【長野】Pise/長野市 この原稿では語りきれないゲストハウス
「ここ、何の店やろなぁ?」
「何やろ、中見えへんで」
「そもそも店なん?ここ」
先日長野市内で飲んで車中泊した翌朝、善光寺をお朝事で参拝したときのこと。お参り帰りの観光客のおばちゃんたちが代わる代わる覗き見しようとしていた場所。
中がうかがえないエントランスを入っていくと、左にバーカウンター。右にビリヤード台。足元を見るとパターゴルフもある。アジア料理店っぽいテーブル席の奥には井戸。
え??井戸??!……井戸を覗き込むのはちょっと怖いので、先を急ぐ。
店の一番奥にはクライミングウォールがある。螺旋階段を昇ると、テラス席。屋根裏にはスキー板が並ぶ。ここまで来たら、何がどうなっているのか建物全部を見てみたい。1階に戻り靴を脱いで、さらに建物の奥へ。ザ・昭和な造り付け食器棚のある台所の壁にはヒジャブを纏う女性たちの写真。どこの国だろう? 住居の居室らしいスペースにはOSB合板で区切られたスペース。セーフティボックスと折りたたみ式のデスクに布団。
ディテールを書けば書くほど、全容がわからないかもしれない。おばちゃんたちが覗こうとしていた場所=Piseは、結論から言うと長野市中央通り沿いのゲストハウス&ダイナー。以前は同じオーナーのタイ料理&雑貨店だったが、それを閉めて2015年にいまのかたちとなった。
オーナーのサンボさんこと辻 和之さんは、130kgのイノシシを撃ったハンターで、プロスキーヤーでプロカメラマン、大工仕事もやって、美味しいシャインマスカットも栽培して(お土産にいただいた)、最近は趣味のゴルフのスコアが100きったらしい。
こんな書き方をすると、店もオーナーも捉えどころがないと思われるかもしれない。「飽き性だし、職人的な生活はできないんです」と言う一方で、「(興味を持ってやっていることはそれぞれ)それだけで食べていける」とサンボさん。それぞれプロの仕事ができるのに、それだけに固執していない、ということなのか。
「この写真は(物理的に)シャッターを押すリモコンを作って、アナログのライカで撮った。自分で滑って自分で撮るから思うような構図は決めこめるんだけど、アングルは変えられないし、機材トラブルで思ったように撮れてないこともあったりね。そしてまた登り返してカメラを回収して」
見せてもらったスキー雑誌に掲載された写真には、バックカントリーの大きな斜面にシュプールを描く、点のようなサンボさんの姿。私はスキー初心者だけど、たった1本の滑りを撮影するために払うエネルギーがどれほどかというのは、編集者として想像できる。
ここまで書き進めて思ったが、店もサンボさんもいろんな要素がありすぎる。ただそれはすべて表層的で、それだけをなぞると何かを見逃す気がしている(今回の原稿もそうだ)。ゲストハウスのことも狩猟のことも、そしてスキーのことも、この1本のシュプールのエピソードのように、それぞれのプロセスを深く探ってようやく、なぜ彼がいまのような生き方をしているのかの一端に繋がる気がするのだ。
「冬は外国人旅行者が約8割だけど、(車で来た)近隣の町の人が長野市で飲んだ後に泊まっていくこともありますよ」。幸い(?)、このゲストハウスにはダイナーもあってお酒も飲めるし、サンボさんが仕留めたジビエ料理も食べられる。次回は飲みに行ってさらに話を聞いてみたい。
編集部が許せば、この原稿続きます。よろしくお願いいたします。
名称 | Pise(ピセ) |
---|---|
業種 | ゲストハウス、ダイナー |
URL | |
住所 | 長野県長長野市東後町2-1 |
TEL | 026-214-5656(15:00~20:00) |
営業時間 | ダイナーは17:00~23:00LO |
料金 | 宿泊は男女混合ドミトリー3,000円、女性専用ドミトリー3,200円、ダブルルーム7,000円、ファミリールーム9,000円。ワンドリンク付き(21:00まで)。価格はすべて税込み。 |