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【愛知県・春日井市】木工を子どもたちの憧れの仕事に「アーティストリー」大西功起さん前編

2025.04.22

春日井市の「ARTISTRY(アーティストリー)」は、商業施設等の什器や特注家具を製造する木工メーカーです。営業開発部長でクリエイティブディレクターの大西功起さんは、3D CADや5軸CNCなどのデジタルファブリケーションと職人の技術をかけ合わせた「3D木工」に力を入れ、話題の施設やプロダクトを多数生み出しています。最近では、付加価値の高い3D木工サウナのつくり手としても活躍中。新しい木材表現に挑戦し、木工を憧れの仕事にしたいと奮闘する大西さんに話を伺いました。インタビューを前後編の2回に分けてお届けします。

【愛知県・春日井市】木工を子どもたちの憧れの仕事に「アーティストリー」大西功起さん前編
手前中央が大西さん。「わの休憩所」プロジェクトのメンバーと

 

 

木工職人を目指して飛騨高山、そして春日井へ

【愛知県・春日井市】木工を子どもたちの憧れの仕事に「アーティストリー」大西功起さん前編
春日井市の本社でお話を伺いました

 

ー大西さんのキャリアのスタートは飛騨高山の木製家具メーカーだと伺いました。

そうですね。名古屋芸術大学出身で、同級生は大手メーカーにプロダクトデザイナーとして就職する人が多くいましたが、僕は机上でデザインするだけでなく、実際に手を動かすものづくりをしたいと考えて、木製家具の業界に飛び込みました。

大学の授業で、使われなくなった小学校の家具のリデザインをしたことがあり、木材という有機物を人の営みの道具に変える木工の世界に惹かれるものがあったのです。

木製家具の代表的な産地である飛騨高山の老舗家具メーカーに就職し、主にイスの製造に携わり、役職についてからは生産管理なども任せてもらいました。

平日は早朝から会社で働き、仕事が終わると知り合いの工房を借りて木製家具や雑貨の制作に没頭。週末は木工作家が集うイベントの実行委員をするなど木工漬けの日々を過ごしました。

 

ーハードな20代ですね。30歳を目前にして、アーティストリーに転職したのはなぜですか。

飛騨高山で木工作家や伝統工芸の担い手など木工に関わる方々と接するうちに、量産家具だけでなくフルオーダーの家具や内装も手がけてみたいと思うようになりました。そんなときに知人のツテで、紹介してもらったのがアーティストリーでした。

当時コーポレートサイトは古いものでしたし、本社を訪ねると倉庫のような建物で、どんな会社なのだろうと懐疑的になりましたが、社長と話して印象が一変しました。5年先、10年先のビジョンがはっきりとしている会社ですし、面白い仕事をたくさん請け負っていることも分かりました。

そして何より、社長がものづくりを心から楽しんでいることに感銘を受け、ここなら面白い仕事ができるだろうと思い転職を決めました。

 

 

 

3D木工を広めたい。職人から営業に転身

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5軸加工による3D木工

ー家具職人として入社し、数年後には営業職に転身していますね。

2015年に職人として入社し、翌年には会社で5軸CNCを導入することになって僕がオペレーション担当になりました。

【愛知県・春日井市】木工を子どもたちの憧れの仕事に「アーティストリー」大西功起さん前編
2016年にドイツ「HOMAG」社の5軸CNCを導入

5軸CNCはプログラムによって直線3軸と回転傾斜2軸を同時に切削加工できる機械で、木工表現の幅を大きく広げてくれます。でも、実際は5軸CNCを生かせる面白い依頼はなかなか舞い込んできませんでした。

建築・内装業界の商流がボトルネックになっているからです。アーティストリーのような木工の専門業者は商流の川下にいて依頼主との距離が遠く、間に施工会社や設計会社が必ず入っています。

完成品ができたときに名前が出るのは元請けの会社や建築家、デザイナーのみで専門業者の名前は出ない。ですから、専門業者が特殊な技術をもっていても、サプライチェーンの川上にいる人たちに知ってもらえる機会はありません。

それなら、僕たちの技術を川上の会社に売り込みにいきたいと思いましたが、施工会社は専門業者が依頼主とつながることをよく思わないのです。

状況をなんとか変えたいと考えて、5軸CNCのオペレーターを後輩たちに任せられるように引き継いで、営業職に転身しました。そして、不義理にならないよう普段お付き合いをしている施工会社とはまったくつながっていない営業先を調べ、新規営業を始めました。

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イタリア「BIESSE」社の5軸CNCも新たに導入

 

ー大きな方向転換ですね。営業先で自社の売り込みをすると思いますが、大西さんはアーティストリーの強みはどこにあると考えていますか。

木材加工用の5軸CNCは、補助金などを活用すれば投資できる価格帯です。3D CADによる図面データ作成や機械のオペレーションなども、最近は大学で学んでいる学生が多く、人員確保できると思います。ですが、図面に起こしたものを具現化するための知恵と技術力がないと、最終的に良いものをつくることはできません。

アーティストリーには、木工の職人集団として30年以上培ってきた知識、経験、技術に基づいた対応力があります。その土台の上でデジタル技術を取り入れた新しい木工表現に挑戦しているのです。このアナログとデジタルのかけ合わせによるものづくりは、他社には真似できないところです。

 

ーデジタル技術に明るい若手と対応力をもつ職人が多数いるアーティストリーだからできることなのですね。

アーティストリーの技術を「3D木工」と名付けてブランディングに力を入れています。ただ、僕は3D木工をアーティストリーだけのものにしたいとは思っていません。実際に同業者と横のつながりをつくってCNCのオペレーションについて情報共有したり、アーティストリーが受けた仕事を、CNCを持っている会社に発注したりして協業しています。

