【福島県福島市】「人が熱狂するビール」をがむしゃらにつくり続ける熱いブルワリー「Yellow Beer Works」
インタビュー
味のバリエーションの豊かさが魅力のクラフトビール、みなさん普段飲んでますか?
そんなクラフトビールをつくるブルワリーの数は国内だけで800を超えるといいます。そんな競争率の激しい世界に飛び込んだ米農家「カトウファーム」兼ブルワーの加藤さん御夫婦の話を伺いました。
4年間で約100種類以上のビールを発売
—Yellow Beer Worksではどのようなクラフトビールをつくっているんですか?
晃司さん:うちではアルコール度数高めのガツンとした味わいのものから、お酒にあまり強くない方でも飲みやすい低アルコールでフルーティーな風味のものまで幅広くつくってます。
絵美さん:実は私、ビールづくりをしているのにお酒にあまり強くないんです。だから、そんな方でも美味しく飲めるビールをつくることも大切にしています。
— ビールの醸造はお二人でやってるんですか?
絵美さん:夫が中心となって、ビールづくりに詳しい友人やスタッフと一緒にやっています。最近、私は醸造よりも主に商品企画やデザインに携わっています。
— 2020年4月にYellow Beer Worksを立ち上げたそうですが、これまで何種類のビールをつくってきたんですか?
晃司さん:約100種類です。
— 100種類ですか!? 約4年でそれだけの数のビールをつくるのはすごいですね。
晃司さん:クラフトビールの面白いところは味の多様性に富んでいるところです。でも、多様性があるからこそ自分たちの味のスタイルをつくる難しさもありますね。正直、Yellow Beer Worksのスタイルはまだ確立されてません。だからこそ、変態的なアプローチでビールをつくり続けてます。
—変態的なアプローチとはどういった方法なんですか?
晃司さん:ホップや麦の新しい品種が開発されたらすぐに試してみたり、まだ取り入れたことのない醸造法や機械があれば使ってみたりしてます。お金も労力もすごくかかるから他のブルワリーはあまりやらないけど、スタイルを確立するための投資だと思って常に新しいことを取り入れている最中です。
「本気でビールをつくってるんです」
—農家でありながら、お二人がブルワリーを立ち上げた背景やきっかけを教えてもらえますか?
絵美さん:福島の大震災後、原子力発電所事故による風評被害を改善したいとの思いから、福島をPRする国内外のイベントに私たちは参加してきました。そんな活動を続けていたある日、知人から福島県南相馬市で「何か面白いことをやれないか?」と相談されたんです。
晃司さん:話し合いのなかでビールをつくるというアイディアがでて、まずは農家としてできることをしようとビール大麦とホップの栽培をはじめました。当初は原材料を僕たちがつくってブルワリーさんに醸造を委託していたんです。
—なぜ委託醸造ではなくて自分たちでビールをつくろうと思ったんですか?
晃司さん:もともとビールづくりには興味があったので、ある日、知り合いに教えてもらった「riot beer」というブルワリーに話を聞きにいきました。その日の帰りに、「Anglo Japanese Brewing Company」が長野県で運営するブルワリーのクラフトビールを飲んだのですが、そのビールの美味しさに感動してしまったんです。
絵美さん:以前は大手のビールしか飲んでなかったので、味のバリエーションの豊かさに驚いたし、新鮮でした。こんなビールを自分たちもつくってみたいという興味が湧いたのと、単純に楽しそうだと思って、「riot beer」の方にビールづくりを教えていただけないかとお願いしました。
晃司さん:すると快く引き受けてくださって、妻と東京に毎週通ってビールづくりを教えていただくことになったんです。醸造所ができたのはそれから約1年後の2019年8月です。その後、2020年4月に「Yellow Beer Works」を立ち上げ、醸造所に併設する形でビールを飲めるスペースもオープンしました。
—反響はいかがでしたか?
晃司さん:驚くほど反響がありました。オープンから数日間は行列ができて、量り売り用のボトルも何度か追加発注をしなければならないほどでした。丁度コロナ禍ということもあり、家飲み需要があったのだと思います。とてもありがたかったですが、飲食店などからうちのビールを扱いたいと、もっと声をかけていただけるかと思っていたら全然声がかからなくて……
絵美さん:正直、農業をしながらゆるく楽しくビールをつくれたらいいなと思ってたけど、そんな簡単じゃありませんでした。
晃司さん:「農家がつくったビール」というのをキャッチコピーにして、普通の味のビールが簡単に売れるほどクラフトビール業界は甘くなかったんです。だから僕たちは今、本気でビールをつくってるんです。
米農家が飛び込んだのはビール業界のM−1グランプリ
—国内のクラフトビールの醸造所は年々増えていますが、競争率の変化を感じますか?
