「写真が街を元気にする」MOTOKOさんインタビュー
ローカルラーニングツアー in 山形 3月24〜25日開催
地域のことって、自分(private)のことであると同時に、みんな(public)のことでもあり、境界があいまいです。
東京のような都市は、家庭(private)と仕事(public)をはっきり分けることができるけど、地方は違う。地元の出来事を発信することもあれば、私的な出来事を発信したりもする。
震災以降、地方に移住した人たちが、地元のことを発信する写真が生まれました。
アートのような自己表現(private)でも、コマーシャルのような公共(public)でもない、その間にある写真。人と人とをつなげる写真。
写真家のMOTOKOさんは、その写真活動を「ローカルフォト」と名付け、2013年に小豆島に暮らす女性7名の写真グループ「小豆島カメラ」を立ち上げました。
色づくレモン、お豆腐屋さんの後ろ姿、魚屋のおじちゃんの笑顔、夕日がうつる穏やかな海。
「小豆島カメラ」のFacebookページから毎日1枚づつ流れてくる小豆島の一コマ。島の住人だからこそ切り取れる愛おしい日常。
「小豆島カメラ」は新しい観光や産業活性化のアプローチとして、撮影ツアーや展示会を開催しながら全国の注目を集め続けています。
「ローカルフォト」のグループは現在では6地域で結成され、このたび3月24、25日に山形市でも「ローカルフォト」が体験できる「ローカルラーニングツアー in 山形」の開催が決定しました。
このプロジェクトを仕掛けたMOTOKOさんは、音楽、広告、ファッションなど、日本のカルチャーシーンの第一線で活躍されてきた写真家。リアルローカル読者のみなさんも一度はMOTOKOさんが撮影したCDジャケットや雑誌のカバーや写真集を見かけたことがあるかもしれません。
そんなMOTOKOさんがローカルに舵を切ったわけ。自分で撮るのではなく、ローカルに写真の種をまく理由。MOTOKOさんにじっくりとお話をうかがいました。
──広告やマスコミ業界で長年活躍されてきたMOTOKOさんがローカルに注目したのはなぜですか?
10年前頃から雑誌の廃刊が相次いで、代理店やレコード会社が不況になったり、ライブドア事件があったり、業界全体が縮小していくのを間近に見て、マスメディアの限界を感じました。そんな環境で、フリーのカメラマンであるわたしは一瞬で吹っ飛ぶ存在です。写真はなくならないけど、都会の写真業界はなくなるだろうと思いました。
一方で、写真を必要としている人、ちゃんと写真で見せなきゃいけないものがあるはず。だけど、それはもう都会にはない気がしたんです。そこで地方の若い農家に会いに行くことにしました。
──なぜ若手農家だったのでしょうか?
農家のみなさんは食べ物をつくることができる。たくましくて、生きていく力がある。
それまでは若手のスタイリスト、ヘアメイク、デザイナーなどと仕事をしてきましたが、地方にいる同世代の農家さんたちはいったいどういう気持ちで生きているんだろう。何が違うんだろう、と知りたくなったんです。
仕事のつながりから滋賀県へ行きました。滋賀県には全国的にみても珍しいほど20代の米農家さんが多くて、2005年頃から彼らの写真を撮ったり、農家さんが主役のイベントを一緒に行ってきました。
若い農家さんたちと会って話してみたら、国の政策の影響を直に受けていたり、シビアな現実やネガティブな話もありましたが、危機感があるからこそ、驚くほどに考え方が深いことに気づきました。
滋賀では鮒寿司を1000年以上前のレシピでいまだに作り続けていたり、古くからの絹織物が残っていたり、若い人たちの「継がなきゃ」という使命感や、地元の人の“絶やさない能力”を強く感じました。
──都市部との違いを感じたわけですね。
違いどころか「これはマズイ」と思いました。都市は地方に支えられて生きているのに、生産者のことを全然知らなかったし、自分は日本のことをなにもわかっていなくて、都会の価値観だけで生きてきたのだと愕然としましたね。これからは地方のことを学ばないと生きていけないと確信しました。
──MOTOKOさんは地方の人を撮影することから、地元の人に写真を教える「ローカルフォト」に活動がシフトしていきます。そのきっかけは?
