八ケ岳南麓でおもちゃづくり
佐藤明子さんの回文カルタ
「かいぶんかるた」、はじめて聞いた言葉だった。
「かるた」は分かる、しかしその前の「かいぶん」が分からない。音だけだと「怪文」にも聞こえて怪しげな言葉で構成されたカルタなのだろうかと、想像を巡らせた。
制作者は「やまのかみ木工所」佐藤雄高の妻、北杜市在住の佐藤明子だ。彼女の説明によって「かいぶん」は「回文」であることが判明した。上から読んでも下から読んでも同じことば「回文」のカルタなのだった。
「言葉に絵を付けるのが好きなんです。」佐藤は少しはにかんだ様子で語った。2015年の正月明けに「ことりかりとこ」という言葉を書いて絵を付けてみた。次の日、友人でアトリエヨクトの佐藤柚香(北杜市在住)に、「これをカルタにしたらどうかな」という提案をしたところ二人で盛り上がって、回文カルタの制作がスタートした。
ふたりの佐藤が回文を考え、やまのかみの佐藤が絵を付けるという作業だ。ただし回文の内容はやまのかみ佐藤が決定する。「回文によっては面白い絵になるものとそうでないものがある」とやまのかみ佐藤は言う。
佐藤は、回文の言葉と絵をひとつひとつ清書していった。
制作は順調に進み2月中には完成した。しかしここで問題が発生する。「紙の厚さにこだわりすぎて、印刷費が予想よりもずっと高額になることが分かったのです。」印刷することで売価を抑えたかった佐藤は悩んだ。
そこで佐藤が決断したのは印刷をあきらめて手作りでいくということ。とは言っても、一枚一枚回文と絵を描いていくことは現実的ではない。そこで消しゴムにひとつひとつ文字と絵を彫り込んでいくことを決断した。佐藤がすべて掘り終わったときには3月も終わろうとしている時期だった。
その後、こだわった厚手の紙を仕入れて、1枚ごとに、版画の要領で回文と絵をスタンプしていく作業が始まった。1回に仕入れる紙の数量は44セット分。作業は仕事や家事や子育ての合間を使って約2週間かかるという。もちろん1枚ごとに印字する位置が微妙にずれることもあるがそれも手作りの味だ。
完成した「回文カルタ」は、スリーブのついた箱の中に、回文と絵の札が2列で収納され、手作り感だけではない製品としての完成度の高いものとなっている。発売を開始した「回文カルタ」は口コミやSNS経由で少しずつその存在が知られはじめている。すでに3つのリアルな店舗でも置かれていたり、まったく知らない遠方の人から注文が入ることもある。
人気の回文と絵もさまざまで、「まさかいかさま」や「ゆりこののこりゆ」など物議を醸している言葉もあるようだ。
やまのかみ佐藤は回文カルタ以外にも実はいろいろなものをこれまで生み出してきた作り手だ。「おもちゃ屋さんになりたい」と話す彼女の工房から、これからも独創的なモノモノが生まれてくることを楽しみに見ていきたい。
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備考 | 購入方法: 回文カルタ販売店(すべて北杜市) 8Market/チームシェルパ/ Kitchen Ohana |