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蔵王高湯系こけしを未来につなぐ

こけし工人・梅木直美さん

2018.03.26

蔵王高湯系こけしを未来につなぐ

東北を代表する伝統民芸品のこけし。山形で暮らしていると、旅館や老舗の商店、飲食店など、街で日常的にこけしと出会います。

伝統こけしには11系統あり、そのなかで山形を代表するのが蔵王高湯系です。太めの胴体に、赤い放射状の飾りやおかっぱ頭、三日月の目、桜くずし模様や重ね菊模様などが特徴です。

近年ではこけし工人の数が減り、現在、山形県内で蔵王高湯系こけしをつくる工人はたったの3名。そのうちの一人、梅木修一さんの跡をつぐ梅木直美さんにお会いしました。蔵王高湯系を未来につなぐ、貴重な女性こけし工人です。

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梅木修一さん。内閣総理大臣賞の受賞歴もある山形を代表するこけし工人のひとり

89歳でいまだ現役の、お父様でありご師匠でもある梅木修一さんのもと、20歳で絵付けをスタートし、会社勤めをしながら制作を続けていました。

次第に注文が増えるようになり、「父が元気なうちに技術を学びたい」と覚悟を決め、6年前に専業へと転身しました。

蔵王高湯系こけしを未来につなぐ
こけしの底には工人直筆の名前が刻まれている

こけしの技術を習得するには、ただひたすら描くのみ。自信が持てるようになってきたのは、まだ最近のことだと直美さんはいいます。

「兼業でやっているとき、お客様から『あなたのこけしには個性がない』と言われたことがあります。技術を継承する伝統こけしでは、模様やカタチを変えてはいけません。なのになぜ個性が必要なんだろう?と思い悩み、描けなくなる時期がありました。

だけど、専業になってしばらくすると、こけし業界の方から「いい顔を描くようになった。覚悟が見える」と言われました。自分自身はなにも変えたつもりはありません。ただ、わたしの意識が変わって、それが筆にのったんですね。

これはきっとどの業種の人にも当てはまることで、取り組みの姿勢が作品に自然と現れたのだと思います」

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直美さん作の蔵王高湯系こけしたち。ふと目が合うとドキッとするような、心に訴えるなにかを感じる

笑っているような、でも真顔にも見えるような、こけしの表情からは不思議な雰囲気を感じます。直美さんは表情を書くうえで、どんなことを意識しているのでしょうか。

「こけしの表情には、モナリザの微笑に通じるものがあります。はっきりとは笑わないけど、笑顔なんですよね。見る人によって笑顔の度合いやその意味は変わってくる、自由な解釈でいいと思っています」

こけしの表情について、こんなエピソードも教えていただきました。

「自分が描いたこけしで『これはいい出来だ』と思うものと『ちょっと失敗したな』と思うこけしがあるとすると、お客さんはだいたい失敗した方を選ぶんです。

あまりにも美しすぎると、引いてしまうのだと思います。美しいモデルさんには声をかけづらい…というのに似ているのかもしれません。人もこけしも、完璧なものより、ちょっと抜けている人間味のあるほうが愛されるのかもしれませんね」

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木を乾燥させ、木地を引き、ろくろをかけ、頭と体を絵付けし、磨き、組み立てる。出来上がりまでは1週間ほどがかかるそう

専業になると決めたとき、最初は修一さんに反対されたという直美さん。いまの時代、民芸品で食べていくのは難しいと、直美さんが会社を辞めることを懸念していたといいます。

たしかに、一体ずつ手づくりする工程を知ったうえでこけしの値段を見ると思わず驚きます。山形の土産物屋で見かけると、18cm前後のもので相場は一体1500〜2500円ほど。

戦争前後のこけしブームでは、安くてもたくさん売れて商売として成り立っていた時代があり、その値段設定から大きく変わらず今日に至るそうです。

「安いからこそ広まってファンがいるというメリットはありますし、安すぎて仕事として成り立たず、後継者が途絶えていくデメリットもあり、作り手としては悩ましく思っています」

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「猫こけし」シリーズ
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「猫こけし」のモデルとなるのは、飼い猫のちびちゃん。いたずらな目がそっくり

直美さんは「猫こけし」と「天使のこけし」など、ユーモアあふれる創作こけしも手がけています。いたずらな猫の表情や軽やかなパステルカラーが溶け込んだ21世紀型のこけし。SNSやブログを通じて拡散され、ファンの間で大人気の様子です。

こけしの世界は愛好家と工人との距離が近く、愛好家とのコミュニケーションから作品が生まれることもあります。天使のこけしは、お客さんから注文を受けたことをきっかけに制作し、シリーズ化となりました。

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どこか北欧の風を感じるパステルカラー。若い女性の心を掴む新しいこけし

創作こけしの位置付けを、直美さんは大切に考えています。

「最初に天使のこけしを注文してくれた人は、伝統的な蔵王高湯系のデザインには興味がなかったそうです。だけど、青い創作こけしを手にして、蔵王高湯系の伝統的な「赤」の良さがはじめてわかった、とおっしゃいました。これからも創作こけしが伝統こけしの魅力を知っていただく入り口になっていけたら嬉しいです」

蔵王高湯系こけしを未来につなぐ
木材に囲まれた工房にて

ここ数年でこけしブームが到来しているように、若い世代を中心にその存在が見つめ直され、愛され続けるこけし。最後に、工人の直美さんにとって、こけしとはいったいどんな存在なのか、聞いてみました。

「よくファンの方から、『こけしを見ると癒される』って聞くのですが、最初はその理由がわからなかったんです。だけど、最近になってようやくわかるようになりました。

人間って、生活していくうえで嫌なことがあったり、気持ちが沈むことがありますよね。人との関係がうまくいかないこともあります。誰もが子どものころに持っていた純粋な気持ちを、少しづつ忘れかけているのかもしれません。

そんなとき、こけしを見ることでふっと気持ちが緩んで、本来の自分や素の笑顔が出てくるのだと思います。

みなさんにとって、こけしがそんな存在になってもらえたら嬉しいです」


梅木直美さんのブログ
https://ameblo.jp/yamajii-kokesi

梅木直美さんのこけしは、〈尚美堂 エスパル店〉にてお買い求めいただけます。

撮影:MOTOKO、堀越一孝

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