天童市立図書館デザインワークショップ vol.1「本とコーヒー」レポート
2024年9月15日、「天童市立図書館デザインワークショップvol.1」が開催されました。テーマは「本とコーヒーから学ぶ、コーヒーの淹れ方と世界の文化」。天童市民約20名が参加しました。協力は東北芸術工科大学と天童市立図書館、主催は天童市です。
現在の場所に移転、建築されてから40年のときをすでに経過しているという天童市立図書館。建物の老朽化が進行しており、今後リノベーションされることが計画されています。すでに策定されている「人とまちと時をつなぐ わたしの図書館」という基本コンセプトのもと、増築や本の増設、内外装の修繕、給排水や空調の更新、カフェの新設などが予定されており、建物として更新されるというだけでなく、これまでの天童市立図書館とはまたひと味ちがう、新しい繋がりを生み出す場所として、さまざまな活用のされ方がデザインされようとしています。
図書館が新しい繋がりを生み出す場所になる、とはどういうことでしょう。それは、単に本と人が出会うということに留まらない、もっと多様な出会いの可能性が準備されている、ということでしょう。本をきっかけにして人と人が、あるいは人と知識が、歴史や未来が、垣根や属性を超えて繋がっていくイメージ。あるいはまた前述の通り、リノベーションされた後にカフェが新設されることで、コーヒーをきっかけに新しい出会いが生まれるというイメージでもあるでしょう。さらにまた、図書館のみに閉じられているのではなく、出会いやその影響が波紋のように天童の街なかへもひらかれて伝わっていくようなイメージかもしれません。そんな、天童市の新しい市立図書館の姿やあり方というものを、「おいしいコーヒー」を切り口として市民みんなで想像したり考えたりしてみよう、というのがこのデザインワークショップの狙いだったのではないでしょうか。
今回のワークショップでは、テーマである「コーヒー」に関わるプログラムがいくつか用意されていました。
ひとつは、天童市立図書館の司書さんによるコーヒー関連書籍の紹介です。コーヒーというのはとてもシンプルな一杯の飲み物とも言えますし、他方ではそのシンプルな一杯のコーヒーの中に無限の宇宙が広がっているとも言えるもの。私たちのビビッドな好奇心が知識を求め、物語を欲したときに、素敵な本と出会うことができたらきっと最高に楽しいはず。今回紹介されていたのは9冊ほどの、絵本から専門書までの様々な本。コーヒーがあるからこそ出会える本たちに違いなく、そしてまたそういう本との出会いが各自のコーヒー世界をさらに奥深く、豊かで、おいしいものにしてくれます。
ふたつ目のプログラムは、YUKIHIRA COFFEEオーナーの斉藤真二さんによるコーヒー・レクチャー。産地や生態などといったコーヒー豆の基本から、抽出のための道具や扱い方や方法を学び、参加者全員が実際にハンドドリップコーヒーを淹れました。
道具の扱い方、コーヒー豆の蒸らしやお湯の注ぎ方など、おいしく淹れるためのポイントを学びました。これは、一人ひとりがおいしいコーヒーに出会うための技術の習得、です。
その後は、フリータイム。コーヒー片手に改めて図書館内を散策します。手元にコーヒーがあることで図書館を歩く速度が変わったり、目線が変わったり、手にする本のセレクトが変わったりするのも面白いことです。
そして最後は、参加者みんなでのクロストークや発表が行われました。
これから新しくなる図書館について、様々に意見交換をしました。モデレーター役は東北芸術工科大学講師の石沢惠理さん。
「本とコーヒーのある図書館を、みなさんならどう使う?」「どんな図書館であってほしい?」「あなたならどうしていきたい?」という質問を投げかけ、参加者のみなさんから想いや意見を吸い上げていきます。
「カフェがあるのは素敵だけど、コーヒーの香りが苦手な人にとっては嫌じゃないだろうか」「せっかくコーヒーが飲めるなら、軽食も食べられるといいんじゃない?」「空間として子育ての方への配慮があると良いのでは」「市民が自分の趣味の作品を展示できるようなギャラリーもあったらいいと思う」「近隣の美術館ともっと連動していてもいいのでは」「多世代が繋がれるような場所でありたい」「将棋の街だから、将棋の対戦相手と出会えるというのもいいかも」「図書館は本来静かな場所だけど、カフェで話ができたり、子供達がしゃべったりできるスペースがあってもいいのでは」などなど、場所としての寛容性をどう考えるか、多様な人たちがどう使えばみんながハッピーになるのか、といったアイデアをみなさん積極的に発表していました。それらがホワイトボードを埋め尽くした頃、ワークショップ終了のときを迎えました。
さて、これから新しくなることが計画されている天童市立図書館。そこへ向けてのワークショップは今回だけでなく、さらに数回行われる予定となっています。いったい、この図書館はどんなふうになってゆくのだろう。どんなふうに使われ、愛される場所になるだろう。たくさんの市民の皆さんの想像や想いを吸い込むデザインワークショップの開催が今後も期待されます。
おいしいコーヒーが飲める図書館。たったそれだけでも、考えただけでもワクワクします。そこにおいしいコーヒーがあるなら、そこは大切な人と一緒に行く場所になる。気の置けない仲間と過ごすための場所として認知される。そうやって新しい人たちを呼び寄せるかもしれません。コーヒーというたった一つの切り口だけでも、図書館の可能性はグッと広がります。そのことを強く感じさせるワークショップでした。
文 :那須ミノル
写真:高橋空