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山形納豆物語 第六話

連載

2024.09.18

山形の人は、納豆が好きだ。
愛知へ嫁にきて20年、山形を離れて初めて気づいたことだった。

まずはスーパーの納豆コーナーをみてほしい。その広さ、中小メーカーがひしめく多様なラインナップ。みんなお気に入りの納豆で、納豆もちを食べ、ひっぱりうどんをすすっているに違いない。そんな山形の、納豆にまつわる思い出や家族のことをつづっていきたい。

第六回目は、「納豆とおならの関係」について。

山形納豆物語 第六話

「あのねぇ、お母さんね」久しぶりに電話した母の声が曇っている。

「どうしたの?」と聞いてみると、「実はね、最近納豆を1日1パックにしているのよ」という。母は子どもの頃からずっと納豆が好きで、70代になった今も一度に3パック食べてしまうほどの納豆好きである。その母が1日1パック…。ありえない。今まで見たことのない母の姿に「えっつ?なんで?どうした??」と思わずたたみかけてしまった。

きっかけは、ある日のYouTubeだった。母は、いつも通りおススメされた色々な動画を見続けていると、なぜか「納豆をたくさん食べるとおならが出る」という情報に出会ったのである。それを見た母は衝撃を受けた。「そうだったんだ。だから、私こんなに出るんだ。そういえば、あの時…」思い当たることが次々と浮かんだそうだ。

「あんたに話したことあるでしょ。お父さんとお見合いした後に、お父さんが家まで挨拶に来たことがあってね。その日は寒かったから、掘りごたつの中の炭を動かしてあげようと、かがんだ瞬間に出たのよ。親戚のおばちゃんが何とも言えない苦い顔をしたの、覚えてるわぁ」すると「おとーさーん、あの時、おなら聞こえてたー?」と電話の向こうで確認している模様。「あ、やっぱり聞こえてたって。でも、おならをしても、お母さんと結婚したかったのね。しょうがないわねぇ、お母さんはお断りだったのに」

お見合いで母がおならをした話は、我が家の伝説となっており、小さい頃から何度も聞かされては、家族で笑ってきた話である。YouTubeの納豆情報と一番に繋がったのがこの話とは、あらためて母の人生の中で、ある意味大きな出来事だったことがわかる。

母のおなら話はまだ続いている。

「一番驚いたのはね、介護のお仕事をしてた頃のことよ。施設に来たお客さんを案内しててね、ちょっと柵があって乗り越えようと足をあげたその時に、出たのよ。これはすごかったの。もうバーーン!!っていう感じで、あんなに大きな音って人間からでるのね。自分でもびっくりして、信じられなくてね。今の音は自分からなのか、何なのか、わからないくらいで、周りの人も驚きで固まってたのよ」

電話の向こうで大笑いしている母に対し、晩ごはんの準備がさしせまった夕暮れ時に、私は一体何を聞かされているのだろう、という気持ちが少しわく。そして、母の武勇伝は、果たして本当に納豆と因果関係があるのだろうか。納豆の威力って、そこまですごいものなのだろうか?という疑問もわいてくる。

母も同じように疑問をもったようで、日々の観察から自分なりの結論を出していた。「結局ね、納豆食べてないお父さんもすごくおならをするから、体質なのかもねって思ってるわ」
それを聞いて、母がまた納豆を一度に3パック食べる日は近いと感じ、ちょっと安心した。母には、いつまでも元気に納豆をすすっていてほしい。

「それにしても、お父さんと結婚して一番良かったのは、お互いに気兼ねなく、おならができることだよねぇ」母はそう言って、はははと笑いながら電話を切った。
同じリビングにいるであろう父は、この母の言葉をおならと同様に何も気にせず聞き流しているだろう。こうした父と母のもとでおおらかに育ててもらったことに感謝しつつ、私は「夫の前ではまだ少し気にしていたい」と思うのであった。

山形納豆物語 第六話