real local 名古屋【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり” - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり”

インタビュー

2024.11.28

【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】

名古屋市名東区の住宅街にある西山商店街。全長わずか100メートル、1300歩という小さな商店街ですが、近年はユニークな活性化の取り組みがなされ、メディアなどで話題となっています。2024 4 月には、椙山女学園大学の橋本雅好准教授たちによる「コトづくり研究所」がオープン。一風変わったネーミングのこの場所は、どのようなスペースなのでしょうか。西山商店街でコトづくり”を実践する橋本准教授に話を伺いました。

【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり”

 

小さな商店街に吹いた新しい風。「ナゴヤ商店街オープン」

閑静な住宅街が広がり、ファミリー世帯が多く住む名古屋市名東区の星ヶ丘エリア。名古屋の玄関口・名古屋駅や繁華街・栄へのアクセスがよく、星ヶ丘駅前にもおしゃれなショッピングモールやデパートが立ち並びます。生活に便利なエリアながら、国内最大規模の動植物園が近くにあり、豊かな自然を身近に感じられるのも魅力。市内有数のマンモス小学校や大学が立ち並ぶ文教地区としても知られています。

【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり”
アーケードが続くレトロな西山商店街

星ヶ丘駅から歩いて15分ほど南下すると見えてくる、小さなアーケード街が西山商店街です。60年ほど前にまちが住宅地として造成されたのと同時に商店街が整備されました。当時は、精肉店や鮮魚店、美容室、洋品店など生活に密着した店が立ち並ぶ活気のある商店街だったとか。それから時は流れ、近隣に大型商業施設が続々とできると地域の商店は徐々に衰退。2015年ごろには、西山商店街で営業する店舗はわずか5,6軒になっていました。

 

そんな西山商店街の転機となったのは、名古屋市が2018年にはじめた「ナゴヤ商店街オープン」です。商店街の商業機能再生を図る取り組みで、西山商店街が舞台となりました。そうして誕生したのが「ニシヤマナガヤ」。福祉施設として利用されていた間口の広い2階建ての建物をリノベーションし、焼き菓子店やコーヒーショップ、花屋、キッチン付きレンタルスペース、建築事務所のオフィスなどが入る複合店舗に生まれ変わりました。さらに、2020年には再度「ナゴヤ商店街オープン」の実施商店街として採択され、グラフィックデザイナーが店主のセレクト本屋が誕生しました。

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椙山女学園大学 生活科学部 生活環境デザイン学科の橋本雅好准教授

星ヶ丘にキャンパスがある椙山女学園大学で環境心理学や感性デザイン論などを教える橋本准教授は、研究室の学生たちが「ニシヤマナガヤ」の自主施工に参加したことをきっかけに、西山商店街に継続的に関わるようになり、「ニシヤマナガヤ」の事業者である植村康平建築設計事務所と協働して、「ニシヤマナガヤ」の裏手にあった倉庫をコンバージョンした「未完美術館」、地域の子どもたちが集まる駄菓子屋「水都軒」のリニューアルなどを手がけ、西山商店街の再生に取り組んできました。そして 2024 4 月、「ニシヤマナガヤ」の隣に「コトづくり研究所」をオープン。事業者のひとりとして運営に関わっています。

 

 

みんなでつくった、まちに開かれたコミュニティスペース

【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり”
西山商店街の一際目立つ角地に建つ「コトづくり研究所」

「コトづくり研究所」は、西山商店街の角地にある2階建ての建物。1階の「コトコトカウンター」は、通りに面して設置された建物の奥まで続く長いカウンターで、区画ごとにレンタルすることができます。

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コトコトボックス
【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり”
「Happy Food ♪ Lab.」では、料理研究家・橋本文野さんによるおもてなし料理教室を開催

壁際にある「コトコトボックス」は、ボックスごとにレンタルして展示や販売などを自由にできるスペース。さらに、料理研究家による本格的な料理教室が開催されるキッチンスペース「Happy Food ♪ Lab.」があります。2階は西山商店街の活動やまちづくりに興味のある人たちが暮らす居住空間「へへへのおへや」。異なる役割をもつスペースがゆるやかにつながり、「みんなで、たのしいコト、あたらしいコト、おいしいコト、したいコト、をつくる研究所」をテーマに、“コトづくり”に取り組んでいます。

これらの空間は、植村康平建築設計事務所と協働し、橋本准教授と椙山女学園大学大学院の院生とともにプランニングし、大学生や地域の方々も巻き込んだ自主施工を取り入れて、つくり上げました。

