ローカルが案内する北アルプス国際芸術祭

新緑の山と湖を巡るアートフェス in 長野

私の暮らす町・長野県大町市では6/4~7/30の期間、「北アルプス国際芸術祭」が開催されている。

ご存知かと思うが、昨今、地域活性化の名目で日本全国でアートフェスが行われている。そんな町に暮らす当事者としては「そんな一過性のイベントで盛り上げたところで……」と、若干冷ややかに思っていたが、観ないでああだこうだ言う態度はよくない。だから、2日間かけてほぼ全作品を観て回った。

結論としては、これなら東京や他エリアの友達にも「観においでよ」と言える。意外と知らなかった地元の町のこと。そんな新発見も交えつつ、ローカル目線でご案内。

 

町中を流れる水路は、アートと美酒の源泉?!

公共交通機関を利用する場合、芸術祭の玄関口は信濃大町駅。インフォメーションセンターがあり、ここでチケットや地図などをまずは入手。

駅真正面のインフォメーションセンターも、原倫太郎と原游の作品のひとつ。
駅真正面のインフォメーションセンターも、原倫太郎と原游の作品のひとつ。

 

そこから延びるのが「本通り」。他の地方都市と同様に賑やかだった目抜き通りも、いまはシャッター商店街。ここでは店舗兼住宅だった頃の暮らしの痕跡がまだ残る、空き物件を使った作品が観られる。あるインスタレーション作品会場には、キン肉マンのシールがそのまま残っていたりもするのだ。

コタケマンの作品「セルフ屋敷2」。両端はいまも営業している商店。こんな商店街のあちこちでお散歩がてら作品が観られる。
コタケマンの作品「セルフ屋敷2」。両端はいまも営業している商店。こんな商店街のあちこちでお散歩がてら作品が観られる。

 

この本通りだが、これまでも買い物や呑みに行ったりしていたが、今回の芸術祭で気がついたことがある。1つはシャッター商店街という現在。2つ目は黒部ダム建設の作業員たちで活気があった1950~60年代頃の名残。3つ目は日本海と内陸との物流を担った「塩の道」の歴史街道。3つのレイヤーが存在することを、町の様子やそれを解釈したアーティストの作品から知ることができるのだ。

淺井裕介「全ては美しく繋がり還る」。飲み屋や飲食店が軒を連ねる大町名店街の作品。ダム工事の作業員が飲み歩いていただろう昭和の風情を残す。いまはネパール出身でエベレスト登頂経験もあるラマさんが営む「ヒマラヤンシェルパ」というレストランがあり、登山者にも愛されている。
淺井裕介「全ては美しく繋がり還る」。飲み屋や飲食店が軒を連ねる大町名店街の作品。ダム工事の作業員が飲み歩いていただろう昭和の風情を残す。いまはネパール出身でエベレスト登頂経験もあるラマさんが営む「ヒマラヤンシェルパ」というレストランがあり、登山者にも愛されている。
栗林 隆「第1黒部ダム」。屋内に北アルプスの山々と黒部湖、約1/40スケールのダムを再現。その壮大さとともに足湯も楽しめてしまうというゆるさのギャップがユニーク。
栗林 隆「第1黒部ダム」。屋内に北アルプスの山々と黒部湖、約1/40スケールのダムを再現。その壮大さとともに足湯も楽しめてしまうというゆるさのギャップがユニーク。
高橋治希「北アルプス 高瀬川庭園」。九谷焼の繊細な花を空間全体=庭園に見立てて展示。会場は江戸時代の大庄屋邸の離れで、床下の水路には清水が流れていて、水の町・大町を感じさせる。
高橋治希「北アルプス 高瀬川庭園」。九谷焼の繊細な花を空間全体=庭園に見立てて展示。会場は江戸時代の大庄屋邸の離れで、床下の水路には清水が流れていて、水の町・大町を感じさせる。

 

芸術祭開催に際して、主催者からの大町市にまつわる情報や各アーティスト自身がロケハンした気づきが作品に反映されていると思うが、「水の循環」をテーマにした作品がいくつかある。

実は本通りのある町中には水路が流れていて、いくつか水飲み場も設けられている。通りをはさんで西は北アルプス山系の「男清水」、東は居谷里池からの「女清水」と呼ばれている。大町市街には日本酒の酒蔵が3蔵あるのだが、そのいずれもが女清水側に位置しており、水質は酒造りに適した超軟水。「金蘭黒部」「白馬錦」「北安大國」、いずれも柔らかくて甘みのある日本酒が特徴だ。

そう言えば、我が家に遊びに来る友人たちも、水の美味しさに驚いている。うちの別荘地の水道はそのまま北アルプスの湧き水を汲み上げたものなのだ。移住して2年も経つと当たり前で忘れてしまっていた。雪となり水となり、また雪となる。そんな循環を繰り返す水は作品を導くカギとなり、自分にとっては当たり前の日常という不思議。