絵美さん:感じますね。2020年に私たちがYellow Beer Worksを立ち上げたとき、国内のクラフトビールの醸造所は約400件でした。でも今は2倍くらいに増えています。やばい業界に足を踏み入れてしまったなと思いましたね。
—そこまで増えているとは知りませんでした。
晃司さん:他のブルワリーと同じものをつくっていては美味しくても、お客さんは「これ飲んだことあるな」と思って感動はしてもらえません。クラフトビール業界って他のものに例えるとM-1グランプリなんです。
—日本一の漫才師を決めるあのM-1グランプリですか?
晃司さん:そうです。M−1グランプリはプロ・アマ問わず面白いかどうかを基準に、最も面白い漫才師を決める大会だけど、クラフトビール業界ではその大会が常に開催されている感じです。過去の人達が確立してきたスタイルを大事にするのも大切だけど、どこかに新鮮さがないとお客さんに選んでもらえません。
絵美さん:だから、どんどん味を進化させて選ばれるビールをつくらなければならないんです。
晃司さん:僕たちは「人が熱狂する美味しいビールをつくる」ことが目標です。新しいものを取り入れて、常に進化していこうという思いで日々ビールと向き合っています。
—最近ではイベント出店などもたくさんしていますよね。
絵美さん:SNSでの発信に力を入れたり、全国の飲食店へ地道に営業に行ったりしたことで、ありがたいことに少しづつですが認知度が上がってきました。
晃司さん:有名になることが僕たちの目標ではありませんが、うちのビールを飲んで、また飲んでみたいと思っていただける人が増えてきているのはすごく嬉しいです。
応援してくれる人がいるから、がむしゃらになって頑張れる
—2022年9月に福島駅近くの文化通りに直営のお店をオープンしたそうですが、農業とビール事業の両立はかなり大変ではないですか?
晃司さん:文化通り店をオープンしてからは休みがなくなりましたね。今はスタッフが増えたのでいいですけど、オープン当初は朝から農作業をして、それが終わったらビールをつくって、夜はお店に立つっていうスケジュールの日が多かったので相当大変でした。
絵美さん:疲れからか悪夢でうなされて眠れない日もかなりありました。今思うとよくやってましたね。お金も時間も正直ぎりぎりですけど、苦しそうに悲しそうに頑張っていてもお客さんからしたら気の毒に思うじゃないですか。だから、自分たちがやると決めたからには楽しもうと毎日がむしゃらです。
—さまざまな苦労があるなかでも、楽しもうとしている姿勢がすごく格好いいです。
絵美さん:私たち夫婦は目の前に課題が現れると燃えるタイプで、何もないと何も考えなくなっちゃうんです。
晃司さん:そうそう。やってみたいと思ったことを実現するのって大変だけど面白いですよ。
—Yellow Beer Worksを立ち上げてから4年が経ちましたが、ビールづくりをはじめて良かったと思いますか?
晃司さん:良かったと思いますよ。何より農業だけをやっていたときよりも、お客さんの反応をダイレクトに感じることができますから。自分たちがつくったビールを目の前のお客さんが笑顔で飲んでくれたときは本当に嬉しいです。
絵美さん:私も良かったと思いますよ。うちみたいな小さいブルワリーでも推してくださる方がいて、全国からビールを飲みに来てくださいます。そうやって応援してくれる方がいることはすごく嬉しいし、その方たちの存在が私たちの原動力になってます。
—では最後に今後の目標を聞かせてください。
絵美さん:毎日生きることに必死で会社の方針とか目標などは正直しっかり考えられてないんですけど、とりあえず今は農業もビールづくりも継続していくことが目標と言えるかもしれません。継続することでうちのファンが増えて、ビールをきっかけに福島に来てくれる人が増えたらいいなと思ってます。
晃司さん:昨年には第二醸造所が完成したので、今よりもっとバリエーション豊かなスタイルのビールづくりに挑戦し、より多くの方にうちのビールを楽しんでいただけるよう頑張っていきたいです。
屋号 | Yellow Beer Works |
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URL | WEBサイト:https://yellowbeerworks.com/ |
住所 | 〒960-0251 福島県福島市大笹生横堀12-5 |
TEL | 070-5098-4439 |