【長野】手から手。地元で叶えた理想のサイクル 革づくり「OND WORKSHOP」オーナー 木村真也
長野市・善光寺界隈で革雑貨のアトリエ兼店舗を構える。浅草で10年学んだ後にUターン。
革ベルトのオーダーメイドは全国的にも少ない。空き家をリノベーションした物件が増えている長野県長野市。浅草の革職人が革雑貨店「OND WORKSHOP」をオープンし、注目を集めている。
東京浅草で革づくりの修行を積み、10年を節目に地元である長野へ帰ってきて自身のお店「OND WORKSHOP(オンドワークショップ)」を開いた木村真也さん。革小物や革のバックなどオリジナルグッズに加え、オーダーメイドでお客さんの「つくりたい」をかたちにしている。
このまちに住む人に惹きつけられていったという木村さん。
このまちには古民家を改装したゲストハウスやカフェ、雑貨店、レストランなどが歩いて5分おきくらいに点在している。それぞれに生業をもった個人が集まっている。
「得意技を持った人がたくさんいて、そういった人たちと一緒に仕事をしたり、顔を合わせて一緒にお酒を呑みに行けたりすることがすごくいい。すぐに『一緒にやろうよ』と話が進んでいくこともある。お互いに一緒になって何かをすることができるし、それぞれにこだわりを持った人たちと話をすることで勉強になる」と。
人の生業を近くで学び合い、今では「仕事」が「私事」に変わった。自分の手から生まれるものが、誰かの大切な思い出になること。それがすべてだという。「近所の高校生が彼女へのプレゼントにうちのものを買ってくれたことが、なにより嬉しかった」と話す。これからもどんな出会いが待っているのだろうかと、木村さんは子どものように屈託のない笑顔で話してくれた。
ものづくりの原点はお客さんの「つくりたい」という思いから。
依頼されたものを理想に近づけるために、作業は深夜に及ぶこともある。どれだけお客さんの理想に近いものがつくれるかと、ものづくりへのこだわりを見せる。オーダーはお客さんの発想から始まり、自身のものづくりにも影響する。人と出会い、「つくりたい」がかたちになっていくダイレクトな反応は浅草で働いていたときのそれとは違っていたという。
修行時代は自社展示会を開催して、自社メーカーがつくった製品にアパレルブランドのロゴを刻印したり、シーズンごとに商品開発をして展示会を開いたり、革の仕事が楽しくて、どんどんのめり込んでいったそうだ。
しかし、転機が訪れる。
10年を節目に浅草のメーカーを退職し、東京での生活を終え、地元である長野へ帰ることを決意する。
「仕事に飽きていたわけではないけれど、仕事のやり方や流通の流れに疑問を抱くようになっていったのだと思う。ものを永く使うことが大切だけれど、それとは別のサイクルがあって、違和感を抱いていた」
長野へ帰ってからは、山にドライブへ出かけたり、温泉へ出かけたりと自由な時間を過ごしていた。ある日、自宅の近くを散歩していると、周辺に古民家を改修したリノベーション物件がたくさんあることに気がつく。すぐさまインターネットで調べると、長野周辺で空き家を賃貸物件として貸し出す活動が活発に広がっていることを知る。それからというもの、木村さんの中で「古民家を改装してお店をやりたい」という想いが強くなっていった。そして、このまちで多くのリノベーション物件を仲介してきた不動産業を営む倉石さんを紹介されることとなる。メモ書き程度の事業計画書を持って、今の物件を紹介されたときには導かれるように、すんなり決まったそうだ。
オープンから1年。東京にいた頃よりも、人と会う機会が多くて、濃い一年だったと話す。人が人を連れて、お店にいろいろな人が来てくれるようになり、今では年配の人が来てくれることも増え、修理の依頼を受けることが多くなっていった。
ある時おばあさんから大切にしまっておいた革のバックを直す依頼が来た。「矛盾しているかもしれないけれど、あまりたくさんものを作らなくてもいいと思っていて。大切に永く使ってもらえるためにつくること。それがいいはず」と感じたそうだ。
このまちで暮らし、人を思い、手で届ける。木村さんが理想的とするものづくりのサイクルが回り始めている。