【山形・蔵王温泉】芸術家でありスキー愛好家。岡本太郎が通い続けた宿〈ル・ベール蔵王〉に泊まる。
宿泊施設
「太陽の塔」や「明日の神話」などで知られる、日本を代表する芸術家・岡本太郎。スキー愛好家としての顔も持つ岡本氏は46歳でスキーを始め、シーズンになると決まって蔵王を訪れたという。そんな当時の定宿だったのが〈ル・ベール蔵王〉だ。ゲレンデを思う存分に滑走し、温泉でゆっくりと体を癒やし、旬の食べものや料理を味わう。冬はもちろん、四季折々の山形を満喫しながら芸術作品とともに過ごせる貴重な場所が、ここにある。
温泉、スキー、岡本太郎。
心と身体を解放する蔵王の宿
冬のある日、山形はあっというまに「白い国」になる。雪に親しんだことのない人にとって、東北の冬は異世界であり、異国だ。それは美しくもあるけれど、畏怖を伴うものでもある。
大人になってから熱心にスキーに打ち込み、その腕前はプロ級だったという岡本氏。さらには自らのスキー体験を綴った著書を出版しているほか、過去に製作された山形県の観光スキー映画「山形は白い国、岡本太郎のスキー」にも出演している。
「どんな急斜面でも直滑降で滑るのがスキーの醍醐味だ」と語り、果敢に挑戦したのちに大転倒してしまうこともあった。そのときに語られた言葉が印象的である。
頭から新雪の中にもぐってしまい、何も見えない。だが嬉しかった。
何か自分が転んだというよりも、僕の目の前で地球がひっくりかえった、
というような感じ。地球にとても親しみを覚えた。(ル・ベール蔵王 サイトより)
1982年にリゾートマンションとして開業し、その後は多くの観光客やスキー客に親しまれ続けてきたリゾートホテル〈ル・ベール蔵王〉。岡本氏との縁は、今は亡き同ホテル支配人の高校時代に遡る。岡本氏とは、蔵王パラダイスロッジで出会い、当時は日本初であったスキースクールにお互いが参加していたことから親交が深まり、そこから毎年のように蔵王を訪れていたそうだ。
30年近くのあいだ、ル・ベール蔵王に通い続けていたという岡本氏。お気に入りの客室は今でも残っていて、希望すれば宿泊することもできる。この部屋で芸術家・岡本太郎が執筆したり寛いだりしていたことを想像しながら自分が同じ場所にいると思うと、なんだか不思議な感覚があった。
作品に対し、物理的にも精神的にも「近い」からだろうか。ホテルという環境での芸術鑑賞は、美術館やギャラリーで体験するそれとは大きく異なっていた。和室の座椅子にもたれて窓の外を眺めながら、岡本氏の作品や人柄について、もっと深く知ってみたくなった。
ル・ベール蔵王の温泉は、源泉掛け流しで強めの硫黄泉。蔵王温泉のお湯は、傷や皮膚病が癒えるといわれるほど効能が高い。ここからはあくまでも個人的な感想になるが、蔵王の温泉に浸かったあと、一時は皮膚科に通院していたこともあるぐらいだった肌荒れがすっと引いて、以前よりも落ち着いた。温泉の力をダイレクトに味わった実感がある。
ちなみに、内湯に向かうときは「雪よけドーム」のトンネルを10メートルほど歩くのだが、アトラクションに乗る前みたいにわくわくしたのを覚えている。
料理は肉や魚、野菜のバランスを考えた献立と、ここでしか食べられない旬の食材にこだわった「蔵王の味」がテーマ。地元の契約農家から仕入れる野菜に加えて、女将さん自らが山で採ってくるという山菜やきのこなども豊富だ。
スキーやトレッキングをして、温泉に浸かり、芸術にふれ、食べて飲んで寝る。岡本太郎の「本職?人間だ」という名言にもあるように、蔵王という場所で自分自身を解放し、「人間らしさ」を取り戻してみてはいかがだろうか。
DATA
ル・ベール蔵王
住所 山形市 蔵王温泉878-5
電話番号 023-694-9351
チェックイン 15:00、チェックアウト 10:00
Web http://www.levert-zao.co.jp/
写真:三浦晴子
文:井上春香