ある人からFacebookの友達リクエストがあったんです。これが後に「小豆島カメラ」のリーダーとなる女性です。
農家をやるために会社を辞めて、愛知県から小豆島へ移住を決めた女性で、Facebookを見ていると写真がうまく、地域への入り方が今までと違うように感じました。
若い人が移住すると、気の合う仲間のネットワークだけになりがちですが、その女性は地元のおばちゃんたちと付き合いながら写真を撮って、地域の行事に関わりながらリノベーションの活動をしている。この人は移住の手本だなと思い、会いに行きました。
話を聞いてみると、小豆島には若い移住者が増えているのですが、それぞれがあまり友達じゃないというのです。若い人がひとつの島でがんばっているのに繋がりがないのはもったいない。
同じタイミングで、iPhoneが普及してカメラ業界が窮地に立たされる問題がありました。カメラを使って地元の人が地元の風景を撮ればなにかおもしろいことが起こるかもしれないと、オリンパスとのコラボレーション企画を小豆島の町長に提案しました。「女の子たちが小豆島の情報を発信する取り組みをしてみてはいかがですか?」と。
──MOTOKOさんが撮るのではなく、地元の女性たちに写真を教えたのはなぜですか?
写真を撮るうえで一番大切なのは気持ちです。 どこから見る夕日がきれいか、旬のおいしいものはなにか、街を支える大切な人たちは誰か、小豆島をよく知り、愛する人たち自らが発信すると、「伝わる」んです。
地元の人に写真が持つチカラを知ってもらうことで、島に観光客が増えるなら、その方が絶対その街のためにいい。
──写真家が地域に通って写真の種をまく。MOTOKOさんの大きな愛を感じます…。ちなみに「小豆島カメラ」の活動を通じて、なにか変化は感じましたか?
小豆島は主力である食品産業が伸び悩み、観光と人口減少も課題でした。そこで無印良品とのコラボレーションでツアーを組みました。彼女たち7人がカメラを持ってお醤油やオリーブなどの産業の現場に行って、一緒にご飯をつくって、食べるツアーです。
7人で一緒に産業の現場を回って、楽しみながら体験して発見して、それを写真で発信する。地元のコミュニティづくりと観光PRを同時に実施することができました。
──ランドマークを巡るかつての観光と比較すると、産業の現場を巡る新しい観光ですね。
「小豆島カメラ」をきっかけに、産業の現場がミュージアムになりました。織物の工場や、商店街の金物屋、パン屋さんだったり、干物屋だったり、人々が培ってきた産業の現場はミュージアムになる。それが実証できたことは大きな収穫でした。
「小豆島カメラ」を始めて今年で4年目になりますが、毎日SNSで写真を発信して活動を続けています。
──原材料は街と人とカメラだけ。この仕組みがすごいと思います。だから小豆島から始まって、他の地域でも展開されていったのですね。
小豆島の事例を見た長浜市から依頼を受けて「長浜ローカルフォト」を結成しました。現在は月に一回開催していて、これで2年目になります。
コアメンバーは13名に固定しつつ、回によって参加者を公募して開催しています。多いときで30名くらい。こうやって若い人が集まるとパワーを感じますよね。
「ローカルフォト」の目的にはコミュニティの育成もあります。カメラがあると仲良くなりやすいんですよ。
そして、地元の人同士が仲良くなると、外から人がやってくることがわかりました。外から呼び込むのではありません。地元の人が楽しんでいる姿を見て、外から人がやってくるんです。
──「ローカルフォト」は写真の技術だけじゃなく、撮影するうえでの“視点”が学べるツアーですよね。
みんなで同じ場所に行っても、それぞれ全員が違う発見をするわけです。講評会で写真を共有してコメントをもらうことで後から自信が持てたり、「こんなものがあったんだ」と別の発見があります。
それを後押しするのがカメラです。裸眼で見るより、スマートフォンで撮るより、カメラのファインダー越しで見る方が発見できるんです。銃をかまえて獲物を打つハンティングに近いですね。必死でなにかを探そうとする。
そのようにみんなでカメラを持って歩くことで、街を見る目の解像度が昨日より0.2%くらい上がるんです。「ローカルフォト」ではその小さな積み重ねを繰り返していきます。「目的を持って見ること」を続けていけば、絶対になにかが変わります。
──カメラの腕は二の次ということですね。
二の次、三の次です。わたしは参加者と歩いて、「どこを見てる?」とか「ちゃんと取材対象者の話を聞いてね」とかアドバイスをする役目です。
