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「目の前の課題」が道しるべ。

米農家 ・「SKLO」店主 塚本美樹さん

reallocal発足当時から取材したいと思っていた1人、塚本美樹さん。

今日にいたるまでに数年経ってしまったのは、決して私が怠けていたからではなく、塚本さんが「何をやっている人」か上手くまとめる自信がなかったからである。

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塚本美樹さん。

おそらく、対外的には「アンティーク店・SKLO店主」が一番浸透しているとは思う。

けれど同時に、米農家として野良仕事もすれば(しかもお米はNYにも卸してたり)、空間デザイナーとして月に一度は東京で仕事していたり、若手アーティストの展覧会をキュレーションしたり、職人と組んでプロダクト開発をしたり。

もっと細かく上げるなら、本当に色んなことを、塚本さんは「仕事」にしている。

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金沢のせせらぎ通り商店街の一本裏手、静かな通りに佇むアンティーク店「SKLO」。
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塚本さんがつくる古代米「朝紫(黒米)」。農作物のブランド名は「SKURO」。(写真提供:SKLO)
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空間デザインの仕事や、アンティークやオリジナル什器のレンタル、リースの仕事をするときは「scuro」。(写真提供:SKLO)

どう紹介すべきか腕組みしたまま時が流れ、私が長期休暇(産休)に入ることが決まってなぜか急に「今、塚本さんの話を聞いておかねば」と思い立った勢いにまかせ、お店をたずねた。

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白熱電球の職人と開発したオリジナルプロダクト。明るさや耐久時間を競うのではなく、カーボンフィラメントの美しさ自体を愛でるという発想の転換。
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オリジナルプロダクトはオンラインでも店頭でも購入できる。

職種はもちろん、塚本さんの仕事先も多様で、金沢を拠点としながらも東京、大阪、台湾に、ドイツ、チェコと、軽やかに各地を行き来している。

型にはまらない自在なワークスタイルがかっこよく、「捕われるものがなくてうらやましいなぁ」とあこがれていたわけだが、インタビュー冒頭、塚本さんの口から意外な言葉がこぼれた。

「まず、農業に関して言えば、“農業をしたい”と思って始めたわけじゃなくて、完全に自分が農家の長男だからという義務感からです。他の仕事にしても、何か目指すところがあってこういう働き方をしているというよりも、目の前にある問題に一つずつ向き合っているうちに、いつのまにかこうなっていたというか」

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塚本さんの田んぼの前で。冒頭の写真と同じ日に撮影したとは思えないほどの場面転換。

ノマドな時代の、動けない“農家の長男”。

塚本さんは高校を卒業してすぐ、オーストラリアに留学。その後、日本とニュージーランドとの往復生活をおくり、23歳で一度金沢に戻って営業職を3年間勤めた後、再びオーストラリアやヨーロッパを旅してまわった。知らないものに出会うこと、自分とは違う視点や価値観から物事を見ることが楽しくて仕方なかった。

しかし、29歳で金沢にアンティークショップ「SKLO」を開いてからの拠点はずっと金沢。しかも、隣町である津幡町の「七黒」という集落の実家から、毎日30分かけて車で往復している。それは、家業である農業を継ぐための決断だった。

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津幡町の七黒集落。(写真提供:SKLO)

どこでも仕事ができる時代に、塚本さんが七黒という小さな集落から動かない理由は、「単純に、僕が七黒で生まれた農家の長男だから」。

「もし長男でなければ、今頃絶対に海外にいると思う。農家の長男の役目は『墓』や『田んぼ』をはじめ、この集落で昔から大切に守られてきた文化を引き継ぐこと。これは他の人に言っても分からないかもしれないけど、もはや僕のアイデンティティと言っても良いと思う。だから昔は自分の運命を呪ったりもしました(笑)」

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黒米は完全無農薬、有機肥料のみを使用し、手植え、手刈りで収穫する。(写真提供:SKLO)

