「たけのこ料理 小坂」でたけのこ三昧
金沢の旬ごはん「別所のたけのこ」
城下町金沢には、藩政時代から受け継がれた「加賀野菜」と呼ばれる特産野菜があります。加賀野菜ブランドに認定されているのは15品目。今回はその一つで春が旬の「たけのこ」に注目です。
金沢には竹の子の産地がいくつかありますが、内川地区の「別所(べっしょ)」で採れる竹の子は「別所のたけのこ」と呼ばれ、ブランド竹の子として別格に扱われています。旬は4月中頃から約1ヶ月と短いので、今まで訪れる機会を逸してきましたが、「表年」(おもてどし/豊作で美味しい年)と言われる今年こそ現地で食べたい!と初訪問しました。
「別所」のブランド竹の子
別所、別所とよく耳にするものの、「別所ってどこななの?」と実は正確な場所を知りませんでした。カーナビに導かれるまま車を走らせると、北陸学院大学の近くで金沢駅から約25分、山側環状の野田から5分と、市内中心部からも案外近いことがわかりました。そういえば野田周辺の幹線道路沿いに、季節限定の竹の子屋さんが並んでいましたね。別所はそこから少し山手に入った場所です。
やっぱり別格!「別所のたけのこ」で春を味わう
訪れたのは別所で竹の子料理が味わえる数少ないお店の一つ「たけのこ料理 小坂」さん。メニューは「お料理 1人前2700円」(要予約)だけと超シンプル。他は飲み物とお持ち帰り用の「たけのこめし」だけ。
というのも、こちらのお店は竹の子が採れる4月中旬から5月中旬までの1ヶ月だけオープンしている、農家直営の期間限定店なのです。しかも、ご主人の小坂栄司さんにお話をうかがったところ、本来は竹細工や農業・林業などに使う竹が専門なのだそう。年に1ヶ月だけの竹の子農家って確かに成立しにくいですよね。ちょっと目から鱗でした。
お料理は、竹の子の刺身、天ぷら、煮物、竹の子めし、味噌汁、山菜酢の物、漬物など、竹の子&山菜づくし。ゴールデンウイーク明けで時期が遅すぎたかな・・・と思っていたのですが、びっくりするほど柔らかく、シャキシャキした歯応えがあり、何よりなめらかで甘い! 予想していた筋っぽさや繊維感が全くないのには驚きです。さすが、食にうるさい金沢人が別格と認めた「別所のたけのこ」。
小坂さんの味付けは上品な薄味で、竹の子の甘み、旨みがそのまま感じられるようになっているのも好感度高し。ご主人曰く、竹の子は旬の1ヶ月の間に味わいが変化するそうで、出始めの10日間は柔らかな歯触りが楽しめ、次の10日間は最盛期で竹の子本来の美味しさを味わえる時期。最後の10日間は少し硬くなるけれど、独特の甘味が出て味がのってくる時期なのだそう。今年は5月13日までの営業なので、本当に滑り込みセーフでした。
美味しい竹の子が生まれる場所
お店の裏にある竹林も見せてもらいました。キレイに手入れされていますが、「あれ、採り忘れかな?」と気になったのが高く伸びた竹の子。「あれは竹を育てているんですよ」と小坂さん。竹を収穫して加工するのが小坂さんのお仕事。良い竹を育てるために、竹の子として収穫するもの、竹として育てるものを選んで竹林を整備しているそう。「手入れをしないと竹林はあっという間にダメになるんですよ。この辺りでも生産者が減って、荒れてしまった竹林が増えました」とのこと。
金沢の竹の子は、江戸中期の明和7年(1770年)に江戸詰めをしていた岡本右太夫という足軽が、江戸から「孟宗竹」を持ち帰って藩内に広めたのが始まり。特に別所は黒い粘土質の土壌が孟宗竹と相性がよく、美味しい竹の子が採れる名産地になったのだそう。
春の味覚として何気に食べていた竹の子にも、こんな歴史や背景があったなんて。別所へ竹の子を食べに来て、いかに大切に守り伝えられてきた貴重なものなのか、そのありがたみを美味しさと共に実感しました。