変わらない山形(2)/ しょうゆの名は
連載
訪れるたび、山形の人に「何か変わったことは?」と聞けば、いつも「特に変わっていない」と肩すかし。最近は、それこそが山形の良さ、なのかなぁと思い始めています。
山形に帰省するたび、初日の夜に必ず食卓に上るのが芋煮です。毎年、秋になると全国ニュースのネタになるほど、芋煮は山形の郷土料理の代表格としてすっかり認知されていますね。ただ、私が山形でいつも食べているのは、正確には芋煮ではなく「いもこ汁」と呼ばれるものです。
子ども時代は、祖父の作るいもこ汁が大好きでした。芋煮はシンプルなレシピながら、家庭や作り手によって微妙に味が異なります。祖父は最初に里芋だけゆでこぼしてから、しょうゆベースの汁にこんにゃく、牛肉、長ネギ、その時々で豆腐やきのこを加え、煮込んでいきます。
「山形で食べる刺し身はどうしていつも甘く感じるんだろう?」
ある時、祖父に以前からの疑問をぶつけてみたことがありました。
「しょうゆが違うからだべ。ここのしょうゆは、味がいいんだ」
祖父はそう言って、台所でしょうゆを実際に見せてくれました。
あとで知ったのですが、祖父はいもこ汁にもそのしょうゆを使っていたようです。地元山形で安政7年に創業した老舗、紅谷醸造場のしょうゆ。だしを使わなくても、この甘いしょうゆと具材から出るうま味で、十分なコクとまろやかさが出ます。
一方、母の味付けは、だしに砂糖、酒、一般的なしょうゆ。最近は、市販のだししょうゆを愛用しているとのことでした。今は近所のスーパーに行けば皮をむいた里芋の水煮が年中売っており、おかげで私も、時期外れの帰省で懐かしいいもこ汁が食べられるというわけです。
もちろん、秋の里芋のおいしさは格別。なんでしょうね、あの独特のねっとり感。山形ならではの小ぶりの里芋が丸々入る甘じょっぱいいもこ汁に、箸が止まりません。肉より芋! とにかくこの繊細な味わいの芋が食べたいのだと、食材の何もかもが大味のアメリカに住むからこそ改めて感じ入ります。
芋煮と言えば、山形では「日本一の芋煮会フェスティバル」を筆頭に、河川敷や公園での芋煮会が盛んですよね。私自身、子どもの頃にこんな思い出が。父が社員交流のために企画した川辺での芋煮会についていったことがあります。場所は山形ではないものの、自然の中、知らない大人たちと大鍋を囲み、ハフハフ言いながら味わう芋煮体験が子ども心にも新鮮で、脳裏に焼き付いています。
聞くところによると、現在はこの芋煮鍋を途中で味変し、カレーうどんにして締めるのが定番なのだとか。さて、私もアメリカのスーパーで唯一手に入る中国産の里芋を使い、いもこ汁からのカレーうどん、作ってみますか。