【金沢】ビンテージマンションになるまで、愛されるように。/「THE TERRACE SAIGAWA」設計者インタビュー
金沢市を流れる犀川のほとりにて現在建設中の「THE TERRACE SAIGAWA」。2025年3月末竣工予定で、金沢R不動産にて入居者募集中です。こちらは金沢では希少なデザイナーズマンション。今回は設計者であるR.E.A.D. & Architects の岡田一樹さんに、THE TERRACE SAIGAWAに込めた想いや、細部へのこだわりまでお話をうかがってきました。


他のどこでもない、「この場所」のためだけに設計されたマンション
北陸新幹線開業以降、新築マンションが続々と建っている金沢中心市街地。設計プランや間取りが、あらかじめ“デフォルト”として設定されていている量産型マンションが多いなか、THE TERRACE SAIGAWAは、このローケーションのためだけに一部屋一部屋、文字通り“一から”設計されているデザイナーズ マンションです。
「マーケット調査をしていた時も、『金沢では比較対象になる物件がないので査定できない』と言われましたね(笑)」そう話すのは、THE TERRACE SAIGAWAの設計を担当している一級建築士の岡田一樹さん。

過去と未来が共存する“交差点”にある街で
岡田さんが代表を務めるR.E.A.D. & Architects は東京の設計事務所ですが、実は岡田さん自身金沢とは深いゆかりがあるそう。建築家・谷口吉生さんが営んでいた「谷口建築設計研究所」の出身で、在籍中には「鈴木大拙館」を担当されています。

「金沢はすごく好きな街の一つです。城下町としての圧倒的な歴史がある中で、新しいことも積極的に受け入れて、兼六園と金沢21世紀美術館が違和感なく共存している。過去と未来が共存する“交差点”に立っているような印象をいつも受けます」
THE TERRACE SAIGAWAのオーナーも、金沢で生まれ育った谷口建築ファンのお一人。建築士を探していた際に、谷口建築設計研究所から独立した岡田さんの事務所をインターネットで見つけ、今回の依頼につながったそう。

“数字”よりも、地域から長く“愛される”マンションに
THE TERRACE SAIGAWAの敷地は、元々オーナーのご実家と犀川レジデンスというオーナーが運営するアパートが建っていた場所。代変わりを機に、この二つの建物を解体し土地を一つにして、新築の賃貸集合住宅を計画していました。
「オーナーとの初めての打ち合わせで『住む人と地域に長く愛される建物にしてほしい』と、開口一番におっしゃったんですね。『利益や効率だけを追求することは考えていない。自分が生まれ育ったこの土地に恩返しがしたい』と、熱意を込めてお話しくださいました。
東京のデベロッパーというと、『1平米でも広く』『少しでも多く家賃が取れるように』という話が多いイメージなので、逆のことをおっしゃるのに驚いて。ご自身の生まれ育った土地への深い愛着を、当初から感じていました」
土地の歴史を、丁寧に読み解く
オーナーの想いを受け、設計のプランニングに取り掛かった岡田さん。手始めに取り掛かったのは「土地の歴史」を丹念に調べることでした。
「古地図や文献を調べみると、『中央通町』という町名に変わる前、この場あたりは『西馬場町』『新川除町』『西御影町』という町名でよばれ、犀川沿いに築かれた堤防の上にできた町だということを知りました。藩政時代は、犀川沿いから『伝馬』と呼ばれる馬が物資を運び、住民が商業を営み、人の往来があった場所だったようです」
社名にもあるよう「与えられた場の環境を丁寧に読み解く(=READ)」ことを設計において重視しているという岡田さん。普段も江戸時代まで遡るところがスタートするのか尋ねると「そこはやはり、“金沢だから”ということが大きいです。歴史に敬意をはらうという手法は、“歴史がのこる土地”でしかできないことですから」。

通路一つからでも、土地の“巡り”が変わる
歴史を紐解いていくうちにうちに、ある「不自然な路地」の存在に岡田さんは気づきます。
「敷地の北(犀川神社側) に、行き止まりになっている金沢市の細い道路があることに気づいて。その道がなんだかとても気になったんですよね」


