【山形県村山市】/ローカルブライト・高野拓也さん「仕事の生まれかたに新たな可能性を感じる」
インタビュー
村山市を拠点とするデザイン会社、ローカルブライトをreal localで紹介したのは2022年3月のこと。CEO鈴木祐一郎さんとCOO五十嵐勇人さんに、会社設立に至る物語やその先のビジョンについてお話しをいただいた。それから2年あまりが経過した現在、同社は事業をますます拡大しつつもあり、また「村山市にぎわい創造活性化施設Link MURAYAMA」にオフィスを移転するなどの変化もあり、さらには全国各地から多様な人材を吸い寄せているらしいとも聞こえてきた。
そこで今回は、Uターンして同社に参画した移住者でもあり、また取締役CDO(最高デザイン責任者)でアートディレクターでもあり……、という高野拓也さんにreal localにご登場をいただく。デザイナーとして東京の広告会社で活躍されていた高野さんは、一体なぜローカルブライトに合流し、移住することを決意したのか。ここで働くことにどんな可能性を見出しているのか。
この高野さんのお話はきっと、これからクリエイターとして働きたいという若い方たちが、じぶんはこれからどんな環境でどんなふうに働きたいのかを考えるきっかけを与えてくれるにちがいない。
リアルな人間関係や信頼関係から
デザインの仕事がぐんぐん広がる面白さ
東北芸術工科大学卒業以来、ずっと東京の広告会社でグラフィックデザイナーをしていた高野さんに、高校の同級生だったCOOの五十嵐さんから連絡があったのは4年ほど前。それが、ローカルブライトとの接点となった。ふるさと納税支援事業を展開する同社にとって、成果をもたらすWebサイトのデザインは生命線であるため、「誰かいいデザイナーを紹介してもらえないか」というのがその内容だった。そんなきっかけから、高野さんは同社のデザイン部門のチームアップについて、週末などにときどき、東京に居ながらリモートで、相談に乗るようになる。思いもよらずそれは新鮮で面白いできごとだった。
「デザイナーとして新卒で入社してからずっと、いつか独立したいと思いつつ、なかなか糸口を掴めずにいました。独立すればゼロからクライアントを見つけなくてはならないし、初めのうちは納品したらまた営業して、の繰り返しになる。自分がそれをやって軌道に乗せられるイメージが湧かず、すごくモヤモヤしていました。でも、ローカルブライトのデザインチームの立ち上げに関わるうちに、自分が思い描いていた独立のカタチとちがってはいるけど、『これもアリかも』『想像していたより大きな世界を見れそう』と思えてきて、視界がパッとひらけたんです」
遠い場所からアドバイスを送る相談役のような立ち位置での歳月をしばらく経たあとで、高野さんが東京の会社を辞め、ローカルブライトについにリアルに合流したのは2023年3月のことだった。いったい、東京を離れて村山市にまでやって来た高野さんが「これもアリかも」と感じた可能性や「大きな世界を見れそう」と感じたものの正体とは、なんだったのだろう。
「それまでイメージしてきた地方でのデザインの仕事というのは、営業して、コンペに参加して、制作して、納品して、というサイクルの案件を一つひとつ積み重ねるというものでした。でもローカルブライトは、『ふるさと納税支援』という主軸の事業のなかにデザインが組み込まれているので、大きな流れのなかでのびのびとデザインに取り組むことができます。また、ふるさと納税の仕事を通して地域のさまざまな事業者さんたちとのリアルな関わりができ、そのつながりから『うちのWebサイトつくってくれない?』『新商品のパッケージやってくれない?』と新しい仕事がどんどん生まれてくる。事業者さんとのそうした関係性、距離感、そこから仕事が生まれるスピード感というのは、私が東京でやってきたデザインの中ではなかなかありえなかったし、このまちだからこそ感じられるものでしょう。ここでのこの仕事の生まれかたはスゴイな……って思います」
スキルや職能よりも大切なのは
「心をデザインする」マインドの共有
高野さんだけではない。全国各地からさまざまな職能をもつ幅広い人材がローカルブライトに集いはじめている。HR/人事総務担当の松山珠希さんによると、ローカルブライトのスタッフのうち、地元採用9名に対して、U・I・Jターンしてきた移住者は12名にものぼるという。また、前職の業界は飲料メーカーや教育、旅館、ITコンサル、旅行代理店などなど多岐にわたっており、いろいろな経験を有する多様な人たちが転職してきているのだそうだ。
ローカルブライトのWebサイトの採用ページには、地域創生ディレクター、デザイナー、エンジニア、プロデューサーなど、さまざまなポジションの募集情報が掲載されている。
高野さんは言う。
「募集している職種はいろいろですが、ローカルブライトとして求める人材のポイントはシンプルで、『心をデザインする』ことができる人かどうかということです。この言葉は会社のフィロソフィーを表すもので、『相手に良い影響を与えられるか』とか『相手の心を思いやることができるか』とかいったような意味を込めています。
僕らがやっている『デザイン』って、見た目をキレイにするトッピングみたいなものと勘違いされることもありますが、そうではありません。依頼主がなにを求めているのか、依頼主の先にいるお客様がどんなことを望んでいるのか、という思考がなければできないものです。つまり、相手のことをわかろうとする人でなければデザインはできないし、仕事になりません。ですから、このフィロソフィーを共有できる方に仲間になってほしいと思っているんです」
東京を諦めて仕方なく居る場所ではなく
面白いからそこを選んだという場所へ
最後に、高野さんに、この村山市というまちに働くことの意義や面白さについて、お聞きした。
「村山市のふるさと納税の寄附金は、ローカルブライトが支援事業者となってから約5倍にも伸びました。まちの税収が上がれば、市民の皆さんの生活の質が上がったり、活用されるサービスが向上したりしますから、そうやって目の前でまちが盛り上がっていくのを見れば、自分たちのモチベーションも上がります。寄附金が増えたのは、良い返礼品がたくさん集まったからでしょうが、返礼品を出してくださる事業者の方たちとリアルに出会うことができたことは、僕たちにとってはとても大切なことでした。例えばこのLink MURAYAMAでも、さまざまな事業者さんたちとのリアルな出会いがあったからご協力頂けたことがたくさんあります。いい情報であればすぐに広めてもらえたり、いいことがあれば一緒に盛り上がろうと団結してくださったりと、村山市にいる事業者さんたちの横のつながりや結束力の強さが良い結果に結びついたように感じています」
「僕らも、『田舎にもこんなに面白い会社があるんだ!』ということを広く知っていただけるように、僕ら自身のことをもっともっと発信していきたいですね。大学卒業後に東京に出て行った自分が言うのもなんですが、大学を出ても、デザインの仕事をするためにまちに残る、という選択肢がもっとあってもいいはず。10年前にデザイン業界での就職を目指していた自分にとって、デザインの仕事は東京にしかない、という感じでしたが、でもこれからは『ローカルブライトがあるからここに残る!』とか、『東京よりこっちの方が面白いからここで仕事したい!』って思ってもらえるようにしていけたら、と思っています」
Photo: Fuse Kaho(strobelight)
Text: Nasu Minoru(real local Yamagata)