本通り沿いの料理屋「わちがい」の近くにある水飲み場。せっかくなので女清水と飲み比べてみて。日本酒は本通りを北に歩いていったところにある酒屋「横川商店」が種類も豊富でおすすめ。
本通り沿いの料理屋「わちがい」の近くにある水飲み場。せっかくなので女清水と飲み比べてみて。日本酒は本通りを北に歩いていったところにある酒屋「横川商店」が種類も豊富でおすすめ。

 

大町市は広い。さてどうやって巡ったものか。

ざっと2、3時間程度あれば観て回れる町中エリアだが、湖やダム、里山など「北アルプス」と銘打つだけあって、スケールの大きな野外作品が観られるのも、地方アートフェスの醍醐味。この芸術祭は市街地をはさんで西側の「ダムエリア」「源流エリア」「大町温泉郷エリア」「仁科三湖エリア」と、東側の鷹狩山と八坂地区の「東山エリア」で展示が行われている。

東山エリア八坂地区の屋外展示、ニコライ・ポリスキー「Bamboo Waves」。八坂地区にある竹林にインスピレーションを得て、地区の住人と協働で制作された。
東山エリア八坂地区の屋外展示、ニコライ・ポリスキー「Bamboo Waves」。八坂地区にある竹林にインスピレーションを得て、地区の住人と協働で制作された。
仁科三湖エリアの五十嵐靖晃「雲結い(くもゆい)」。ニコライ・ポリスキーの作品とともに、地域住民との協働作業を経た制作過程など、メディアではこの芸術祭のシンボリックな作品として目にする機会が多い。
仁科三湖エリアの五十嵐靖晃「雲結い(くもゆい)」。ニコライ・ポリスキーの作品とともに、地域住民との協働作業を経た制作過程など、メディアではこの芸術祭のシンボリックな作品として目にする機会が多い。

 

私は普段から車移動なので気にしていなかったが、移動がかなり大変らしい。特に芸術祭周遊タクシーのない平日の東山エリアへのアクセスは、ガイドツアーを利用するか、個人でタクシーを手配するかの二択で、「地方のアートフェス最難易度!」と東京から来たというアートファンが嘆いていた(なので私の車に一緒に同乗してもらった)。

ちなみに鷹狩山山頂の展示へは、駅からの徒歩だと片道約1時間半(google map調べ)。しかも標高差約400mの軽い登山だ。なめるとえらい目に遭うので、移動手段はぜひ事前に調べておくべし(もしくは勇気をもってレッツ・ヒッチハイク!)

※6/24追記
この記事を6/23にアップした直後、本日より土日限定だった東山エリアへのタクシーが、平日も運行されるようになったそうです!やればできる大町市、素早い対応!! 

http://shinano-omachi.jp/topics/9569/

 

好きな作品=好きな風景=移住した理由。

そして芸術祭を2日間でまわった話をすると、地元の友人にも「どれが良かった?」とよく訊かれる。とても悩ましい質問だけど、私は目の「信濃大町実景舎」はまた再訪したいなと思っている。再鑑賞ではなく、あえて再訪。なぜ自分が北アルプスに惹かれて移住したのか、作品を媒介装置にして、パーソナルな思いに還れる場所だと感じたからだ。

目「信濃大町実景舎」。もし常設保存が叶うのであれば、北アルプスに雪が積もった真冬に再訪したい。
目「信濃大町実景舎」。もし常設保存が叶うのであれば、北アルプスに雪が積もった真冬に再訪したい。

 

アートフェスが教えてくれたこと。

今回作品が展示されていた場所は、住んでいるにも関わらず、実は初めて訪れる場所ばかりだった。遠藤利克の「Trieb ―雨為る森―」のある宮の森自然園は小川が流れホタルが見られるという。うちから自転車で10分の距離だ。エネルギー博物館も高瀬ダムも徒歩圏内なのに素通りしていた。

いくつかの作品は、会期後も常設保存される可能性があると聞いた。イベント自体は一過性かもしれないけど、自分の住む町のことをひとに語るためのカードを、いくつか手に入れられたと思う。町中はただのシャッター商店街ではなくレイヤーのある重層的な町だし、いまなら美味しい水のことも語れるし、北アルプスが美しく見える鷹狩山も、さざなみがおさまると鏡面のように山を映す仁科三湖も案内できる。

「アートフェスがあると、日本の知らなかった地方に行ける」。これは商店街でピックアップした先のアートファンの言葉だけど、ローカルにもそのまま当てはまると思った。

「アートフェスがあったから、町の知らなかった場所に行けた」。

 

会場

大町市内の5エリア

TEL

0261-23-5500(実行委員会事務局)

期間

2017年6月4日(日)〜7月30日(日)

料金

一般2,500円、高校生1,500円、小・中学生500円

公共交通

東京/大阪方面からは信濃大町駅までJRや高速バスを利用。長野市からは特急バス(アルピコ交通)がある。市内の移動は、芸術祭期間中はシャトルバス(アルプバス)や東山タクシー、レンタサイクル、周遊ツアーを利用。

駐車場

各エリアには近隣に駐車場が用意されている。

URL

http://shinano-omachi.jp/

主催

北アルプス国際芸術祭実行委員会

備考

作品によっては鑑賞時間が決まっているものもある(10:00〜17:00)

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