【長野】BOOKS&CAFÉ NABO 店長・池上幸恵さんに聞いた
長野県上田市にあるブックカフェ。「小島紙店」の古い看板が目印です。
2015年にオープンしたブックカフェ「NABO」。オープンして2年余りだが、ずっとそこにあったかのように地域の人々が自然と訪れる場所になっている。
お店があるのは長野県上田市。東京からでも新幹線で1時間ほど。駅から10分ほど歩くとある。
向かいの道路から見るとブックカフェなのになぜか看板は「小島紙店」。ここは築100年以上の、以前は紙屋だった建物をリノベーションしている。
NABOの母体となるのは「VALUE BOOKS」
地元上田の高校出身の仲間が中心になって立ち上げた会社だ。オンラインによる古本の買い取り・販売をフィールドに会社を運営してきたが、自分たちが生まれ育った街にも還元していきたいとの想いから実店舗を開いた。
2年前、ショップオープンに向けて準備をしていた時期に池上さんは「VALUE BOOKS」のメンバーから誘われ、店長になった。
池上さんは大学生の頃、バックパッカーで海外いろんなところを旅していた。そして旅先ではよく本屋に立ち寄っていた。
短大を卒業後、最初に進んだのは大工の道。しかし、しばらくして体調を崩し、地元の長野県に帰ったのが22歳のとき。100円ショップのアルバイトの採用試験にも受からず、やっと手にしたアルバイトの仕事はクビになり、もう自分には価値がないと落ち込んでいたある日のこと。姉と一緒に訪れた八ヶ岳のリゾート施設に併設されているブックカフェの雰囲気に一目ぼれし、すぐに頼み込んで働き始めた。
本を選んだり本のことを聞かれたりするのは生まれて初めての経験だったが、思いの外スムーズに仕事ができることに驚いたという。それまでの読書体験や、学生時代・大工時代の経験など、自分がそれまでの人生で関心を持って覚えてきたすべてのことが、本屋をしていると生きてくると知った。自分の生きてきた人生に価値があるのだと本は教えてくれたのだ、と話す。
「どんな道を通ってきたとしても本は自分をすくい上げてくれる。そんな力を持っていると思うんです」
店内に置かれている本のジャンルは幅広く、ビジネス書もあれば、店の奥にはマンガもある。
「オープン1年目、本棚は全部自分でコントロールしないと、と思っていたんです。自分が良いと思う本以外は置けないと。そうしたら本棚が『固まって』しまって。うちは3ヶ月に一回本の半分以上を入れ替えるんですが、その時社長から『一度池上さん抜きで選書やってみたら?』と提案されて。そうしたら、自分だったら棚に入れないのにな〜と思うような本が次々と売れていって。すごくあたりまえのことですが、いろんな人の視点があって、それぞれに『面白い』があるんだと。それに応えられるような本棚作りをしようと考えるようになりました」
そうして池上さんと、信頼するスタッフとでつくられる本棚は、たしかに誰かの生身の「面白い」が込められているように感じる。どんな未知の「面白い」がそこに待っているんだろうとワクワクさせてくれる本棚だ。
また、NABOでは毎日(!)イベントが行われている。地域に暮らす人々の持ち込み企画を歓迎する。いつもより朝少しだけ早くオープンして朝ご飯を提供する日があったり若手社会人が悩みを語り合う企画なども行われている。
「この街に住む誰もが、NABOに企画を持ち込めば主役になれる。うちのイベントは一つ一つがそんなに大きくはないので、その分、めいめいが主役になれる可能性は大きいと思うんです。本来誰かの家でやればいいようなことをNABOでやる。そんな状況が多発することで豊かな関係性が生まれたらいいなと」
「イベント」というと、つい「すごいもの」「大きいもの」をイメージしてしまうが、ここではそうでなくてもいい。その人の「好き」や「気になる」「得意なこと」がピュアに共有される場となっていれば。
普段生きていると、自分をその場の状況や雰囲気に合わせないといけないことがある。でも池上さんがつくるNABOの空間には、たとえ焦ったり惑ったりしている自分でも、そのままでいいと肯定してくれるような安心感がある。
池上さんは語ってくれた。
「ふとした時に、そういえばこの本はNABOで買ったんだよな。あの人と初めて会ったのはNABOだったな。そう思ってくれる人が増え続ける場所であればいいなと思います」