Not スナック but SNACK
SNACK春駒 (コミュニケーションスペース 福井県越前市)
福井県越前市と聞いても知らない人が多いかもしれない。でももし福井を訪れる機会があったらぜひ足を伸ばしてほしい場所がここにある。かつての武生市が平成の大合併で近隣町村と合併して誕生。その旧武生市エリアの市街地には、今でもひっそり古い料亭が残っている。そんなかつての料亭を改装したのがSNACK「春駒」だ。
JR北陸本線福井駅から普通列車で19分、できれば今も地元民に愛されている路面電車の「福鉄(福井鉄道)」でチンチン揺られていくことをオススメする。最寄りの武生駅から徒歩で10分ほど行ったところにある。
料亭だったころの風格が残る建物は見るだけで「おお」とつい唸ってしまうカンロク。お向かいさんはまだ現役でがんばっている料亭で、この一角を歩くだけでなぜか御大尽になった気分にさせられる。
先代の女将さんが亡くなって料亭が閉店となり、その後越前市に寄贈されたのだが、この度SNACKとして再びオープンした。
SNACK「春駒」を立ち上げたのはオリゼー企画という企画団体で、メンバーの牛久保星子さんと森岡咲子さんはそれぞれ全く違う仕事をする傍ら、SNACK春駒をはじめとした福井県のまちおこし系プロジェクトを一緒に行う仲間。福井県民でも詳しく知らない人が多いこのエリアを楽しむにはぜひここに立ち寄って彼女たちに話を聞くといい。
実は牛久保さん、地元出身ではない。群馬生まれで東京の飲食店で働いていた彼女は「日本酒のおいしいところで暮らしたい」という理由で2014年に越前市に移住。
一方の森岡さんは福井市の出身で東京の大学を卒業後大手ゼネコンに勤務していたが、生まれ故郷の福井市にUターンして手作りで一軒家をゲストハウスにリノベーションして経営しているツワモノ。
まったく出自も経験も違う二人。まちづくりに興味を持った牛久保さんとゲストハウスづくりに孤軍奮闘する森岡さんが意気投合するまでの時間はかからなかった。
2015年の年末。以前から春駒でイベントを行ってきた牛久保さんが森岡さんに「オリゼー企画で春駒を借りよう」と持ちかけた。そして2015年12月に週3日間(水・木・金)の試験営業としてコミュニケーションスペース「SNACK春駒」がオープン。
「notスナック but SNACK」、今やここはいわゆるカラオケと安酒のスナックというより、地元の面白い活動をやっている人たちが夜な夜な立ち寄ったりイベントをやったりする新しい拠点だ。
「武生にも面白い人がたくさんいるのにみんなが集まることのできるお店が少ない。古い街並みが残っている市街地の、しかもたっぷり歴史を感じさせる建物で何か始めたら面白い人たちが集まってきっと面白いことが起こるはず」
SNACKという場所をオープンさせた理由を尋ねると、そんな答えが返ってきた。
春駒付近の旧料亭街に限らず、旧武生市街地エリアにはかつての様子を窺い知ることのできるところが他にもある。蔵の辻と呼ばれる一角もそのひとつ。空襲で丸焼けにされた福井市と違って戦災を逃れたこの辺りには昔の建物がかつてのままの風情で残っている。
「面白そうだから自分も一日やってみたい」「定期的にここでイベントをやりたい」遊びに来た人自身がそうやって少しずつ春駒を借りて使い、盛り上げていってくれて、面白い人たちが面白いことをやり続けられる「余地」がどんどん広がってくれたらと牛久保さんたちは考えている。
「だからSNACK春駒は当面はあえて週3日だけの営業なんです」
お客として通りや建物の風情を肴に飲むのもよし。発信する側の一員となってここで面白いことを始めるのもよし。「武生を楽しみたい」人も、「一緒に何かやりたい」人も、SNACK春駒でどうぞ。カウンター越しに牛久保ママとまず話をしてみてください。