由緒正しき香辛料の神様
波自加彌神社
「愛羅武勇」と書けばちょっと前はI LOVE YOUだった。では、「波自加彌」と書いて?
それは今も昔も「はじかみ」と読む。「恥じらい」ではない、「はじかみ」だ。「はじかみ」とは、生姜の別名で、うなぎにパラパラとするあの山椒や山葵(わさび)の古語でもある。
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『古事記』『日本書紀』でも書かれているように、日本では古くから大勢のさまざまな神様がいると考えられてきた。山の神、海の神、水の神、建物の材料の神、知恵の神etc …とある中で、ここ金沢には、「歯でかんで辛いもの」即ち、香辛料の神様である波自加彌神(はじかみのかみ)がいらっしゃる。波自加彌神社は金沢の北端である花園八幡町にあり、調味医薬と五穀豊穣の神として歴史は古く、2001年には1300年の式年大祭を迎えている。たいへん由緒正しき神社なのである。
この神社では毎年6月15日には「しょうが祭り」が行われるが、江戸時代には加賀・越中・能登の料理店主がお参りしたという。現在では、ジンジャーシロップも人気のぶどうの木や、総合食品のカナカンといった地元食品企業の他、カレーで有名なエスビー食品、ふりかけはもちろん生姜を使った食品にも力を入れている永谷園、きざみ生姜や生七味の瓶詰めがヒット中の桃屋など、東京はじめ全国のこの筋の企業人の方々が、毎年この地に駆けつけている。業界には知られた神社なのである。
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宮司の田近さんはこの波自加彌神社の他にも、水を分ける神様である水分神社など42社の宮司を務められている。神社業務に大学講師、民生委員そして夜の飲み屋街社交活動など、超の付く多忙な日々にもかかわらず、リアルで豊富な写真とともに神社の活動日記をブログで綴られており、更新頻度の高さもまた一級である。
祈祷を受ける場合には要予約の場合があるとのことではあるが、神社なので、当然誰でも自由に参拝に訪れることができる。江戸時代の料理人に倣って、全国の現代の料理人の皆さんにも是非足を運んでいただきたい。カレー、激辛ラーメンは言うに及ばず、和食にわさび、洋食に胡椒、お菓子作りにもシナモンは使われるし、香辛料にご縁のない料理人はいないだろう。
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初詣の参拝客には甘いお神酒ではなく、生姜湯がふるまわれるという。神社は田園風景を通り抜けた少々森めいたところにあり、周辺の空気は清明だ。人や自分に甘々で、ガツンと「ピリ辛力」を付けたい方にも、金沢に移転してきてキリリと良い気分で新生活をスタートさせたい方にも、波自加彌への参拝は、必ずやこころと体にクールな刺激となり、爽やかな明日への力添えになることだろう。