【長野】夏至/長野市 ものが持つ力で、暮らしを豊かに。
長野県といえば、器や工芸が好きな人ならば、松本市のクラフトフェアを思い浮かべるかもしれない。柳宗悦や濱田庄司、河井寛次郎ら民藝運動の旗手たちが何度も訪ねた町というバックボーンがあり、いまも町中には民芸品店やクラフトショップ、ギャラリーがあるからだ。一方、門前町の長野市にはそういった潮流は見受けられない。
「地方に住んでいると、生活に使うものでいいものがほしいと思っても、買えるところがないんです」。善光寺の門前で「夏至」という店を構える店主の宮田法子さんはいう。
子供の頃は文房具や洋服、大人になると美術や工芸。そういったものが好きだった宮田さんだが「いつか自分のお店を持ちたい!」という思いはなかったという。「本当は裏方志向なのでキュレーションなどを仕事にしたかったのですが、勤めようにもそういうお店がなくて(苦笑)」。結果、2002年に妹の実子さんと2人で、衣食住にまつわるものを扱うお店を始めた。
いまでこそ、東京でも作家ものの器を扱う店はいたるところにあるけれど、その当時、しかも長野市で夏至のようなスタイルのお店は、かなりの冒険だろうと想像する。「みなさんそうだと思いますが、まず自分で器を買って、使って、いいなと思った作家さんに声をかけて……」。普段は常設で取り扱いのある作家のアイテムが並ぶが、月1回程度企画展を開催していて、そのときにはそれぞれの作家の世界観が楽しめる。
特にお店を見ていて気になったのは、大皿ではなく小鉢や小皿などが多い点。「日本ほど器のバリエーションがある国はない。料理屋さんほどに使い分けなくても、小さな器にいろいろお料理を盛ることで、作る品数も増えるし、子供がいる家庭なら食育にも繋がると思うんです」。
元々美術が好きだったという宮田さん。作家への思いから始まり、それを実際の暮らしの中で使ってみることのよさ、ものの持っている力を伝えたいという。お店に並ぶのは、器などもちろん生活の中で使えるものだが、「あれ?この光で見るとオブジェのようにも見える!」と発見がある。
取材していて、ひとつ、とてもほしい器があった。
東京にいたときは器の本などにも携わっていたほど器道楽だったのだけど、そういえば長野に来てから新しい器を買っていなかった。ほしくなる器と繋いでくれるお店がやっと見つかった!とうれしくなった。