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「ここにあるもの」を生かすデザイン

デザイナー・須藤修さん

「ここにあるもの」を生かすデザイン

家具のリペアやデザイン、空間のプロデュースなどを手がけるデザイナーの須藤修さん。

山形県南陽市赤湯温泉で生まれ育ち、東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科を卒業後に独立。山形を拠点に、家具のリペアを中心にキャリアをスタートさせました。

最近では、旅篭町の「guraクラフトストア」のプロデュースや、七日町にオープンした食べ物とクラフトと子どもの品物を扱う「oboco」を運営するほか、林業の新しいアプローチ「YAMAMORI PROJECT」や、デザインレーベル「山の形」を立ち上げるなど、その活動は多岐にわたります。

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内装が完成した直後のguraクラフトストア。店舗ディレクション、オリジナル商品の開発、県内外のクラフト品のセレクトを担当(撮影:志鎌康平)

今回のインタビューでは、学生時代からこれまでの活動を振り返っていただきました。

須藤さんのさわやかで穏やかな雰囲気と、真摯な語り口。話しているととても心地がよく、前向きな気持ちになる。インタビューを通じて、そんなことに気づきました。

その人柄にひかれていくのか、須藤さんのもとには、たくさんの人や相談ごとが集まり、プロジェクトが自然発生していきます。

「人と人」「素材と技術」など、なにかとなにかの間に入り、会話を大切にし、繋ぎ、次々と新しいものを生み出していく──。

須藤さんのこれまでの歩み、そして、山形ならではの仕事論について、じっくりとお話をうかがいました。

 
──まず最初に、家具のリペアを始めたきっかけを教えてください。

須藤さん:きっかけは学生時代に参加したワークショップでした。

東北芸術工科大学ではプロダクトデザインの専攻でしたが、まちづくりにも興味があったので、3年の夏休みに建築・環境デザイン学科のワークショップに参加させてもらい、島根県出雲市に行くことになりました。

参加したグループで「元々そこにあるものをどう生かして、まちに残すか」というテーマが提示され、2週間ひたすら地元の人にリサーチを行い、関係を築き、空間もオブジェも何も新しくつくらずに、まちに元々あるものだけで構成したイベントを行いました。

「ここにあるもの」を生かすデザイン

その後も「ここにあるものを生かす」というテーマがずっと頭に残っていました。きっとそれは、まちづくりだけでなく、デザインにも当てはまるはず。

「蔵プロジェクト(※)」やリサーチをきっかけに、蔵とともに破棄されてしまう壊れた椅子や、棚、古材などに興味を持ちました。

それらが使われなくなった理由を追求して、直して、蘇らせることを卒業制作のテーマに決め、夏休みには朝日町にある家具の制作会社「朝日相扶製作所」で修繕の修行をさせていただきました。

修行後は3D曲面のベビーチェアを貼り直したり、皮のシートを被せたり、100年以上前の蔵の解体時に譲っていただいた松の板を磨いてダイニングテーブルの天板にしたりと、テーブル、椅子、棚など7点の作品が完成しました。

加えて、インターンシップ先だったコロンさんの協力もいただき、なぜ使われなくなったのか、どう直したかを記したカルテをつくり、7点の作品とムービーと写真を展示したのが卒業制作です。

当初はそれで食べていくなんて思ってもみませんでしたが、そこから家具のリペアが仕事になっていきました。

※ 東北芸術工科大学の建築・環境デザイン学科による蔵の保存や利活用を考えるプロジェクト

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卒業制作で手がけた家具や小物。三段の引き出し(左下)は、現在、旅篭町の喫茶店「シャンソン物語」のカウンターで使われている(画像提供:須藤さん)

──卒業制作は「ここにあるものを生かす」がわかりやすく表現されていますね。

その活動方針はいまでも変わりません。この土地ならではの自然や文化、人の歴史、時を重ねた古材や建物など、ここにあるもの生かせるデザイン。

すべてこの考え方をベースとして、まちづくりや家具や空間デザインなどに取り組んでます。手段が変わっても、やりたいことは常に同じなんです。

──卒業後、活動の場に山形を選んだのはなぜですか?