「元々は喫茶店と駄菓子屋が入っていた場所をリノベーションしています。予算がなかったこともあり(笑)、地域の方々や学生などまちづくりや西山商店街での活動に関わりたいと言ってくれる人たちに声をかけて、内装の塗装や2階の床貼りなどはほぼ自分たちで自主施工しました。オープンまでの過程に関わってくれる人を増やして、地域に開かれた場所にしたいという狙いもありました」

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カーブを描く「コトコトカウンター」
【名古屋市名東区】 街と、人と、建築と。西山商店街で“コトづくり”
土間を通って裏口へ自由に通過できます

こだわったのは、商店街の角地という立地を活かしてまちに開いた建物にすること。ファサードは緩やかなカーブを描いていて、通りから中へと導かれるような設計になっています。中に入ると、「コトのみち」と名付けられた土間が裏口まで続き、「コトづくり研究所」の裏手にある駄菓子屋「水都軒」への導線になっています。南側の壁には子どもの目線の高さに窓を設け、通りを往来する子どもたちが建物の中を覗けるように。軒先には元喫茶店のカウンターを再利用したベンチを設置。すぐそばの市営バスの停留所にベンチがないため、「コトづくり研究所」の軒先を待合所の代わりに使ってもらえるようにしました。

 

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多彩な風合いのブルーのタイルは、常滑市・水野製陶園のタイルを設置、一部のタイルは工場に残されていたタイルを活用
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喫茶店のカウンターとして使われていた古材をベンチにアップサイクル

西山商店街らしいレトロ可愛いインテリアも特徴的です。商店街にあるレンガづくりの花壇のデザインを踏襲し、通りに面したカウンターにはブルーが目を引く常滑市・水野製陶園のタイルを使用。窓に設置されていた鉄のルーバーをイメージしたデザインも象徴的にあしらいました。家具は元々あった喫茶店で使われていた資材をアップサイクルし、喫茶店の面影を今に残しています。

「60年以上地域で愛されてきた西山商店街には味わいのあるレトロなアーケードや看板が今でも残っています。そういった商店街の歴史や雰囲気を取り込みながら、『コトづくり研究所』らしいアレンジを加えることを意識しました」

 

 

歴史を受け継ぎながら、あらたなコトを生み出していく

「コトづくり研究所」ができたことで、西山商店街には巡る楽しみが生まれました。

「『コトづくり研究所』を単体でつくることは難しかったかもしれませんが、商店街に新しい人が入ってきて、面白いコトが次々と起こっている中でのチャレンジは魅力的に感じました。『コトづくり研究所』に立ち寄って、隣の『ニシヤマナガヤ』、裏手の駄菓子屋や美術館まで、ぐるっと巡ってもらえるようになるとうれしいですね。事業者のひとりとして責任をもつのは運用面、収益面など大変なことも多いですが、西山商店街で何かしたいという人を巻き込みながら、みんなで“コトづくり”に挑戦していきます」

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生憎の雨でも賑わった秋の「コトコトマルシェ」
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松ぼっくりでクリスマスツリーを作るワークショップ

オープン以来、「コトづくり研究所」では、少しずつ新しい試みがはじまっています。2024年の春と秋には「コトコトマルシェ」を開催。レンタルスペースでのパンや雑貨の販売、「Happy Food ♪ Lab.」による「コトいなり」の販売、椙山女学園大学の学生やプリザーブド&ドライフラワー作家によるワークショップなどを行い、地域の人たちと一緒に盛り上がりました。

西山商店街でも、毎月第一土曜日に商店街全体で実施する小さなマルシェ「わくわくサタデー」がスタート。各店舗が軒先で販売やイベントなどを行い、小さな商店街がにわかに活気づいています。

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マルシェ開催時は橋本准教授も店頭に立ちます

「西山商店街は、1 周 300 歩という小さな商店街です。小さいながらいろいろな人がいて、みんなの顔が見えるコミュニティがあります。相談などもしやすく、新しいことを受け入れる土壌があるので、商店街以外の人たちが入り込みやすいのではないでしょうか。西山商店街に愛着をもつ人たちが増えていることに可能性を感じています」

西山商店街の歴史を未来へとつなぐ研究所。これからどんなたのしいコト、あたらしいコト、おいしいコト、したいコトが生まれてくるのか楽しみです。

 

備考

名称:コトづくり研究所
住所:愛知県名古屋市名東区西山本通2-24
Instagram:@koto_zukuri_lab
Email:koto.zukuri.lab@gmail.com
Information:
● 2025年春に「コトコトマルシェ」を開催予定。詳しくは、Instagramでご確認ください。
● 西山商店街では、毎月第一土曜日に「わくわくサタデー」を開催。@nishiyama_shoutengai

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