かつてわたしはひとつの画面の中でどんな絵をつくるかを必死に考えていました。だけど、2006年頃から地方をめぐるようになって、「この写真を撮ることでどんな変化が起きるのか」を真剣に考えるようになりました。
この写真を撮ることで「うちの店かっこいいよな」と店主に再確認してもらえたり、お客さんに行ってみたいと思わせたり、それこそが「写真のチカラ」。カメラの腕よりも、撮る側の気持ちや視点が一番大切になるわけです。
写真のチカラを一番強く実感したのは、ミュージシャンのくるりと一緒につくったCDジャケットの京都タワーがきっかけでした。
くるりの岸田さんからオーダーをいただいたんです。「京都タワーを下から見上げるのではなく、正面から向き合って撮ってほしい」と。
これまで京都タワーは京都の“とんでも建築”と言われ、京都の恥と言う人までいるくらいでした。タワーには人が寄り付かず、施設内もさびれていました。
だけどあのタワーを同じ高さからしっかり撮ってCDのジャケットにしたら、くるりファンから熱が広がり、地下には新しいフードコートができて人で賑わい、建物は黒字になりすっかり人気の建物になりました。
写真一枚をきっかけに、今まで見過ごされていたものが見直されて、傾きかけていた施設の経営が持ち直った。その成功体験が「ローカルフォト」の基礎を築いたのです。
──「ローカルフォト」の活動は、カメラを通じた草の根運動のように感じます。
京都タワーのときに感じたのですが、多くの人が「未来はこうなったらいいな」と思ったことは、ちゃんと具体化されていくんです。
地方はこれまで東京や周辺の都市など、外に目が向いていたのではないでしょうか。「うちの街はダメだ」と言っていると、本当にダメになってしまう。
だから自分の街を憧れの街にしたらいいんじゃないかって思うんです。外から借りてきたものじゃない。ここにあるものをちゃんと見ること。この街に対して、「見たい未来」をみんなで見ること。
──この「ローカルフォト」を短期間でお試し体験できるのが、「ローカルラーニングツアー」。3月24、25日に山形市で開催されます。
山形市は夫婦でやっているいいお店が多いことが印象的でした。
みなさんはお店を真面目にやられているだけでなく、住民としてこの街をどうしたらいいか真剣に考えている。儲けだけに徹しず、街の記録を録っていたり、地域の教育を熱心に考えていたり。上品さの中に熱意を感じました。
ローカルラーニングツアーでは、そういった地域のベテランと若い人が交流するいいきっかけにもなるはずです。
山形市でのローカルラーニングツアーを楽しみにしています。
【MOTOKOさん プロフィール】
大阪芸術大学美術学科卒業。1992年より2年間渡英後、1996年より東京で写真家としてのキャリアをスタート。CDジャケットや広告など幅広く活躍する。2006年より日本の地方におけるフィールドワークを開始。滋賀県の農村を舞台とする「田園ドリーム」をスタート。キャリアをスタートさせた時からテーマは一貫して「自然と人間」。近年では、「地域と写真」をテーマに、滋賀県長浜市、香川県小豆島、神奈川県真鶴町、長崎県東彼杵町など日本各地で活動し、2016年社団法人ローカルフォトラボラトリーを設立。
展覧会に田園ドリーム、小豆島の顔。おもな作品集に『Day Light』『京都』など
3月24日(土)〜25日(日)開催の「ローカルラーニングツアー in 山形」のツアー内容やスケジュールなど詳細はこちらから。
日時 | 2018年3月24日(土)〜25日(日) |
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会場 | 郁文堂書店(山形県山形市七日町2丁目7−23) |
料金 | 24日のみ:1500円(昼食込) 25日のみ:4000円(昼食代、ロープウェイ代) 2日間:5,000円(ロープウェイ代、昼食代含む) ※高校生まで、両日とも参加費1000円。未就学児は無料 |
主催 | 山形リノベーションまちづくり推進協議会、山形市 企画:株式会社オープン・エー 協力:reallocal山形 |
備考 | 募集人数:20名 申込・問合せ先: llt.yamagata[a]gmail.com もしくは、以下の問い合わせフォームより「ご氏名/参加人数」を明記のうえお申し込みください。
【注意事項】 ・宿泊先は各自手配(紹介が必要な方はこちらから紹介) ・参加費に、移動費と宿泊費は含まれません(宿泊は必須ではありません) ・現地集合、現地解散 ・オリンパス株式会社の最新ミラーレス一眼カメラの貸し出しあり |