アートと人をつなげる街派キュレーター
金沢21世紀美術館 キュレーター 鷲田めるろさん
“アート好き”を標榜していなくても「金沢21世紀美術館」には行ったことがある、という人はかなり多いのではないでしょうか。
2004年に開館した金沢21世紀美術館は、初年度157万人もの入館者を突破し、その後も年間145万人以上をキープしているという、地方の公立美術館としては驚異的な数字を記録しています。また、円形で中はスケスケ、まるで公園のように人々が回遊する革新的なSANAAの建築や、加賀百万石の地に現代アートで真っ向勝負を挑む姿勢なども、美術界のみならず世間をアッと言わせ続けてきました。そんな同館も、今年で10周年を迎えます。
鷲田めるろさんは、金沢21世紀美術館の立ち上げから携わるキュレーター(*1)。京都出身で東京で美術史を学び、1999年から金沢21世紀美術館の立ち上げ準備のために、初めて金沢にやってきました。
「立ち上げ当初、学芸課のスタッフも県外出身者がほとんどで、さらには仕事ばかりしていたので、ここがどこなのか、わからなくなるような生活でした。自宅に帰ってテレビのCMを観て“あぁ僕は今金沢にいるんだ”と思い出すことも」と、当時を苦笑いで振り返る鷲田さん。しかし、今ではすっかり自他共に認める“街派のキュレーター”として活躍しています。
きっかけは美術館の長期プロジェクトで、東京から毎週通ってきてくれるアーティストのために宿泊用の一軒家を借りたことに始まります。その場所を拠点に、プロジェクトを手伝ってくれた学生や、ワークショップを通して知り合った地元の人々がいつの間にか鍋や飲み会をするようになり、そんな交流が半年ほど続きました。「アーティストと地元の人が、交流を通して互いに新しい視点や考え方をみつけて変わっていく、それが目に見える瞬間があって、とても良かったんです」
そしてこの場所は、鷲田さん達が立ち上げた美術・建築のグループ「CAAK」(*2)の拠点として今も受け継がれています。
その後、鷲田さんは仕事でもプライベートでも、積極的にローカルの中に入っていくようになります。そのひとつの例が「住居」。9年間のマンション暮らしをやめ、町家を借りて住み始め、そして今年、ついには町家の一軒家を購入したそう!「町家の素晴らしいところは、街に開かれているところ。土間や居間、裏庭など、この家に住んでからは人を招いて庭で七輪焼きをしたりするようになりました」と町家暮らしを満喫している様子。「家を持ってから、地域との関わりがぐんと深くなりましたね。これはマンション暮らしのときにはなかったもの。やはり家を買うと“覚悟”が伝わるのでしょうか(笑)」。
さらに鷲田さんは工芸王国・金沢を深く理解するために、茶道も習い始めます。
「町家やお茶のように、本来文化は街の方にあって、むしろ美術館がそれを学んでいくべきだと僕は思っているんです。確かに現代アートについては自分達の方が詳しいかもしれないけれど、例えば、花の名前や咲く季節など、文化的知識は圧倒的に街の人が持っている。だから美術館が一方的に何かを啓蒙するということではなく、ギヴ&テイクでお互いに刺激しながら変わっていく、そんな関係がいいのではないかと思っています」。
英語版の金沢21世紀美術館パンフレットに、美術館のミッションを記したこんな一文がありました。
「To create a participation–oriented museum along with citizens and revitalize community」(市民とともに参加型の美術館をつくり、コミュニティを再活性化させる)
「お茶の稽古へ行く度に、お点前を忘れてしまっていて。何年も続けないといけませんね(笑)」と照れ笑いする鷲田さん。金沢の街と共振しながら、今日も自身のミッションを続けています。
*1 キュレーター:博物館・美術館などの、展覧会の企画・構成・運営などをつかさどる専門職。鷲田さんはこれまでに、「アトリエ・ワン:いきいきプロジェクトin金沢」(2007)、「金沢アートプラットホーム2008」(2008)、「島袋道浩:能登」(2013)、現在開催中の「3.11以後の建築」(2014) などを担当されました。
*2 CAAK(カーク): Center for Art & Architecture, Kanazawa の略。金沢在住の若手美術・建築関係者によって結成されたグループで、都市/建築/美術を横断する開かれた場をつくることを目指しています。