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山形納豆物語 第十一話

連載

2025.02.17

山形の人は、納豆が好きだ。

愛知へ嫁にきて20年、山形を離れて初めて気づいたことだった。
まずはスーパーの納豆コーナーをみてほしい。その広さ、中小メーカーがひしめく多様なラインナップ。みんなお気に入りの納豆で、納豆もちを食べ、ひっぱりうどんをすすっているに違いない。そんな山形の、納豆にまつわる思い出や家族のことをつづっていきたい。

第十一回目は、「中学校での納豆の思い出」について。

山形納豆物語 第十一話

給食に納豆が出る。私にとっては当たり前のことだったが、出ない県もあるそうだ。ちなみに、先月、今月と、山形の給食では納豆汁が出ている。

私が思春期真っ只中の中学生だった頃、給食の納豆は複雑な存在だった。
家で食べるものよりなぜか美味しく、お気に入りだったのだが、食べると絶対にひいてしまう糸が問題だった。このネバネバした糸で、自分の口と箸が繋がっていることがむちゃむちゃに恥ずかしかったのである。
「絶対誰かにみられているに違いない」
自意識の塊だった私は、どうやったら自然体で糸をさっと処理できるのか、ちょっと早く箸をまわしたり、なるべく糸がつかないように口を大きめに開けたりと、誰からも気づかれない範囲で試行錯誤を繰り返していた。

一方、2歳離れた妹はというと、「最悪だったよねぇ」と給食の納豆をぶった切った。
「ご飯の時は、弁当箱を持って行かなくちゃいけなかったじゃん」
今となっては「なんだそれ?」と思う方も多いと思うが、私達姉妹が中学生だった35年ほど前は、給食がご飯だと、家からアルミの四角いお弁当箱を持っていった。ご飯を盛り付ける食器として使うのだ。
「弁当箱を忘れると、友達から蓋を借りたじゃん。納豆の日に忘れると最悪でさー。友達の蓋で納豆ご飯食べて、ネバネバになったやつを返すのが申し訳なさすぎるし、受け取る方もしんどいよねぇ」
私は、納豆の糸の処理に頭がいっぱいで、周りでそんな悲惨な出来事がおこっているなど、微塵も記憶になかった。
「納豆臭い弁当箱を鞄に入れとくのも嫌だったしさ~。別に家で食べっから、納豆なんて出さなくてもいいよって思ってたよね」
給食の納豆をちょっと喜んでいた私とは大違いの見解である。

中学校での納豆の思い出と言えば、もう一つある。

それは、ある日の英語の授業のこと。外国人の先生がやってくる時間だった。
先生が言うことに一直線に従い、積極的に授業に参加していた大真面目な私は、いつも通り、誰よりも大きな声で挨拶し、先生の顔を真直ぐに見て授業に参加していた。

すると、そんな姿が目に留まったのか、外国人の先生が質問してくれたのである。
その質問はなぜか
「ドゥー ユー ライク ナットウ?」
であった。

私は一瞬うろたえた。
茶色くて、ネバネバと糸を引いて、におう「納豆」は、どの要素をとってもイケていない、自分の中でなんとなく恥ずかしい存在だった。「イエス」と胸を張っては言えない。
でも、「ノー」って言えるのだろうか?全然嫌いじゃないのに、嘘だよな、変だよな…
気持ちは交錯するものの、とにかく先生の質問に早く答えることが一番大切である。私は迷いを振り切って、はきはきとこう答えていた。

「イエス!アイ ドゥー!」

「ベリー グッド!」と褒められたような気がする。ほっと一安心して、席に座った。

その授業の後からしばらく、私は心無い男子たちに「納豆」と呼ばれることになる。やっぱり納豆は、思春期の中学生にとって、からかいたくなるような存在なのかもしれない。「あ~あぁ」と想定内の展開に身を置きつつも「イエス!」と答えたことに後悔はなかった。

山形納豆物語 第十一話