糸島発・荒らさない観光「ちびたび」好評。
旅に特化した“TABI cafe”
2017年夏、糸島富士・可也山の南麓に「旅」をテーマにしたカフェがオープンしました。その名も「TABI cafe」。カフェのスタッフ全員が添乗員の資格を持ち、お茶しながら旅の相談にのってくれて、ツアーにもついてくるという、こんなカフェ、他にある? どんな旅ができるの?
オーナーの吉川直子さんは長年、大手旅行会社でヨーロッパランドオペレータ、ホールセラーなどを務め、2000年に糸島市内で夫とともにオフィスパルという旅行会社を始めました。TABI cafeはそのサテライトオフィスでもあります。
吉川さんの目指す旅は、大手での経験と人脈を活かしつつ大手にはできないオーダーメイドの旅。「暮らすように旅をする」「行きたいところへ行きたい人と」をポリシーに、少人数にこだわった海外旅行を実施してきました。
中にはこんな旅もあったそうです。
ポルトガルに行くという70代と80代の女性二人。100m以上歩きたくない、というわがままな旅の条件。ポルトに3泊、リスボンに3泊。吉川さんは列車での移動と、移動先にそれぞれ現地のドライバーと車を待機させておく綿密な計画を立て、最後まで100m以上歩かせることはありませんでした。レストランでは「塩分は控えめにして」「私は糖尿病だから」と二人の容赦ない注文にも、その都度お店に指示して対応。二人は終始上機嫌で、ドライバーを「おっちゃん、おっちゃん」と呼んで親しんでいたそうです。
そんな旅の達人・吉川さんが、愛する糸島をもっと知ってほしいと2015年から始めたのが、日帰りバスツアー「ちびたび」。
コースは「糸島定番ご当地グルメ満喫の旅」「糸島の穴場・パンと雑貨をめぐる旅」「牡蠣小屋とメイドイン糸島を訪ねる旅」など、季節限定コースを含め6コース。5〜6名から最大12名の小型のバスでスタート。大型バスが入れない小さなお店にも連れていってくれるとあって、リピーターが続出する人気ぶりです。
添乗員が全員糸島在住で、訪ねる先々との信頼関係が厚いのは何よりの強み。例えば定番スポットの一つ、雷山千如寺では紅葉の時期などの混雑時には寺が別ルートへ誘導してくれ、参加者は心地よい優越感に満たされます。年間を通じて数え切れないほどの頻度でお客様を案内しているからこそ、寺も応援してくれるわけです。
「ちびたび」は2016年2月に福岡県主催の「福岡よかもん市場」よかとこバスツアー部門でお客様満足度グランプリを受賞。
小型バスによる「ちびたび」のメリットは、糸島を「荒らさない」ことにある、と吉川さんは言います。
「大型バスだと添乗員の目が行き届かない。ゴミも出るし、トイレが足りないといった問題も起こる。通れる道が限られるので、行ける場所やお店も少なくなります」
だから、敢えて小さい良い店に立ち寄ることも。
吉川さん自身、糸島に移住して23年。「ちびたび」は、これまで築いてきた人とのつながりをもとに「満を持して」始めたもの。
「糸島の魅力は、食の豊かさや適度な田舎感などがありますが、一番は居心地の良さを感じる人間関係。人が中心にあるからこその居場所づくりが自然に整っています。それを壊さず、荒らさない観光を目指したい」
「ちびたび」の旅行代金は、当初2年間は国の補助制度を活用して半額の5,000円でしたが、2017年から正規の10,000円(税込)で実施しています。
「クォリティは落としたくない。これからが本当のスタートです」と、吉川さんは表情を引き締めます。
「様々なところから糸島へ来て楽しんでいただきたいし、また糸島から世界へ旅立つ人のお手伝いも積極的にやっていきたい」
TABI cafeでは、旅行に行きたい人には無料で情報提供。旅なんて考えていなかった人も旅に出たくなるような雰囲気づくりを工夫しています。今後は加工食品など糸島のいいものを販売するコーナーも充実させていく計画です。