【能登】料理の最先端は生産地にあり。「Villa della Pace」平田明珠さん
東京から七尾市に移住
イタリア料理店「Villa della Pace」のオーナーシェフ平田明珠さん。
2016年に東京から引っ越して石川県七尾市でお店をオープンさせました。
2014年、平田さんは、当時修業していたお店で使っていた食材の生産者に会うため、単身1人で七尾市を訪れました。つくっている人が見えない食材を扱いたくなかったからです。
その際、生産者の方が親切に能登を案内してくれ、平田さんはこれをきっかけに能登のことが好きになりました。平田さんの心を捉えたのは、景観の良さ。また人との相性も良かったと言います。
「七尾の人は、最初はそっけないけれど、仲良くなると家族みたいによくしてくれる」
移住と開業を考えたときに迷ったのが石川県と和歌山県。どちらも食材がおいしく、肉、魚、野菜のすべてが身近で手に入れられる点が気に入っていました。
「最終的には、七尾に既に知っている人がいて良い人間関係がつくれていたことが一番の決め手でした」
また、行政の創業支援が充実していたことも後押しになったと言います。
(参考:七尾市 起業したい人のための相談窓口)
「新しい土地でしたが、開業にあたっての苦労はそんなになかったです。物件も七尾の知り合いからのつてで良い不動産会社を紹介してもらえました。食材の仕入先は東京にいたときから既につきあいのある取引先があったし、人のつながりで他の方も紹介してもらえました。苦労したことがあるとすれば、スタッフの確保です。そもそも人が少ないので探すのが大変。誰かいないかかたっぱしから聞いて回って、最終的に知り合いの生産者の方に紹介してもらいました」
東京から移住してデメリットと感じるのはどんなところですか?
「シンプルに、自分にはこっちの方が性に合っているなと思いますね。よく聞かれるんですが、メリットは挙げられますが、デメリットは特に感じていません。車の運転は好きだし、都会的な娯楽にはあまり興味がないので。何より、生産者を訪ねやすくなったことが嬉しい。お店の営業日は質の高い食材を使って料理ができ、休日は生産者を訪ねて食材について学ぶことができる。料理人として今のライフスタイルは最高です」
東京時代から付き合っていた彼女は富山県出身だったこともあり、快く引っ越しを受け入れてくれたそうです。また移住を機に、結婚されました。
「地域にとって料理人は大事な存在だと考えています。その地域で育てられた生産物のおいしさを最大限に引き出して、地元の人や旅行者に味わってもらうことができる。また、地域がこれまで歩んできた歴史や、歴史をつくろうとして今頑張っている人たちのことや、祭りや習慣などといった土地固有の文化についてなど、“地域そのものを伝える”という役割も担っていけるのではないか。そうした考えが、自分自身の料理人としての存在意義や、料理に対するモチベーションにつながっています」
七尾に引っ越したことで、料理人として目指す世界観、方向性が見えてきたと、平田さんは語ってくれました。
料理人は生産地にもっと来たら良いと思う、という平田さんの言葉が印象的でした。
「料理人は生産地に行けば良い。料理の世界の最先端はそこにあるから。そう思っています。今、料理の世界では、身近にある食材をいかにアレンジして使うかがトレンドです。たとえば、私は近所の畑から、間引きで捨てられた細いニンジンを買い取って、それも料理に使ったりしています。もちろんそれはただ捨てるのではなく別の活かし方ができないかという思いがあるからです。
ただ、その料理を東京のシェフが見て、見た目が面白いからと同じように細いニンジンを使っている場合があるんです。でも、料理の奥に込められた意味までは真似できない。見た目だけが東京に出ていっている。しっかりとその“意味”を含めて料理を出せるのは生産地ならではだと思う。僕は、“おいしいものを食べに生産地に行く”という時代が来つつあるとも感じています。」