【長野】real local 長野 meet up!〈後編〉 パネルディスカッション編
長野市のCREEKSで3月に開催された、real local長野のイベント。
前回は長野市の建築の歴史や千葉県いすみ市の移住&仕事の話でしたが、後編となる今回は、real local運営ディレクターの吉里裕也さん、D-KNOTSの荒川慎一さん、CREEKSの広瀬 毅さん(石川出身、長野移住歴30年)、村岡利恵(大阪出身、長野移住歴2年)の4名による、長野を含む地方移住の本音(?)トークです。
まずはCREEKSのある長野市(県庁所在地)と、私が暮らす白馬エリアについて。
吉里「(建築クロニクルの話を聞いて)善光寺界隈のリノベーション案件はかなり集積度が高いですね」
広瀬「できあがった物件を見て、自分もと背中を押されて始める人がいる。偶然いくつかまとまってできたことが、ひとを呼びこむきっかけになったのかもしれませんね」
吉里「村岡さんは白馬エリアに住んでどうですか? 長野市との距離感はどんな感じですか?」
村岡「白馬エリアは映画館や本屋など文化的なものが少ないので、そういうものがある街(長野市)に出るため、車で1時間の距離に慣れるようにしています」
吉里「冬はスキーがしたくて移住したんですよね。夏はどんな暮らしをしているんですか?」
村岡「荒川さんと考えは近いんですけど、自宅をセルフリノベして、週末限定の朝食カフェと編集・デザイン業をしようと思っています。クリエイティブ業への理解が進んでいないので、それを知ってもらうという意味でのカフェ併設を考えています」
ここから話は、地方におけるクリエイティブ系お悩みあるあるへ。
荒川「なみわいは仕事の相談も多いのですが、制作部隊が少ないので請け負えない。つらさは大体ギャラが低い(笑)。でも決定権のあるひとと直接仕事ができるので、東京に比べると話が早いです」
吉里「広瀬さん、建築はどうですか?」
広瀬「設計の仕事はあるけれど、建築家が求められるかは微妙。東京のようにとんがったものが求められるわけではないです。最近は工務店もセンスが良くなっているので、建築家が地方で仕事をする難しさはありますね」
吉里「東京で関わる仕事はマンションが大半で内装を変える程度ですが、地方は戸建てが多くて施工までやると工事規模と単価が違うんですよ。広瀬さん、施工までやらないと!」
広瀬「実は考えています(笑)。リノベーションは暮らしへの提案など建築家のアイデアを盛り込みやすいですが、工事費が低いというジレンマはありますね」
吉里「それはグラフィックデザインにもいえますよね?」
荒川「ただ、東京と違って、平均点以上のものをコンスタントに上げられるひとは需要があると思います。スペシャリストでなくても引っ張りだこになる可能性はあります」
吉里「僕の後輩が神戸に移住しましたが、神戸市ほどの都会でも、大手代理店か地元の広告屋さんかというギャップがある。あっという間に引っ張りだこになりましたよ。それを見ても、社会を変える影響力を持つプロジェクトが地方発ということがいまは起こりうると思うんです」
新しい働き方として注目のコワーキングやサテライトオフィスについても。
吉里「CREEKSに集まる人はクリエイティブ系が多いんですか? コワーキングは長野全体でも増えていますか?」
広瀬「いや、結構ばらけているんですよ。法律関係やファイナンシャルプランナー、食育関係などのかたもいます。長野は北信・南信・東信・中信の4つの地域があって、長野市にCREEKSができても、伊那の人にとっては他所の県で起こった感覚。良さそうだったら自分の地域で作ろう、となる。独自性があって、それがゆるやかにつながる感じがいいですね」
吉里「職場と自然が近いという点で、白馬エリアで『今日はいい雪降ったから、ひと滑りしてから仕事しよう』みたいに、都会の仕事との両立ができるサテライトオフィスが増える傾向はないですか?」
村岡「うーん。私のような都会型の仕事はまだまだ珍しいと思います。移住者もフィールドを仕事場にしている山岳ガイドやスキーガイド、もしくは宿や飲食店などを営むなどの観光業に携わるかたが多いという印象です」
最後は来場者の多数決で決まった「長野の課題は?」という問い。
広瀬「県外へ出た若者が戻ってこないという課題がありますね。僕たちは都会から来てるし、長野に戻ってくる子も一旦は都会に出ている。都会に出る意味はすごくあると思う。でもその子たちが戻ってきたいと思うためには、高校生までに何を見せてあげればいいんだろう?と考えています。『戻っても面白いことないや』と思う子のほうが圧倒的に多いと思いますから」
吉里「でもその一方で移住者は多いですよね?」
広瀬「都会で暮らしてきたひとは便利な生活をなかなか手放せないのですが、東京まで1時間半で行ける。それと同時に車で30分も走れば何もないド田舎まで行ける。長野に移住してきているひとは、その割合を自分で選ぶことができるんですよ」
吉里「田舎暮らしでもひとによってグラデーションがある、という感じですか?」
村岡「そうですね。私が白馬エリアを選んだのは、パタゴニアとノースフェイスがあるというのが大きかったです。白馬村はYahoo!と連携協定が結ばれるなど、企業から見てもポテンシャルが高い。あと、バスなら片道約4000円で新宿まで行けるので、東京でデザインをやってる友達とも気軽に会えて感覚がブレない。まさに長野のどこを選ぶかで田舎暮らしのグラデーションが変わるんです」
吉里「やっぱりApple Storeができるかどうかじゃないですか? 象徴的ですが、Appleのニーズがあるような仕事が増えればいいよねっていう話で」
最後は今回オープンした1階のtsunagnoの話へと繋がっていきます。
吉里「周りの大人を見て、一義的に仕事を考えている子が多いと思うんですけど、ここに集まるような、自由に生きて、自分で仕事を作っている大人を見るのはいいことですよね。東京も好きだし長野も好きだし、両方で仕事をするというのでもいい」
村岡「田舎でいちばんわかりやすい優良企業は役場ですしね。IターンUターンしても仕事はあるけど、したい仕事がない」
荒川「カルチャーショックだったのは、保守的な価値観の中だと、田舎に残ってほしい。早く結婚して地元に残ってほしい。外に出たやつは裏切り者という感覚がある。自由に羽ばたいたりすることが負い目を感じるのは悲しいなと」
広瀬「需要は少ないけどニーズがある仕事=小商いをいくつかできるようになれば、田舎でも好きな仕事を生業にすることができるかもしれないですね」
吉里「(小商いの集積だと)周りの大人たちから見ても、何をやっているのかわからないので、カメラマンとか建築家とか、既存の職業に落とし込んだカテゴリーからまず案内する。tsunagnoで社会科見学やったらいいんじゃないですか!」
1時間半のトークイベントでしたが、長野市の建築の歴史から、地方が抱える課題、移住をしてからの暮らし方や働き方、若者たちへの思いと、かなり突っ込んだ話ができたのでは?と思います。
それは吉里さんのように東京と地方の複眼的な視点を持つひと、古後さん&広瀬さんのように長野で実際に活動をしているひと、荒川さんのように地方で新しいワークスタイルを確立しつつあるひとが一同に介したから。real localが地方と都会、地方と地方をつなげるきっかけに、そしてreal local 長野がその一翼となればいいなと、私も関わった当事者のひとりとして思った夜でした。