【鹿児島県曽於市】”自由に”“普通に”それぞれの特性を活かすフリーペーパー『FREE MAGAZINE FREE』/ DESIGN STUDIO CP
インタビュー
鹿児島県曽於市では『FREE MAGAZINE FREE』(以下:FREE)というフリーペーパーが3ヶ月に一度のペースで発行されています。同市在住のDESIGN STUDIO CP(以下:CP)代表・德石光磨さんと、奥さんの智香さんを中心に運営をしており、FREEを通して活動の輪が広がってきています。その背景や今後の展望などについてお話を聞きました。
自由に、できることで誰かを楽しませる
普段は画家やグラフィックデザイナーとして活動している光磨さん。2021年からFREEの発行を始めていますが、その由来は英語のFREE MAGAZINE。「FREE」を繰り返す響きが気に入ったこと、そして、自身が自由であることが好きなことから全く曽於市に関係のない名前にしたそうです。
地域の情報は、SNSなどをスマホで見るより紙の本として触れる方が地域の人たちに身近に感じてもらえるのではないか。そう考え、フリーペーパーを選択したといいます。なぜ、定期的な発行にしているのか理由について教えてくれました。
「私の性格では不定期な発行だと活動が続かないと思ったからです。ルーティン化することで考えなければならないことも減って助かっています。」
「始めるきっかけは特になく、私にできることで少しだけ誰かを楽しませられることはなんだろうとふと思い、その答えがFREEでした。“そういえばこんなこともしたかったけど今ならできるかも”みたいに、やりたかったことを思い出したり、新しくやりたいことができたら、それが次の目的になっています。」
FREEの特徴のひとつが広告費ではなく自費で発行していること。第1号を発行する前から広告費での掲載をお願いする声も多かったのだとか。
「広告費をいただくと自由に制作できなくなる可能性があると考え、自費で発行することにしました。基本的にフリーペーパーは広告費で発行されていますが、それ無しでいかに制作費を生み出すか、ということを考えるのがとても楽しいです。」
自費で発行を続けるのはもう一つの目的があり、そのためには見えるかたちで誰でも真似できる方法でお金を得る必要があったというのです。
特性を活かすことが「普通に」なるために
もう一つの目的とは「発達障害でも使い方次第で役に立つ」ということを発達障害当事者、発達障害の子の親、その他すべての人に知ってもらうこと。
光磨さん自身、30歳の時にASDとADHDの診断を受けた発達障害の特性を持つ一人だといいます。大人になるまでは気に留めなかったものの、無口な性格であり、自分には絵を描く仕事しかできないと考えていたそうです。
「大人になり、コミュニケーション能力の面で違和感を感じ“どうして他の人と違うのか?同じことができないのか?”と苦しむようになりました。私のように大人になってから同じように悩んだ方も多いと思います。」
「発達障害について調べた結果、苦手なコミュニケーション能力を伸ばすことを諦めることにしました。苦手なことを伸ばそうとどれだけ努力しても平均より上にはいけません。その努力の時間を、得意なことを伸ばす時間にするだけで生きることが少しだけ楽になり、楽しくなるのではないかと考えました。」
“発達障害は苦手なこともあるが、特性を活かせば社会の役に立つことができるのではないか?”