路地について古地図を調べたり、犀川神社の宮司さんへのヒアリングを重ねる中で、行き止まりのその道路は「かつては川に通じていただろう」ということがわかりました。そこで、岡田さんは、THE TERRACE SAIGAWAの建設にあたり、この路地を復元することを提案しました。
「通り抜けできるようになることで、地域住民の方が自由に川側と町側を行き来できるようになるし、街としての回遊性も高まります。加えて、路地を設けるために犀川側(南側)も建物をセットバックさせることで、車や歩行者が一時退避できるスペースを敷地内に作り、交通渋滞の緩和や歩行者や住人の方の安全確保にも貢献できると考えました」


通路一つでも、土地の“巡り”を改善することができる。これは土地の文化に敬意を払い、丁寧に歴史を読み取って設計されたものだからこそ編み出せた手法だといえます。
「住人の方が心地よく暮らせるだけでなく、オーナーのご要望であった “地域の方に貢献できる建物としたい”という想いに応えた公共的な空間にできたのではないかと思っています。『街と関わる建築計画をすることで、その建物はより長く残る』というのは、谷口吉生さんがよく仰っていたことの一つでもありました」
「環境の魅力」を最大限に引き出す設計
マンションの設計コンセプトになっているのは、建物名にも入っている「TERRACE(テラス)」。
各部屋のテラスやルーフトップテラスなど、川沿いの景観を存分に楽しめる仕様になっています。“TERRACE”には、英語で“バルコニー、ベランダ、テラス”という意味に加えて、“台地・河岸沿いの段丘”という意味があるそうで、まさにこの建物を象徴するような言葉です。
「犀川という、金沢を象徴する景観に面して建つということは、とても重要なアイデンティであり、まず生かすべきはこのロケーションだと感じました。オーナーにとっても思い出がつまった風景であると同時に、日常的に眺めていたものだったので“特別なもの”としては感じていらっしゃらなかったのですが、『いや、ここはまたとない素晴らしい場所ですよ』とお伝えしました(笑)」
単なる「テラス」ではなく「アウトリビング」という考え方
THE TERRACE SAIGAWAでは、全ての住戸が犀川向き(南向き)に計画されており、全住戸に広々とした(奥行最大2.4m!)のテラスデッキバルコニーを設けられています。
「通常の賃貸マンションでは、バルコニーは部屋の“付属品”といった位置付けで、それよりも『少しでも部屋を広くとる』ことが重視されると思います。けれど今回、あえてバルコニーを広くとったのは、それが単なるバルコニーではなく“アウトリビング”として捉えているからです。なのでテーブルと椅子のセットがおける広さは確保しています。天気の良い日には外で朝食を食べたりと、川沿いの暮らしを楽しんでいただけたら嬉しいですね」

全ての部屋に細かく加えられた“微調整”
また、大きくとられた窓の位置も部屋ごとに変えています。「マンション」というと均一に配置された窓をイメージしますが、THE TERRACE SAIGAWAの窓を外から見ると千鳥状の配置。それは「その部屋にとっての最高の眺めを切り出したい」との想いから。
「桜の木が見えるから窓をこちらにして、リビングはここにしようとか、犀川神社が見える寝室は特別な仕様にしよう、など。同じ敷地でも方角や階数の違いで景色も変わります。全ての部屋に、そういった“微調整”を細かく加えています」

住人がつくりあげる“余白”がある、ニュートラルな部屋
一部屋一部屋の隅々にまで細やかな配慮がなされている、THE TERRACE SAIGAWA。いわゆる「デザイナーズマンション」に分類されるわけですが、部屋自体は意外とシンプルで、デザイナー(設計者)の“個性”や“こだわり”を前面には出さないニュートラルさがあります。そこには「住む人が作りあげられる余白のある空間にしたい」という、岡田さんの想いがありました。
「THE TERRACE SAIGAWAの設計依頼をいただいてから、都内でデザイナーズの賃貸マンションを見て回りました。その中で『デザイナーがやりたい奇抜なことをやってはいるが、住人目線だと住みづらく空き部屋』という空間をいくつか目の当たりにしたんですね。そういった部屋は確かに面白いんだけれど、長い目で見ると段々人が住まなくなっていく。なので、今回それぞれの部屋にすごくこだわっているんですが、奇抜なことは避け、あくまでニュートラルで誰でも心地よく住みやすい部屋にすることを心がけました」