あるもので遊ぶ、ないから見つける。

しかし、ここからが塚本さんらしいところ。腐るでも諦観するでもなく、「今自分が引き受ける運命を、他の人にない強みに変えよう」と、すぐに発想を切り替える。

「僕のベースになっている考え方は、『目の前にある課題を、どう楽しみに転換するか』。これは田舎で育ったからこそ身に付いたスキルだと思っていて。

昔、小学校からの帰り道も僕らにはひとつのアトラクションだったんです。山と田んぼしかないけど、人んちの屋根にのぼったり、果物を採って食べたり、拾ったもので武器や基地をつくったり。いろんな遊びを考え出す中で『あるもので遊ぶ、ないから見つける』という思考法が染み付いたというか」

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津幡町にある旧吉倉小学校校舎。廃校になった現在は「津幡町歴史民俗資料収蔵庫」として利用されている。

さらに、農業を続けるうちに、「やりたいこと」も「やらなきゃいけないこと」も、どちらもモチベーションになりうるということに気がついた。

「『やりたいこと』がモチベーションになると思われがちですけど、それって気持ちの問題だから、人の気分は時間と共に変わるし、それだけじゃ長く続かない。逆に『やらなきゃいけないこと』は責任感や使命感があるから長く続く。けれど、ずっとそれだけで続けるのは辛い。どちらか1つだけじゃなく、その2つの両輪があってはじめて、仕事って上手く回るんじゃないかな」

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「SKLO」の3F。ここはギャラリーとして使用されることも。(写真提供:SKLO)

“ハーフ”じゃなくて、“ダブル”に。

農業をしながら、残りの時間を自分のやりたいことに費やす生き方を「半農半X」と呼ぶようになって久しいが、「僕はこの言葉の響きが、あんまり好きじゃないんです」と塚本さんは言う。

「だって、“半分”ってどっちつかずというか、中途半端な響きがあるじゃないですか。ひとつを半分に分けるんじゃなくて、僕は両方の良い所を持っている“ダブル”にしたい」

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そうはいっても、現実的には身体も時間も有限だ。

“あれもこれも”が実現できないために、多くの人は悩んでいるし、「二兎追う者は一兎を得ず」と諺があるように、手に入らないものを諦めることが美徳になっている節もどこかある。

それでも、塚本さんは「本当にそうなのだろうか?」と疑問を持ち、まず自分の手持ちの「時間」と向合いだした。

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集落で問題になっていた竹害への問題提起・気づきを促すために、竹炭づくりも始めた。

7時〜13時は七黒で田んぼ、13時〜19時は金沢のSKLO、19時〜25時はプライベート、25〜7時は睡眠と、1日を大きく4分割にする。

その日々の中に、月に1、2回は入る東京など各地への出張と、年に2回ほどアンティークの買い付けにドイツとチェコへ行く“飛び道具”を組み込んでいく。

さらに、「どうしても圧縮できない時間」、例えば毎日片道30分かかる通勤時間も、行き帰りをそれぞれ「店のことを考える時間」と「田んぼのことを考える時間」として価値あるものへと発想を切り替えた。

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電球になる前のガラスを用いた花器もSKLOオリジナルプロダクト。

「さっきの“ダブル”の話で言うと、正確に“2倍”になっているかと言われるとあやしいけど、少なくとも2倍近くにはなっていると思う。この問題において大切なのは、そうあろうとする心の在り方だから」

育児や介護、家業を継ぐこと。人生の節目節目に、人は様々な「やらなきゃいけないこと」に直面する。しかし塚本さんの生き方は、目の前の課題自体は「足かせ」でも何でもないということを教えてくれる。

「課題」を「道しるべ」にして、さらには「半分」じゃなく「倍」にする。私が今塚本さんに会いたいと思った理由が、なんだか腑に落ちた気がした。

URL

http://www.sklo.jp

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