歴史上の偉人にも現代で言う発達障害の可能性を持つ人がいるそうですが、光磨さんは世界を変えるほどのことはできなくても誰でも「普通に」社会の役に立つことはできると考えています。
特別扱いではなく、あくまで特性を活かすことが「普通に」なること。どんな特性であれ、一人ひとりが得意なことを「普通に」活かすことができる社会になることが願いだといいます。
「得意なことを「普通に」活かすためには必ず苦手なことを手助けしてくれる協力者が必要です。私の場合は、妻がコミュニケーションを手助けしてくれています。協力者を見つけやすい環境をつくることもFREEの今後の課題のひとつだと思っています。」
「しかし、役に立つということを言葉で伝えただけでは他の発達障害者のためにはなりません。特性でお金を得ている姿を見せることで伝わり、見本として役に立つのです。」
失った可能性を取り戻し、新しい可能性を見出す
CPでは「FREE β」というコミュニティも運営しています。写真好きやデザイン好きの方などが参加しているそうです。FREE制作に関わってみたいというメンバーもいて、現在はサポートしてもらいながら制作が進められています。
何をするコミュニティなのか。どんなコミュニティなのか。入るまでは具体的なことはわからないまま、毎月1,000円の会費が必要という条件で運営しているのだとか。
「私は個人的に1,000円の壁と呼んでいるのですが、この条件で飛び込んでくる人たちなのでメンバーは本当に面白い人たちばかりです。詳細は伏せますが、それぞれのやりたい事のためのコミュニティになっています。」
「私には仲間という感覚がなくコミュニティのメンバーは協力者と捉えています。その上で、取材させていただいた方、協力してくれる方たち、そして読者との大切な繋がりができたことがFREEを始めてから私にとっての大きな変化となっています。」
「通常、人は歳を重ねるにつれて少しずつ可能性は減っていくものと考えています。それは私たちも例外ではありませんが、FREEを続けてきたことで、今まではできなかったことができるようになり、自分とは違う考えや生き方の人と出会うことで失った可能性が戻ってきたり、新しい可能性が見えてきたことも実感しています。」
昨年にはクラウドファンディングにも挑戦し、多くの人から支援を集めたそうです。「FREEの制作を続けていたからこそできたことであり、今後も制作を続けていけば、さまざまな可能性が増えていくのでは」と感じたといいます。
今年の5月にはリアルイベント「そそそマルシェ」を曽於市内で開催。ほかのマルシェでは絶対にやらないことをやろうと考えたそうです。そして、その答えは当日足を運べない人まで少しでも楽しんでもらうこと。フライヤーに、当日来られない子どもたちも少しだけ遊んで楽しめるように工夫が凝らされていました。子どもたちの楽しみを奪わないために、SNS等でもフライヤーの裏面だけは拡散しないようにお願いしていました(フライヤー裏面が気になる方はFREEのinstagramに連絡すると画像がもらえます)。
人と関わるのが苦手でも、イベントを主催したのはFREEの読者との繋がりがどんなものか見てみたかったからだと話します。
「FREEは現在、大切に扱ってくださっている店舗のみに置かせてもらっています。そして、FREEを楽しみにしてくれる人も含めて、私が直接関わりを持っている人は少ないです。」
「しかし、直接よりもFREEを通しての間接的な関わり方が私には合っていて、掲載させていただいた方、設置していただいている店舗、楽しんでくれる読者との見えない繋がりが私にとってとても大切なものになっています。この繋がりを感じることができなければ、FREEは続いていなかったと思います。」
自由であるこそ得られた未知の経験
FREEを始めて3年以上経ち、現在No.15まで発行され、多くの人の手にわたってきました。そんな中で感じている課題について聞きました。
「広告費をいただかずに制作費を生み出すという課題は、まだ解決していません。趣味の延長と捉えている部分もあるので、このままでいいのかなと思うところもありますが、ある本に“社会の役に立つことは対価が得られる”と書いてあったので、方法論よりもFREEを社会の役に立つものにすることに試行錯誤しながら挑戦中です。」
最後にずっと変わらず大事にしていること。そして、FREEを通して変化してきたこと。それらについて聞きました。
「FREEの名前そのままに、自由であることが最も大切にしていることであり、FREEを始める前からのわたしの軸になっています。」
「変化なのかはわかりませんが、自分とは違う価値観、考え方と出会える機会が増えたことはとても学びになっています。そして、出会ったこともない人たちから応援されることが励みなるという感覚を知れたことも私にとっては未知の経験であり、人との関わりが苦手な私にとっての新しい人との繋がり方として、よい変化であると感じています。」
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