを提供させてもらうことになりました。今後は横川正丸屋でも地域の皆さんの声や実情に耳を傾けながら私なりにできることで地域に貢献したいです。」
3人目は今年の春に福岡の大学を卒業し、そのまま横川町へ移住した古賀友さん。大学時代に何度も足を運び、現在は横川kitoのメンバーとして白水さんが関わる事業のサポートをしつつ、横川正丸屋のテナントとして古着屋を営んでいます。
「初めて横川に来た時から感じているのは、横川kitoの周りには一緒になって楽しく汗をかいて動いてくれる人たちが多いことです。将来的には横川で古着屋とゲストハウスをしたいと思っています。“やっていこうぜ”という空気感が根強いまちで事業に携われるのはとても嬉しいことです。」
どこで暮らしていても、幸せであれるように
オープン数日前のあるシーンが印象に残っていると話す白水さん。それは、下校中の小学生とのやりとりでした。
「オープンに向けて準備をしていると、下校途中の小学生が横川正丸屋の前を通りました。それまで人がいなかった場所で誰かが作業していたからか“何だろう?”という顔で覗いてくれたんです。中に招いて、少し談笑したのですが、その時間がとてもいいなと思ったんです。」
「たとえば下校途中の小学生が宿題を、その間にママたちがお茶を、その隣で近所のおじいちゃん・おばあちゃんたちが将棋や手芸をしたり、ちょっと昔に戻ったようなシーンが垣間見れるような場所にできたらいいなって。」
横川kitoの立ち上げから多くの人の手を借り、地域の文脈を掘り上げ、新たな価値を仲間たちと提供し続ける白水さん。横川に根付きながら事業を展開する上で大切にしていることを聞きました。
「私たちは地域の中で今まで積み上げてきたモノに対するリスペクトを忘れないように事業を進めています。元々あるモノに対してほんのちょっとスパイスを加えることで、違った良さが生まれて積み上げてきたモノをさらに活かせると思うんです。」
「横川だけではなく、車で片道30分圏内を活動フィールドとして捉えています。山間部に囲まれた過疎地になりますが、そんなエリアだからこそ五感で感じることのできる良さがあります。その価値をどんどん引き立てていきたいです。」
「“過疎地だから開業できない”ではなく“気軽に開業できるんだよ”というゆるさを広げていきたいです。店主の好きなものがたくさん詰まっている個人商店が片道30分圏内にたくさんあることでカオス感もですし、楽しさも出てくると思います。」
「どこで暮らしていても好きなモノに囲まれて小さく幸せに暮らせる状況をつくりたいです。まずは、私や一緒に働いているメンバーたちがゆるく楽しく働いて、それを見た誰かが真似できるような存在になれたら、この土地で事業を展開している意味があると思っています。」
屋号 | 菓子店 & Gallery 横川正丸屋 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県霧島市横川町中ノ15-6 |
備考 | ●営業日 金曜日 11:00~19:00(food 12:00~18:30) 土曜日 11:00~19:00(food 12:00~18:30) 日曜日 11:00~19:00(food 12:00~18:30) 月曜日 11:00~18:00(food 12:00~17:30) ●電話番号 090-3466-9675 ●横川kito HP |