real local 名古屋【名古屋市中村区】 ものづくり×まちづくりで、“暮らし”と“商店街”をアップデートする - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【名古屋市中村区】 ものづくり×まちづくりで、“暮らし”と“商店街”をアップデートする

インタビュー

2024.08.24

【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】

名古屋駅から西へ歩いて15分ほど。かつて花街として栄えた大門地区にある新大門商店街。その一角に拠点を構える、ソイロリビング代表の松本啓太さんに会いに行きました。松本さんは、アップサイクル&DIYショップ「ソイロ」の店主であり、店舗リノベーションや家具製作を手がけるつくり手であり、新大門商店街に活気を生むまちづくりの担い手でもあります。ユニークな取り組みを実践し、多角的に活動する松本さんの源流にある想いを聞きしました。

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ソイロリビング代表の松本啓太さん

 

日本屈指の遊郭として栄えた面影を残す大門地区

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ソイロリビングでは、遊郭時代の古道具や食器も販売しています

中村区・大門地区といえば、大正時代から昭和初期にかけて「中村遊郭」として栄えた歴史をもつまちです。かつて名古屋の大須地区にあった遊郭を、都市整備の一環として静かな田園地帯だった中村区に移そうと計画され、大正12年に「中村遊郭」が誕生。最盛期には、娼家(貸座敷)138件、娼妓2,000人が集まり、東京・吉原を越えるともいわれました。

その後は公娼制度見直しの気運とともに、花街としての賑わいは徐々に衰退。現在は遊郭跡地に昭和レトロな趣のある新大門商店街が広がり、マンションやスーパーマーケットなども立ち並ぶ住宅街となっています。

新大門商店街はシャッターの閉まっている建物も目立ちますが、最近では昔ながらの商店に混ざって個性的な新店舗がオープンし、マーケットイベントが評判を呼ぶなど、新しい動きに注目が集まっています。

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そんな商店街の活気を生む仕掛け人の一人がソイロリビングの松本啓太さんです。松本さんは、インテリアコーディネーター、店舗デザイン・施工管理、子ども家具メーカーの企画開発などを経験した後に独立。DIY工房をつくろうと物件探しをする中で、新大門商店街にたどり着きました。

「前職の同僚が名古屋市による商店街再生の取り組みに携わっていて、新大門商店街で空き店舗を活用したまち起こしの動きがあると聞きました。コミュニティのある場所に拠点を構えたいと考えていたので、商店街というロケーションは条件にぴったりでした」

それまで大門地区に縁もゆかりもなかったという松本さん。視察に訪れて、まちの雰囲気にすっかり魅了されてしまったのだとか。

「大門地区に足を踏み入れてすぐに、『なんだか、おかしなまちだな』と(笑)。ソープランドのすぐ目の前にスーパーがあって家族連れが買い物していたり、一人では入りたくないような怪しい路地の奥で明かりがぼんやりと灯っていたり。遊郭だったころの面影がそこかしこに残っていて、何が起こるか分からないようなごった煮感が面白いんです。異質で下町風情のあるまちが、名古屋駅から歩いて来られる距離にあることにもポテンシャルを感じました」

 

“使い直す、作り替える”で、暮らしを豊かにするものづくり

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新大門商店街を訪れてまもなく、松本さんは不動産情報サイトで商店街にある3階建てのビルが売りに出ているのを見つけて、思い切って購入。ソイロリビングの活動拠点をオープンさせ、少しずつ手を入れながら、ビル全体でユニークな取り組みをしています。

1Fは木工に適した工具を揃えたDIYのレンタル工房。プロによるサポートもあり、初心者でもDIYを気軽に楽しめる工作室のような場所です。工房の脇では、リユース食器や古道具、古書、建築現場でレスキューした古材などを販売しています。

2Fは厨房設備を備えたレンタルスペース。いつかお店を開きたいという人が想いをカタチにするためのチャレンジショップとして運営。3Fはワークショップやイベントなどを行うレンタルスペースになっていています。

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1階のDIY工房。松本さんもここで作業をしています
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2階のチャレンジショップ。全20席あります

1Fの工房は松本さん自身のものづくりスペースでもあります。手がけるのは、店舗の空間づくりや家具などのプロダクト製作。真新しいものをつくるというよりは、元々そこにある素材や空間を活用したものづくりを信条としています。

「“使い直す、作り替える”を当たり前の文化にすることを目指しています。レンタル工房を作ったのも、DIYが欧米のように身近になれば、日本人の暮らしがもっと豊かになると考えたからです。今はまだ、新品の建材や家具が当たり前に選ばれる時代ですが、世界的な脱炭素化の流れで、リユース・リペア・リメイクといった今あるものを生かす暮らしは、避けて通れないものになっていくでしょう。