「住みやすさ」をデザインと引き換えにしない
住みやすさへのこだわりは、充実した「設備」にも現れています。全室エアコン付き、オートロック、高断熱、光高速インターネット・ホームセキュリティ付き‥などなど、“最新の新築分譲マンション”と同等の仕様に。暮らす人たちの「心地よさ」をデザインクオリティーと引き換えにしない、という強い意志を感じます。

“暮らしのポテンシャル”を引き出す、ソフトとしての「共用部」
「敷地環境」のポテンシャルを最大限に引き出すと同時に、「住人の皆さんの暮らし方のアイディアやポテンシャルも引き出したい」と岡田さん。そのための“ソフト”としてのユニークな仕掛けが「共用部」として設けられています。
一つ目は、屋上に設けられた「ルーフガーデン」。犀川を一望できるこのテラスを住人の方が自由に使える「共用部」として設けています。(片側は301号室専用のプライベートガーデン)
「屋上のルーフガーデンはオーナーの強い要望があって実現したものです。かつて建っていたアパートの屋上から、花火を眺めていたという思い出もうかがいました。春にはソメイヨシノが咲き乱れ、秋には紅葉で赤く染まり、冬には雪化粧した山々を臨めるー‥。四季の移ろいと自然を感じられる、贅沢な空間を存分に楽しんでいただけたら」

住人のアイディアで、新しいライフスタイルが生まれる
二つ目の“装置”は、入居者が自由に使える「共用ラウンジ」。フリーコーヒーが楽しめるようコーヒーマシンが設置される予定で、テレワークや応接空間として、様々な用途で使用することができます。
また、共有ラウンジは貸切にも対応しており、作家さんの個展やイベント開催なども可能。アイディア次第で様々な楽しみ方ができるように。
「自分らしく快適に過ごしていただけるための“装置”としての建物空間を僕らは用意しましたが、後は住人の方々のアイディアによって、新しいライフスタイルを提案いただけることを期待しています」

「本物」を使って、経年変化も楽しむ美意識
THE TERRACE SAIGAWAは、金沢の相場としては“高め”といえる家賃設定。「コストダウンへの努力は相当していますが、“暮らしの快適性”はもちろん、“本物の素材”を使うということにはこだわりました」と岡田さん。
「一般的に、日本の共同住宅は新築以降価値が目減りしていく一方ですが、海外では“ビンテージマンション”としての価値が認められています。
このテラスサイガワでも、経年変化を楽しめるよう、フローリングも含めて基本的に材料は“本物”を使用しています。自然素材が時を重ねる中で変化していくことは、本来美しいことでもあるはず。特に金沢には、その美意識が根付いていると思います」

「ここがいい」と選んだ人々によるコミュニティ
全9戸というTHE TERRACE SAIGAWAの戸数の少なさが、「ここでは最大のメリットとして働くと思うんです」と岡田さん。
「不特定の大多数ではなく、本当に『ここがいい』と思ってくださる方に選んでいただけたら。また、9戸というコンパクトさなら、多くの住人が“顔見知り”という状態になってくると思います。賃貸マンションだけれど一つのコミュニティのようにもなりますし、そのことが長く住んでいただけることに結果的につながるのではないかと思っています。末長く、ビンテージマンションになるまで、愛されてほしいですね」
3月16日より個別内見の受付を開始致します。「ぜひ現地で空間を体感してほしい」と岡田さん。「一般的なマンションは間取りや数字で決めてしまうこともあるかもしれませんが、実際の“空間の感じ方”というのは数字とは必ずしもリンクしないものなので」。
建築士が一から設計したデザイナーズマンション。“数字”を凌駕する空間、そしてロケーションをぜひ現地でご体感ください。

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【PROFILE】
岡田一樹/Kazuki Okada
「R.E.A.D. & Architects」代表。一級建築士。兵庫県出身。京都工芸繊維大学の松隈洋研究室で近代建築について学び、大学院卒業後に建築家・谷口吉生の事務所に入所。9年間の在籍中、2011年の鈴木大拙館の設計監理、2014年の谷口親子展の展示計画とギャラリートーク、京都国立博物館平成知新館、ホテルオークラ東京などの設計に携わり、2017年に独立。2023年に「軽井沢のセカンドライフハウス」で第16回 長野県建築文化賞を受賞
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【内見情報】
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屋号 | THE TERRACE SAIGAWA |
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