山形のヨガスタイルを世界へ
YOGA ME ! ディレクター 新関あやさん
生まれも育ちも山形。3歳から水泳を始めてインターハイ出場を果たし、アスリートな学生生活を送った新関あやさんは、高校卒業と同時に山形を出ます。
大学進学のため上京し、ヨガと出会いました。本を見ながら、軽い気持ちで太陽礼拝の動きを試してみると、アスリート時代の引き締まった感覚が一瞬にして戻ってきたといいます。
そこから引き込まれるようにヨガの世界へ。インド、チベット、スリランカにて修練をつみ、東京を中心に全国でヨガを指導してきました。
そして2017年4月、上京から約15年の月日を経て、新関さんは地元山形でヨガスタジオ「YOGA ME!山形」をオープンしました。現在は東京と山形の二拠点で生活しながら、全国に向けてヨガの魅力を発信しています。
「山形ならではのヨガやライフスタイルに可能性を感じています」
笑顔でそう語る新関さんからは、ヨガを通じた山形の未来像が次々と溢れ出てきました。
──新関さんは東京で約7年ヨガの活動をされていますが、山形に戻ろうと思ったきっかけはなんですか?
ヨガを始めてから、積極的に海外へ修行に行きました。最初に登った名山はヒマラヤだったし、インドやチベット、スリランカでは瞑想修行をつみました。
外へ外へと修行を突き詰めていったところ、数年前にふと、世界に通用する修行の場が山形にもあることに気づいたんです。山形には羽黒修験道がある。
秋の峰入り(※)で山籠り修行を受けてみたところ、修験道は日本文化、ヨガはインド文化がベースにあり、それぞれ修行の形式は違えど、根本にあるものは同じなのだと感じました。
上京した頃は、もう自分はこの街には戻ってこないものと思っていたんですよ。だけど、遠くに求めていたものが実は自分の地元にあって、その引力で山形に戻ってきました。人生ってわからないものですね。
(※)秋の峰入りとは、羽黒修験の最大の宗教儀礼のこと
──新関さんは現在、東京と山形を半分ずつ行き来されていますね。二拠点生活はいかがですか?
東京にはたくさん人がいて、情報量も多く、いろんな意味で選択肢が多い。新しい視点を得やすいことが東京の良さだと思っています。
いろんな視点に触れて山形に戻って来ると、山形の新しい側面に気付けたり、思いがけない企画が生まれたりする。ゆくゆくは山形のヨガスタイルを東京へ発信したいとも思っています。山形と東京をつなぐ役になれたらと、模索している最中です。
──「YOGA ME!山形」をオープンして、幼少期や学生時代とは違ったアプローチで山形と関わっていらっしゃると思います。山形暮らしはいかがですか?
山形にはお店の経営者さんや作家さん、デザイナーさんやカメラマンさんなど、活動的でクリエイティブな若い人がたくさんいます。「山形でなにかしたい!」と、みなさんもわたしも同じ視点で山形を見ているせいか、話が通じやすいし、同じネットワークの中にいる感覚があって、すごく心強いですね。
きっとその方達がコツコツと築き上げてきた成果だと思うのですが、山形で見かけるパッケージやポスター、店舗や展示物など全体にデザイン性が高い印象があります。芸工大の存在も大きいのではないでしょうか。けっして地元びいきではなく、他の地方を訪れてきた経験からみて、山形は客観的に洗練されていると思うんです。
東京から友人が遊びに来ると、どんなところに案内しようかワクワクしちゃうんですよ。「とんがりビル」「KOUB」「WEEKENDERS」「串幸」「kotonowa」とか…。お土産には佐藤屋さんの「たまゆら」が鉄板です。ほかにもたくさんいいお店があってブログやSNSのネタが尽きないですね。
その反面、変わらない山形もまだたくさんあります。地元の人が大切に思う神聖な場所や美しい風景がたくさんあって、その魅力は単純に写真や言葉では伝えきれないし、開けっぴろげにSNSで発信しようとは思いません。山形に来てくれた人に、実際に見て感じてもらいたいと思っています。
──「YOGA ME!山形」はロゴが素敵ですね
ありがとうございます。これはヨガの仕組みを表していて、インドでは古代から親しまれている絵なんです。
五頭の馬は五感、手綱は心。音が聞こえたり、なにか見たり触れたりして、乱れる手綱を御者がコントロールすることで、心を静かに保ちます。
御者は知性で、馬車は体。王様は魂を表しています。安定して馬車が進まないと、体の中に安心して魂が宿っていられないという人間のメカニズムであり、心を上手にコントロールすることがヨガの基本なんです。
体操とヨガの違いは、体だけでなく、心と意識をトータルに鍛えること。ポーズで体を鍛える、呼吸法で心を鍛える、瞑想で意識を鍛える。この3つを体系化したのがヨガです。
ヨガは日常生活を楽しく過ごすために誰もが活用できるツールなので、山形にもっとヨガが根付いてほしいと思っています。わたしはその「場づくり」をしたり、みなさんが楽しく続けるためのサポート役でありたい。
山形のヨガスタイルを地元の人にも知ってもらいたいし、ゆくゆくは世界にも発信していきたいと思っています。
──新関さんのいう「山形のヨガスタイル」とは?
山形には広大な自然があります。ヨガにとって呼吸は基本なので、新鮮でおいしい空気を取り込めるのはとても重要なこと。これまで山寺などでヨガのイベントを行ってきましたが、改めて山形はヨガとの相性がいい土地だと思いました。
温泉も山形の大きな財産ですよね。たとえば温泉にある畳の広間でヨガのクラスを開いて、ヨガの後に温泉に入るなんてどうでしょうか。
──とても健康的で気持ち良さそうです…
山形では高齢化が進み、多くの人が「健康に長生きすること」をひとつの目標にしていると思います。
ヨガは意識さえあれば、体に負担をかけずにどこでもできる、とても気軽で便利な健康法。体が動きにくい場合は、呼吸法だけでもいいのです。今後はヨガと温泉とセットで楽しむプランも計画しています。温泉のついでに、高齢者のみなさんにもヨガを体験してもらえたら嬉しいです。
──スタジオがオープンしてもうすぐ1年ですね。今後の展望を教えてください
「YOGA ME!山形」では、通常のヨガクラスのほか、講師育成のクラスも実施しています。
せっかく山形で講師を生み出すなら、世界に通用する資格を持って活躍してほしいので、ヨガの世界的な基準とされる「全米ヨガアライアンス」のコース(※)を開講しました。
これからも自然や食、信仰文化など、山形ならではの切り口でヨガクラスを開催して、「YOGA ME!山形」から生まれた講師のみなさんにたくさん活躍してもらいたいです。
県外の人にも地元の人にも山形らしいヨガを体験してほしいと思っています。山形の衣食住を絡めたヨガフェスや、温泉宿とヨガをセットにした旅のプランも構想中です。
──TO DO リストがいっぱいですね
わたしはこのスタジオを、人と人とをつなげてメッセージを発信する「メディア」だと思っています。
自分がおもしろいと思う場所から自分のメディアで発信することは、これからのひとつのスタイルになっていくはずです。
地元の山形で、このスタジオから、世界に向けて山形のライフスタイルを発信していきたいです。
(※)全米ヨガアライアンスの資格取得のためには200時間のトレーニングを要する。「YOGA ME!山形」が県内では初の全米ヨガアライアンス認定のヨガ指導者養成講座となる。
撮影:根岸功