 

 

 

目先の利益より、市場を盛り上げることが先決

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「木工業界全体を盛り上げたい」と、大西さん

 

ーそうなのですね。3D木工の先駆者であるアーティストリーのノウハウを外に出してしまっていいのですか。

今の市場は、100の木工の仕事を1000人で取り合っているような状況です。それより、100の仕事を10万に増やすことをやったほうがいいのです。

これまで木工では叶わなかった立体的で有機的なデザインを実現できる3D木工は前例があまりなく、「つくりたいけどつくれない」とか「木材では無理」と思われて、プロジェクト化しないケースも多くあります。3D木工の担い手が日本各地に増え、サプライチェーンのミスマッチが減れば、素晴らしい事例がたくさん生まれます。その事例を見た企業や個人の方が次のプロジェクトに思いを馳せてくれたら、木工産業は活性化すると考えています。

アーティストリーは他社より先行して3D木工の事例をつくっていますので、市場が活性化したときには、より大きな仕事、技術力が求められる仕事はうちに指名で入ってくるようになると思います。それすれば、僕たちは下請けではなくものづくりのパートナーになることができる。ですから、まずは市場を盛り上げることが先なのです。

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アーティストリーは県産材利用を推進。県産材の仕入れも行っています

さらに持続可能性の観点で考えると、3D木工がうちでしかできないとしたら全国から仕事が集まると思いますが、木材を各地に運送するのにコストがかかるし、無駄なCO2を排出することにもなります。

地域の仕事は、地域の木材を使って、地域のつくり手が手がける方が業界のサプライチェーンとして健全です。アーティストリーが地域のつくり手に対してオンラインでサポートし、全国どこでも3D木工の作品が生まれるようにしたくて、いま受けている仕事もそういったやり方をしています。

 

 

 

コロナ禍にスタートしたオンラインプロジェクト

【愛知県・春日井市】木工を子どもたちの憧れの仕事に「アーティストリー」大西功起さん前編
社員同士の憩いの場になっている「わの休憩所」。屋外に置かれていますが、4年経ってもほとんど劣化はありません。

ー大西さんが営業職に転身してほどなくして、コロナ禍に突入していますね。

営業に転身した2年目にはコロナの影響が出始めました。「中国で作れなくなったから、アーティストリーさんにお願いしたい」と安値で依頼されたり、入札もこれまで以上に安い見積もりしか通らなくなったり。

これまで技術力と対応力で売ってきたのに、価格だけが重視されてしまう。社内の雰囲気もどんよりとしていて、やはり下請け構造から脱却しなくてはいけないと再認識させられました。それで、アーティストリーの技術を知ってもらうために何かできないかと考えたのがオンラインでの産学連携プロジェクトです。

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「わの休憩所」プロジェクトは、オンラインサロンをきっかけにスタート

ーオンラインでの産学連携プロジェクトとは、どういったものですか。

著名な建築家・谷尻誠さんが主宰するオンラインサロンに僕が参加していたのですが、谷尻さんの影響力は大きくて、サロンメンバーには建築を学ぶ優秀な学生が多くいました。話を聞くと、コロナ禍でキャンパスに通えず家に閉じ込められていて、モチベーションはあるけれどもて余していると。大学でデジタルファブリケーションに触れていて、技術力も高いので、彼らと組めばきっと面白いことができると思いました。

ちょうどアーティストリーの屋外休憩所がボロボロになっていたので、オンラインサロンでプロジェクト化してつくり直したいと考えました。

社長に企画書を出すと、「コロナ禍で仕事もないし、大西くんがやりたいならやってみたら」と承諾してもらいました。オンラインサロンでプロジェクトメンバーを募り、大学1年生から修士生まで多様なメンバーに参加してもらって、アーティストリーとオンラインサロンの学生を中心としたメンバーが協業する産学連携プロジェクトをスタートしました。

 

ープロジェクトはどのように進めていったのでしょうか。

やり取りは基本的にオンラインで。学生たちが中心となってパラメトリックデザインを考案。デザインデータを元にアーティストリーのオペレーターや職人が362個のパーツに展開して、デジタル加工しました。

独創的なデザインを採用したことで、費用は予算の数倍に膨らみました。それで、クラウドファンディングでも製作費を集め、支援者にパーツの組み立て・接着を手伝ってもらうなど、プロセスエコノミーの手法を取り入れて開始から7か月の期間を経て完成させました。

進捗をSNSにアップすると、学生から社会人までたくさんの方がフォローしてくれて、メディアにも取り上げていただきました。完成してもう4年ほど経ちますが、これまでに800人以上がプロジェクトで完成した「わの休憩所」の見学やアーティストリーの視察に来てくれています。

 

ー木材がこんなにも有機的な形状になるのですね。とてもインパクトがあります。

プロジェクトが話題となり、アーティストリーの3D木工を広く知ってもらう機会になりました。プロジェクトが縁で仕事につながった事例もあります。また、オンラインでのプロジェクトの進め方やチームビルディングのノウハウを習得できたことも大きな財産になりました。

 

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「わの休憩所」は、2021年度のウッドデザイン賞を受賞。このプロジェクトによって、アーティストリーの3D木工は多くの人の目に留まり、新規案件が増加。世界的にも珍しい3D木工によるサウナを手がけることになるなど、新しいステージへ進むことになりました。インタビュー後編では、アーティストリーが手がけた3D木工プロジェクトやサウナビルダーとしての活動、そして大西さんが目指す木工の未来について深掘りしていきます。

屋号

株式会社アーティストリー

URL

https://www.artistry.co.jp/

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