【長野】お弁当箱のケーキから始まった理想の店 春陽/長野市
「ドアを開けて、お客様を迎えている私が見えたんです!」
春陽(はるひ)の店主・矢澤智子さんはこの物件と出会った日のことを話してくれた。
初めてケーキを作ったのは幼稚園のころ。見よう見まねで、アルミのお弁当箱を型にしてバターケーキのようなものを焼いたり、お兄さんが学校の調理自習で教わったクレープを一緒に作ったり。そのお菓子作りへの興味は、そのまま大人になって専門学校で製菓を学び、東京のお店やホテルなどでもケーキを作る道へと繋がっていった。
「やっぱり東京は生活するのに密々しすぎていて」と長野市にUターンし、自身の店を開くことを決心。善光寺界隈はケーキ屋がすでに何軒もあったこともあり、最初は駅前を中心に物件を探していたそう。希望はテナントではなく、一軒家。難しい条件だった。
物件探しの日には、善光寺に「いい物件が見つかりますように」とお参りをすること約半年。思うような物件に巡り会えなかったが、空き家を仲介しているMY ROOMの倉石智典さんと出会ったことで、話は思いがけない方向へ。古い物件をいくつか紹介してもらったなかで、いまのお店を外観で一目惚れしてしまったのだ。
「軒先には植物を飾って……とか、中もまだ見ていないのに、ドアを開けて、お客様を迎えている私が見えたんです!」と矢澤さんは笑う。中は古い物件だけあって、なかなかな状態だったが、1階の天井を吹き抜けにするなどリノベーションして、現在に至る。
この小さなお店を矢澤さんはひとりで切り盛り。6~7種類のケーキを作る。「宝石みたいにキラキラと凝ったケーキに憧れた時期もあったけど、素材の味を活かしたい。ケーキに関わるものはジャムもすべて全部自分で作りたいんです」
だから定番のチーズケーキやロールケーキなど品書きはシンプル。材料の小麦粉は長野県産、果物なども直売所で仕入れるなどしている。「いま手に入る旬のものを使いたいんです。だから春にモンブランは作れないし、先週あったケーキが今週はなかったり」。でもそれが旬というもの。シンプルな矢澤さんのケーキには、季節のとっておきがつまっている。
長野市は盆地なので夏は暑い。そんな善光寺詣にと、手作りシロップのかき氷も夏場は提供している。スイカには塩漬けしたオクラをトッピングしたり、イチゴとバルサミコ酢にブラックペッパーをきかせたものなど、ちょっと変わったかき氷で涼を取ってみるのもおすすめ。