断熱性能とデザインの良い住まい/コルポ建築設計・石山寛さん
日本のほとんどは、夏は暑く、冬は寒い。
でも山形は、夏はめちゃ暑く(40度越えの記録あり)、冬はめちゃ寒い(凍てつくような氷点下)。それが住んでこそわかる確かな実感。だからこそ、この地で快適に過ごすには性能に優れた住環境がとても大切であることをこれまで山形エコハウスの紹介や竹内昌義東北芸術工科大学教授のインタビューを通してreallocalはお伝えして来ました。
そして今回は、断熱性能に優れつつデザインにも優れた家づくりをモットーとする建築家・石山寛さん(コルポ建築設計事務所)にご登場いただき、暖かな家づくりとその周辺事情についてお話いただきました。
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山形の一年の半分は暖房
石山:山形って、暖房を必要とする期間がとても長いんです。置賜地方などの豪雪地帯になれば半年以上ですし、比較的雪の少ない山形市内でもやっぱり半年近くはどうしても必要です。ゴールデンウィークの頃でも急に寒くなってストーブを出すのも珍しいことじゃないですよね。だから最初から暖かい家を建てれば省エネにもなるし経済的だし、いいことばかりのはず。けれど、その当たり前のようなことが一般の人にはなかなか伝わっていないことを、とても残念に思います。
「新しい家を建てれば、どんな家も暖かい家になる」とみなさん思い込んでいるのかもしれませんが、そんなことありません。ハウスメーカーの多くは「高断熱高気密」を謳っていますが、実はそこには明確な数値で表現された性能のレベルが様々あり、幅があるのです。せっかくマンションから夢のマイホームに移り住んだのにマンションよりもずっと寒くなったとか、小さく仕切られた部屋のすべてにエアコンが取り付けてあって膨大なエネルギーと電気代がかかるとか、新築の家にもそんな事例が今でも実際にあるのです。
暖かい家づくりというのは、ピピッと図面を描いて見た目のかっこいい家にしましたというのとはまったく次元の異なる話で、きちんと暖かくなるような性能の施工ができたかどうか、ということがポイントになってくるんですね。
性能とデザインの両立をめざして
石山:ですので、暖かい家づくりのできるノウハウを持つ工務店さんにお願いする、ということが不可欠です。ただ単に断熱材をペタペタ貼っていけばいいというものでもなく、大工さんの技術や手間がかかる仕事ですから、大量の注文をこなす大手のハウスメーカーさんにはちょっと難しい話だろうと思います。
さらに、性能を発揮するためには断熱材を多く使うだけじゃなく気密も重要です。気密というのはとてもデリケートで、せっかく大工さんがきちんとやってくれたのに、電気工事の人が台無しにしてしまうということもありえます。ですから、電気工事や設備工事をする人たちとのチームワークも、仕上がりをコントロールする工務店さんにとっては大切なんです。
そして、性能に優れているだけでなく、やはり外観も素敵な、街並みにも気を配った家にしたい。だから私は「暖かいという性能とデザインの良さが両立するような家づくり」をめざしたいんです。逆に建築設計をやっている人の多くは性能よりも造形にこだわる人が多いのですが、私ひとりくらいはその中間的なポジションにいてもいいのかな、と思っています。
本当の高断熱高気密は
省エネで経済的で、しかも健康的
石山:地元の大手の建築設計事務所から私が独立したのは東日本大震災後のことでした。大きな案件の大きな施設や建物を設計するそれまでの仕事とは違って、個人住宅をメインに設計するようになり、お客さんの顔がはっきりと見えるようになりました。だから、お客さんが本当に喜ぶものだけを作っていきたいんです。
震災のときの大きな揺れと福島の事故が私にはとてもリアルで衝撃的でした。震災を機にドラスティックな変化が起きることをそのとき予感しましたが、原発にしろ人々の考え方にしろそれほど大きくは変わらなかったような気もします。でも私は、震災をきっかけに省エネルギーで快適に暮らせる家づくりをめざすようになりましたし、それをこれからも続けていきたいと思います。
知ってますか。断熱性能の高い家はいま「省エネで経済的である」ということに加えて「健康に良い」ことが証明され始めているんです。暖かい家に暮らすことで、ヒートショックもなくなり、結露によるダニやカビの発生もなくなり、アレルギーになる可能性も減ります。室温が一定に保たれることで体の負担も少なくてすみ、疲れにくくなり、風邪もひきにくくなる。健康寿命を延ばすことにも繋がると言われているんです。
そこまで言われているのに、断熱性能に優れた家づくりをめざさない理由はないですよね?
石山 寛
一級建築士。1973年山形市生まれ。東北芸術工科大学 環境デザイン学科卒業。本間利雄設計事務所を経て2013年コルポ建築設計事務所設立。2015年日本エコハウス大賞2015入賞「Casa Mon taña」。