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【愛知県名古屋市・三重県菰野町】『社会のデザイン力を上げる』デザイナー・稲波伸行の飽くなき挑戦 インタビュー後編

2025.01.22

【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】

名古屋市のデザイン会社「RW(アールダブリュー)」の代表・稲波伸行さんへのインタビュー後編。三重県菰野町の地場産業、萬古焼の再興を目指す取り組みについてお聞きした前編に続いて、2022年にスタートした「イナバデザインスクール」、そして現在手掛けられている新しいプロジェクト「東海湖産地構想」のことなどについてうかがいました。

【愛知県名古屋市・三重県菰野町】『社会のデザイン力を上げる』デザイナー・稲波伸行の飽くなき挑戦 インタビュー後編

 

 

デザインの力で地域のものづくりを考える
稲波さんの現在地

 

――地域のものづくりにまつわるプロジェクトを幅広く手掛けられていますが、さまざまな課題にデザインの力で挑戦する稲波さん自身の現在の立ち位置と活動の状況についてはどのように感じていますか。

稲波:自分自身としても会社としても、一貫して「社会のデザイン力をあげる」をミッションに掲げて活動をしていますが、実際は答えのない問いを自分自身に投げかけているようなもの。その答えを探りながら、できることから一つずつ動いているような状況はずっと変わっていないと思います。

 

――具体的な活動としては2022年にイナバデザインスクール(デザスク)をスタートされました。その様子を見学させていただきましたが、業種や立場の壁を超えてさまざまな方が参加されていてとても活気を感じました。

稲波:地域のものづくりって、まずベースに「地域軸」というものがあり、その上に「デザイン軸」があると気づいたんです。

それを踏まえて、社会の中でもっと効果的にデザインの力を使って貰うため、できることは何かを模索しようと始めた学びの場がデザスクです。その狙いや趣旨に興味を持ってくださり、経営スタッフや商品開発に携わる方、学生の方など、さまざまな立場の方々がたくさん参加してくださっています。

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イナバデザインスクールは「デザインをみんなのものに」をコンセプトに、デザイナーだけでなく、領域を超えた共創を目指し、事業活動に対し横断的なデザインができる人を増やし、企業側のデザイン活用の土壌をつくることを目指す学びの場として2022年に開講。

 

――スクールといっても単にデザインの技術を学ぶ場ではないと。

稲波:そうですね。僕らがデザイナーになった頃は、デザイナーはデザインしかやらないみたいな風潮が当たり前で、デザインの力で社会がどう変わるかなんていう視点を持つデザイナーはほとんどいませんでした。でも、新しさとか奇抜さだけを追い求めてデザインされたものって実際は使いにくかったりしていろんな弊害が出てきちゃうんです。本来、使い勝手や実用性なども含めてデザインするのがデザイナーの仕事だと思うし、もっと引いた視点で社会全体の仕組みを見て、その中でデザインがどう作用し、結果がどうなるかまでを見ることが大事ですよね。デザスクは、そういう考え方が広がることによって社会のデザイン力も向上していくことを目指しています。

 

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――なるほど。とはいえ社会の仕組みは複雑で、深く知るほどに課題解決の難しさを実感してしまい、結局、みんな自分のことで手一杯になってしまいがちなのに、それを見過ごしたり放っておくことができないのが稲波さんらしさだなと感じます。

稲波:放っておけないというか、そこがどうしても気になっちゃうんですよね。じゃあ僕に何ができるかと言われるとやっぱり何もできない(笑)。でもせめてみんなでそのことについて話し合う場ぐらいは作りたいとは思っていますね。

 

――そんな中でいま新たに手掛けているプロジェクトがあるとお聞きしましたが。

稲波:「東海湖産地構想」というんですが、かつて伊勢湾北部から濃尾平野にかけて琵琶湖の6倍を誇ったとも言われる東海湖という湖があり、そこに堆積した土を原料にして、瀬戸、常滑、美濃などこの地方に焼き物の産地が誕生したと言われています。そんなものづくりの原点ともいえるこのエリアで、産地や業種の枠を越えて事業環境の再構築を目指す取り組みを始めました。

