【長野】旅人と住人が交差する元「下宿屋」 大福屋
長野市・善光寺近くの築100年の元下宿屋が、喫茶と古本屋、下宿屋、貸アトリエに生まれ変わりました。
にぎわう善光寺表参道から裏通りに入り、地元で「およべっさん」と親しまれる西宮神社横の路地を下る。静かな一角に立つ「大福屋」は、築100年を数える元・下宿屋兼鮮魚店をリノベーションしたスペースだ。
かつては7人の下宿生と家主一家がにぎやかに暮らしていた建物は3つの棟が立体的につながっていて、中は意外なほど広い。
室内なのに外のような空間を通ったり、階段を上ったのに庭があったり。歩くだけでわくわくするこの建物を生かし、1階に古本屋、1.5階に喫茶スペース、そしてこの春からは、貸アトリエと下宿屋も始動。ひとつ屋根の下、さまざまな人が行き交うこの場所を切り盛りするのが、店主の望月ひとみさんだ。
長野市で生まれ育ち、高校時代は善光寺境内が通学路。歴史好き、寺好きで学生時代から漠然と「門前に住みたい」と考えていた望月さん。
2年前、東京からUターンするのを機に、夢だった門前暮らしをかなえようと善光寺界隈で開催される「空き家見学会」に参加した。自分の住まいを探すはずが、この建物と衝撃的な出会いを果たす。個性的な空間に惹かれ、「ここなら、住む以外にも何か面白いことができるかもしれない」。そうして、半ば直感的に開業を決めた。
「門前で暮らしを楽しむ人、旅に訪れる人が緩やかに増え、町が長く続いていくように」。そんな思いから、日常を営む場として下宿屋と貸アトリエを、そして誰でも気軽に入れる場として喫茶と古本屋をオープン。
3棟がつながった空間は、違う場所で過ごしていても動線が交わったり気配を感じたりと、目的の違う人々がゆるやかに交差する。その雰囲気は、かつての下宿屋をほうふつとさせるようだ。
下宿屋時代の食堂を生かした喫茶スペースは、古い建物から受け継いだ家具をそのまま使っていて、不思議と懐かしい空気。BGMがなく、鳥の声や車の音、厨房でお湯が沸く音が自然と聞こえてくる感覚も、どこか実家のようで居心地がいい。
「音楽があると、場所のイメージが固まってしまう気がして。お客さんに合わせたいし、そういう意味で家のような場所にしたかったんです」と望月さん。
喫茶の看板メニューは瓶入りの「オブセ牛乳」。もともと「日常的に必要なものを扱いたい」と考えていたこともあり、毎日飲めてテイクアウトもできる瓶入り牛乳を選んだ。
その牛乳を使って土鍋で煮込んだ「ぎゅうにゅうどん」、生地から手作りの「ワッフルドッグ」などメニューはどれも素朴でおいしく、そして安い。ランチにうどんを食べて、食後にワッフルドッグとコーヒーをオーダーしても1,000円ちょっと。
「この辺りにはいいお店がたくさんあるから、うちだけで完結せずいろんな所に立ち寄ってほしくて、この値段にしています」という言葉に、門前という町への愛がにじむ。
そしてこの春スタートしたのが、「門前で暮らす人を増やしたい」という望月さん念願の下宿屋だ。かつて住居兼魚屋だった奥の棟をリノベーションし、店舗と出入口を分けてプライバシーを確保。下宿といっても広い個室がしっかりあり、共有スペースやキッチンも快適で、いわば和室のシェアハウスといった雰囲気だ。別棟の貸アトリエも入居者募集中なので、興味がある方は問い合わせを。
大福屋を訪れて感じるのは、いい意味で「色」がない、家で過ごしているかのようなゆるさ。ご近所も旅人も老若男女問わずくつろげるおおらかな空気は、望月さんの人柄と元下宿屋を生かした空間づくりゆえだろう。趣味でブラスバンドを立ち上げている望月さん、ゆくゆくはここで音楽イベントもやりたいと話してくれた。初夏には、古本を持ち寄るマーケット「一箱古本市」も計画中。これからこの場所で起こるさまざまな出会いに染められていく様子が楽しみだ。
名称 | 大福屋 |
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業種 | 喫茶、古本屋、シェアハウス、貸アトリエ |
URL | (twitter)@dai298_monzen |
住所 | 長野県長野市岩石町222-1 |
TEL | 080-4915-2763 |
営業時間 | モーニング7:30〜9:00、カフェ12:00〜18:00 |
定休日 | 不定休 |
料金 | 〈喫茶〉コーヒー320円、ぎゅうにゅうどん450円など 〈貸アトリエ〉月額20,000円(光熱費・管理費別、詳細は要問い合わせ) 〈下宿屋〉月額30,000円(光熱費・管理費別、詳細は要問い合わせ) |