real local 金沢【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一

2024.11.20

12月8日(日)まで開催されている「発酵文化芸術祭 金沢」。今回はガイドブックに掲載されている、小倉ヒラク×橋本崇(小田急電鉄)×小津誠一(ENN/金沢R不動産)によるスペシャル鼎談をお届けします。テーマはズバリ「まちと発酵」。一見、関係の遠そうな言葉にも見える二つのテーマから、「発酵文化芸術祭 金沢」に込められた、「まちづくり」への想いを実行委員3人が語ります。

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一
橋本崇(左)、小倉ヒラク(中央)、小津誠一(右)。ENN/金沢R不動産のオフィスにて。

モノよりもヒトを動かし、発酵するまちづくりを。

ヒラク:僕がやっている発酵デパートメントという発酵食品の専門店は、小田急電鉄(以下、小田急)の橋本さんから声をかけてもらったのがきっかけ。東京の小田急線下北沢駅の再開発の一環でできたお店なんです。

橋本:当時、下北沢で「発酵する街」をコンセプトにまちづくりを進めていました。下北沢という街の活動で、発酵のプロセスのように、人と人が菌のように混ざり合って新しいものが生まれる。そういうイメージで「BONUS TRACK」という商業施設を開発しました。

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一
小田急電鉄が運営する下北沢の「BONUS TRACK」。個性豊かな飲食店や物販店が集う中に「発酵デパートメント」も入居。

小津:実は僕、コロナ期間中に何度もBONUS TRACKに行っていて。とんでもなく魅力的なまちができたな、と感じていました。金沢のまちづくりを考えているなかで、超高層が立ち上がる再開発とは違う、再開発のニュースタイルを体感して感動したんです。

ヒラク:そんな小田急さんと、たまたま別のお仕事でお互いの金沢出張が重なるタイミングがあって。せっかくだから一緒に組もう、というのが経緯です。僕と小津さんは、「発酵ツーリズムほくりく」という催しでも接点がありました。あれは展覧会という形だったけれど、実質はまちづくりだった。北陸3県をまたいで、行政、まちづくり、醸造家、クリエイター、そしてお客さんが繋がっていく。だから今回、金沢でやるなら絶対にまちづくりのプロが必要だったんです。

橋本:この芸術祭に関わることになって、人と人をどんどん会わせていくと、結果的に街がよくなると考えました。モノが動く時代から、ヒトが動く時代へ。東京でも全国でも金沢のモノは食べられる。だけど今回は、金沢の人に会う、という仕組みを作りたいと思ったんです。

小津:モノを動かさずに人を動かすって、さすが鉄道会社らしい(笑)!

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一
北陸鉄道 石川線に乗って、鶴来への視察へと向かう橋本さん。車窓からの風景に癒されるひと時。

橋本:人間って、自分が主体的に行動したときに幸せを感じるらしいんです。だとしたら、通勤だけでなく金沢にヒトを動かしたい、と思ったんです。そう考えると、旅行をすると人は幸せになる、というのも納得できますよね。

小津:コロナでいろんな事柄がストップを余儀なくされたときに「人はこんなに旅をしたがっていたのか」というのは痛感しました。

無菌状態の空間より、何かが醸された空間こそがいい。

ヒラク:僕は今回、金沢周辺の動線にレイヤーを作りたいと思ったんです。ある朝、金沢でランニングをしていたら、人が偏りすぎているな、と感じたんですよね。兼六園やひがし茶屋街にはすごく人がいるけど、一本路地裏に入ると全然いない。いわゆるオーバーツーリズムというのは、母数ではなく偏りなんだと気づきました。

今回の舞台は、これまで観光の目的地にならなかったところばかり。発酵というテーマならば原風景が残っている場所への動線が新たに生まれていきます。もうひとつ考えているのは、街の見えない資産の価値をつくるということ。発酵をはじめとして、何百年も続いてきたものづくりの精神が息づいているのが金沢だと思います。

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一

小津:いい街やいい場所は醸し出されているものがありますよね。あえて計画者という立場で言うと、建築や空間の力が働くこともあるけど、無菌状態の空間はつまらない。やっぱり、人間が活動した結果、何かが残っている空間がいいんだろうなと感じています。

橋本:そういう良さを感じる訓練が、アートに触れたときにできる気がしていて。当たり前を問い直したり、フラットにそのままを見る、という感覚を養うために、アートというものが必要だと思っています。ギャラリーを出た瞬間に、違った視点で街を見ることができるという体験ってありますよね。

小津:そういう意味では、アートも旅も同じかもしれません。旅は十人十色。その人がどういうものを見つけて、どう楽しむか。

ヒラク:今回の副題も「みえないものを感じる旅へ」としたのは、まさにそれを体現していますね。

 

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一
全国の醸造蔵を自分の足で一つずつ訪ねている小倉ヒラクさん。

「ものづくり」には、人の気持ちを集める力がある

小津:それから、このイベントは能登にも繋げていきたいと思っています。復旧から復興へ向かっていく中で、能登でも街が見えていない人がたくさんいる。数百年、千年かけて作ってきた街並みや生業を、どう持続可能な再生に持っていくのかも大事です。数年後には、能登でのツーリズムをできたらいいですね。

橋本:いかに「日常に戻せるか」が大事ですよね。いま、旅をする人たちはそれぞれの地域の日常を求めているような気がしています。地元の日常を知ること、再定義していくことが外から見ると非日常になり、それが観光客を呼ぶことになる。

ヒラク:能登で、いち早く意地でも生業を日常に戻そうと動いていたのが醸造家だった印象がありました。ものづくりって、人を呼び寄せる力や応援させる力がある。これは金沢にも言えることで、ものづくりは人の意識や支援する気持ちが一番集まる場所。それが郊外に逃げることなく、街中にあり続けるのが金沢の求心力だと思います。守ってきたライフスタイルが価値になり、それに基づいたまちづくり。その「目にみえないもの」を感じてもらうために、この芸術祭があるんです。

【金沢】「発酵文化芸術祭 金沢」スペシャル鼎談「まちと発酵」/小倉ヒラク× 橋本崇 ×小津誠一

 

<プロフィール>

小倉ヒラク
「発酵文化芸術祭 金沢」総合プロデューサー。早稲田大学文学部で文化人類学を学び、在学中にフランスへ留学。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボをつくる。「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちと発酵・微生物をテーマにしたプロジェクトを展開。2020年、発酵食品専門店「発酵デパートメント」を東京・下北沢にオープン。

橋本崇
小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部課長。鉄道事業本部を経て開発事業本部に異動し、新宿駅リニューアル工事、学生寮「NODEGROWTH湘南台」等の開発を担当。2017年より下北沢エリアの線路跡地「下北線路街」のプロジェクトリーダーを務める。

小津誠一
(株)ENN 代表取締役。金沢市出身。東京の設計事務所勤務を経て、京都の大学で建築教育に携わる。1998年studio KOZ.を設立し、京都と東京を拠点に建築設計などを行う。2003年金沢にてENNを設立。2007年に「金沢R不動産」をスタート。