まちの道具箱 その1「剪定バサミ」
果樹王国をささえる用の美
よく使われる道具には、その土地の歴史、暮らし、働き方があらわれます。
山形市で作られ、使われる道具を紹介していくシリーズをはじめます。
ひとつ目は、剪定バサミ。
ハサミにも産地があり、生花を整える花バサミ、裁縫道具の裁ちバサミなど、用途によってさまざまな鋏があるなかで、山形は果樹や庭木を整える「剪定バサミ」の産地です。
山形市円応寺町に創業して80余年の「工藤製鋏所」は、剪定バサミを専門に作っています。
果樹生産が盛んな山形ならでは。やはり、農家や造園業の方がよく買っていくのだそうです。
山形の剪定バサミ生産の起源は約700年前、山形最上家の始祖・斯波兼頼(しばかねより)が召し抱えの刀匠鍛冶たちを伴って来たのが始まりといわれています。
その流れを受け継ぐ工藤製鋏所は、山形市円応寺町に創業して80余年。初代の名前が清吉さんだったことから、こちらのハサミには「山形(清)」の刻印が打たれます。
※(清)は丸で囲んだ清の字
ハサミの生産の最盛期には、同じ円応寺エリアに5軒の製造元があったそう。
鋼を叩いて形成した材料を、熟練の鋏匠が長年の秘伝と最新の技術を取り入れてつくりだす剪定バサミは、長い間、鋭い切れ味を保ちます。
工藤製鋏所には今でも、数十年間使われたハサミや、はたまた戦前に作られたハサミが修理のために持ち込まれるそうです。
のれんに誇らしげに書かれた、「二刃一心(ふたはいっしん)の切れ味」という言葉。二つの刃がなめらかに、一つの心になってできるハサミということです。ぴったりと合わさった刃が抜群の切れ味をもたらします。
ずっしりとした見た目ですが、手にしてみると驚くほど軽いのです。果樹畑で毎日使っても疲れないようにと、用の美をかたちにする職人技です。
(本コラムは、とんがりビル発行のフリーパーパー『とんがり通信』6号の記事を再編集したものです。)