もちろん社会的意義だけでなく、古材を使うよさはたくさんあります。古材にしか出せない風合い、品質の高さ、優れた職人仕事が施された建材など。それでいて、価格は新品の7,8割程度に押さえることができます。

日本ではまだ古材の活用は一般化しておらず、風合いを楽しむ趣味のものに留まっていますが、僕はそこを突破したい。そのために、まずは自分自身がつくり手として、古材を使ったものづくりを世の中に発信したいと思っています」

 

日常に適切な賑わいを。“ケの日” のためのまちづくり

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軒先マルシェの賑わい

新大門商店街に拠点を構えてから、松本さんはまちづくりにも力を入れるようになりました。

「大門に来るまで、まちづくりに興味をもったことはありませんでした。ご近所づきあいさえめんどくさいタイプなんです。でも企画は得意分野なので、理事長さんに商店街を盛り上げるイベントをしたいと相談いただき、アイデアを出しているうちに、気づいたら実行委員をやることになっていました(笑)」

松本さんが提案したのは、各店舗の軒先を活用して商店街をめぐってもらうというもの。そのアイデアは、2022年8月に開催した「大門軒先マルシェ」として実現しました。マルシェは大盛況で、2回目、3回目は行政とも連携して歩行者天国を設け、人気のキッチンカーを地域外から誘致するなどして大々的に開催。まちに一体感が生まれ、商店街の売上増や顧客獲得にもつながりました。

しかし、規模が大きくなり、来場者が増えるに連れて課題も明るみに。

「マルシェイベントが終わった翌日の商店街は、昨日までの賑わいはなんだったのだろうというほどガランとしているんです。その光景を見て、ハレの日としてのイベントはいいけれど、イベント頼りになってしまうのはなんか違うなと。ケの日である日常をもっと大事にしていこうという話になりました」

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適切な賑わいを生んだ「大門びより」

そこで新たに企画したのが、2024年4月に開催した「大門びより」です。

「テーマは、『適切な日常の賑わい』。マルシェのような加熱気味で商店街のキャパシティを超えた賑わいではなく、まちの人たちが適切に受け入れることができる賑わいをつくりたいと考えました。

各店舗が普段の営業に少しプラスして限定メニューを用意したり、出展者同士のコラボレーションメニューを出したり。店同士がコラボレーションすることで、双方のファンが行き来し、商店街を周回してもらえる効果もありました」

夏には第2回目が開催され、「大門びより」はまちの日常のためのプログラムとして定着しています。

 

ものづくり×まちづくりで、歴史をつないでいく

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松本さんが描いたリユース、リペア、リメイク、リサイクルの概念図

地域に根ざし、ものづくりとまちづくりを実践している松本さん。まだまだやりたいことはたくさんあると言います。

ものづくりの側面では、“使い直す、作り替える”を当たり前のものにするために、今後は仕組みづくりに注力していくとか。

「日本でも古材を活用する取り組みは少しずつ増えていて、全国規模で取り組んでいる業者さんもいます。ただ、環境への負荷という観点でいくと、本来は地域単位で流通が起こってほしいんです。まちで使われていた建材が、まちで形を変えて再利用される。それを当たり前にするには、何らかのシステム化、もしくはプラットフォームが必要です。僕は職人というよりはアップサイクル文化を広げていく役回りをしたくて、今後はものづくりからシステムづくりへと少しずつ移行していきたいと考えています」

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地域の子どもが主役の「大門子ども商店街」

さらに、まちづくりで目指すのは、「子育て」にフォーカスすることなのだそう。

「かつて遊郭があったディープなまちを、子育てしやすいまちにアップデートするのは大門ならではの面白い取り組みはではないでしょうか。例えば、遊郭建築を活用した子育て支援施設をつくれば、取り壊されていく価値ある建造物を一つでも残すことができるし、このまちの歴史を子どもたちへとつないでいくことになります。それは、僕がやってきたものづくりとまちづくりを掛け合わせて、このまちのためにできる最大事ではないかと思いを巡らせています」

実際に、新大門通商店では子どもが自分の店を開いて切り盛りし、商店街の中でお仕事体験をする「大門子ども商店街」というイベントを昨年から実施。大門地区に住む子どもたちにフォーカスした企画を今後も考えているそうです。

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子どもたちが希望をもてるよりよいまち、よりよい社会を目指して。松本さんはさまざまな難しい課題を正面から受け止め、未来の可能性を探求し続けています。

 

 

備考

SOIRO(ソイロ)
住所:愛知県名古屋市中村区羽衣町30-4
営業時間、定休日:インスタグラムの要確認
URL:https://soiro.net
instagram:@soiro_living
note:https://note.com/keita_matsumoto

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