 

――具体的にはどんな課題に取り組んでいくのでしょうか。

稲波:そもそものきっかけは、産地のサプライチェーンが分断されている問題をなんとかしていきたいと思ったことが始まりで、その後、東海湖を中心とした地形学的な成り立ちを知ってめちゃくちゃ面白いと思い立ち上げた活動です。その中に点在するメーカーや商社など、有志が集まって東海地方の窯業の産地をどうやって魅力的に変えていけるか、さらにそこから地場産業のある地域にどうやって人を呼ぶかという課題にも取り組めたらいいなと思っています。

 

――そのための調査や企業へのヒアリングなども行っているそうですが、そのなかで気づいたことや見えてきたことはありますか。

稲波:活動を始めてあらためて気づいたのは、とにかく「土はすごい!」ということ。これに尽きます。湖の底にあった土が窯業に使える粘土になるまでには果てしない時間がかかりますが、今ある鉱山のキャパでは、あと15年もすれば採り尽くしてしまうとも言われていて、新たに鉱山を開発するには数十億単位の莫大な費用がかかるでしょう。現在の地場産業にはそれだけの体力はなく未来が見えないんです。しかも一度高温で焼いて陶器になった土は、再び土に戻ることはありません。そんな貴重な土をあと何十年かで使い果たしてしまうって非生産的ですよね。そこでこの秋から、まずはみんなで土のことについて考え語る「土談」という企画をスタートしました。

 

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イベント「土談」のポスター

 

 

これからについて

 

――産地の厳しい現状に希望を見出せるような意義ある活動になるといいですね。
お金を儲ける方法論よりも、そういう現実に対して、稲波さんが今後どういう切り口で挑んでいくのか、そこにすごく興味があります。

稲波:ものづくりを生業にして生きる人がいる限り、現実的に何か次の手を打たないといけないですよね。ただ、お金を稼ぐことはもちろん大事だけど、生活の糧としての仕事ばかりになっちゃったら楽しくないので、得られるところでちゃんと稼がせてもらって、好きなことにはできるかぎり蓋をしないようにしたいとは思います。僕自身はモノを作る人ではありませんが、ものづくりそのものはすごく好きだし買うのも好き。より良いモノを作ろうと上を目指して努力をするところに人間修行があるし、商売や利益最優先ではなく、とにかく「いいモノ」を作るという姿勢や精神性の部分は非常に尊い。そこをちゃんと評価して正当な対価を支払っていける社会になればいいなと思います。モノが溢れている時代だからこそしっかりしたものづくりが残っていけばいいですね。

 

――好きなことを諦めない。それは稲波さんが目指す「社会のデザイン力をあげる」ということにも通じる気がします。

稲波:今の日本らしさ、日本の価値って、そうしたものづくりが連綿と続いてきた先に形づくられてきている気がしているんですよね。それは昨日今日の即物的なものづくりでなく、長い時間をかけて培われてきた、文化としてのものづくりの中にあること。だからやっぱりなくなってしまうのはさみしい。答えは簡単には出ませんが、これからもできることに一つ一つ丁寧に取り組んでいきたいですね。

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2日に分けて、合計約4時間にわたる長いインタビューに丁寧に答えてくださった稲波さん。

 

 

~インタビューを終えて~

 

社会の変化にともない、人々のそして社会全体の価値観は移り変わります。そのなかでデザインの力と可能性を信じ、答えのない課題に真摯に向き合い続ける稲波さん。全国に誇るものづくりの拠点に軸足を置き、常に現場に目を向け活動するデザイナーとして地域のプライドを守り、新しい価値観が育まれ健全な経済活動を継続させていくことへの使命を強く感じました。社会のデザイン力をあげることは、ものづくりに携わる立場の人に限ったことではなく誰にとっても必要なマインドであり、どんな時代においても普遍的なテーマなのかもしれません。

 

屋号

株式会社RW

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住所

愛知県名古屋市中区錦2丁目2-11-13-2A

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