話は卒業制作に戻りますが、足が一本折れた天童木工の椅子をリサイクルショップで500円くらいで購入したり、蔵から出てきた古材や家具を無料で譲り受けたり、リペアの仕事の材料はほぼゼロ円の素材ばかりでした。

価値が見出されていないものを、わたしが掘り出し手を加え、伝えることで価値が生まれる。家具の場合はそれに値段をつけて販売し、新しい持ち主に購入してもらうところまでを卒業制作と考え、結果的に売り切ることができました。

実は当時、就職活動で東京の大企業を何社も受けていたのですが、このことをきっかけに就活をやめてしまいました。自分の労働への対価を実感し、そしてなにより買ってもらえたことがすごく嬉しくて、確信は持てずとも「やってみたい」と思えました。

山形はものづくりが盛んな土地で、山形建具の職人さんや宮大工さん、石工さんや工芸品の作家さんなど、古くから続く技術に学ぶことがたくさんあります。素材も豊富だし、ここにあるものを生かす活動なら、山形はまさに最適な場所だと思いました。

いろんな所や人を訪ね歩いていると、当たり前に感じている場所から意外なものが見つかる高揚感もあります。わたしにとって山形はずっと学び続けられる場所なんです。

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「YAMAMORI PROJECT」ウェブサイト

──須藤さんは仕事以外にも、個人的にプロジェクトを立ち上げて活動されていますね。そのひとつ、「YAMAMORI PROJECT」について教えてください。

ある日、家具リペアの仕事で「テーブルの天板を県産材を使用して取り替えてほしい」と依頼を受けました。

木材市場に材料を探しに行ったら、流通がなく、製材屋さんに行くと流通ルートが限られていると言われ、購入できませんでした。そこで木こりさんのところへ行くと、伐採する中で邪魔な広葉樹があるので、使い手があるなら切りたいとのこと。

市場も製材屋さんも、木こりさんもわたしも、みんなに共通していたのは「少量でもほしい、販売したい」という声でした。

そのニーズをつなぎたいと、学生時代からお世話になっていた山形市の建築家・井上貴詞さんと一緒に「YAMAMORI PROJECT」を立ち上げました。

各市町村の森や木材に触れて身近な山を体験してもらうツアーや、新しいプロダクトの制作といった活動を行なっています。自分たちが会える範囲で新しく少量の流通をつくることで、もっと広く人に知ってもらったり、木材の有効利用につながる仕組みです。

小国や真室川、鶴岡などを訪れて山に入ることで、市町村ごとに違う土地の輪郭が見えてくる。そうすると山形全体の見え方も変わっていきます。これはライフワークになっているので、楽しみながら続けていきたいと思います。

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山形県内の里山を舞台に、その山の文化や植生を学び、その土地に関する木を使ったものづくりを体験するツアー「YAMAMORI TRAVEL」(画像提供:LCS)

──お仕事についてはいかがでしょうか。家具のリペアに始まり、いまではかなり幅広く活動されています。

クラフトストアの運営や商品開発、空間のリノベーション、現在は新築の店舗も担当しています。林業と空間づくりを絡めることや、まちなかの開発など、いろんなスケールの案件に携わらせてもらいました。

その中でも、わたしの実家の温泉旅館「山形座 瀧波」のリニューアルは、自分の仕事においてひとつの転機となりました。

新潟の温泉旅館「里山十帖」の岩佐十良さんにコンセプトづくりから設計とデザイン、料理やサービス、オペレーションにいたるすべてのクリエイティブ・ディレクションをお願いし、わたしは家具とアメニティ、お皿など備品のコーディネートを担当しました。設計は「YAMAMORI PROJECT」でもお世話になっている井上貴詞さんです。

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赤湯温泉「山形座 瀧波」のスイートルーム

岩佐さんの仕事をそばで見られたことはかけがえのない経験で、ディレクターの役割を直に学ぶことができました。

たとえば、グラフィック、インテリア、料理人、建築家など、旅館づくりに関わるプレーヤーたちの良さを引き立てるには、その「つなぎ目」が重要で、しっかりコミュニケーションをとることがなにより大切だということ。

そして、広い知識と視野を持つこと。岩佐さんは常に食・デザイン・建築・サービスを自由に横断的に考えていらっしゃいました。

岩佐さんの中には「山形座」という明確なひとつのコンセプトがあって、伝統野菜と床材というかけ離れた要素でも、それぞれ同じようにコンセプトに基づいてセレクトする。そうすることで、自然とお客さんの体験として統一感が生まれるんですね。

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「山形座 瀧波」のダイニングテーブルは須藤さんによるデザイン

──より俯瞰(ふかん)的に見るという、大きな視点の変化ですね。

そうですね。しかし一方で、深掘りすることの大切さもあります。旅館のリニューアルでは、備品のコーディネートを担当したので、例えば箸を100種類以上取り寄せて最適なものを選び抜くなど、細部について考え抜きました。

それはプレーヤーならではの視点であり、そのモノの世界を深く知ることで、依頼主により的確な提案ができます。

──ディレクターとプレーヤー、両方の視点が大切ということですね。

わたしの場合は、デザインやものづくりの分野では選手兼監督のような存在でありたいと思っています。

職人さんと仕事をする機会が多いのですが、現場ではただ依頼をするだけではなく、自ら手も動かし、職人さんと自然に会話もできる距離や関係でいることを大事にしています。

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須藤さんがディレクションした遠藤鮮魚店の飲食スペース。空間、家具、ロゴまで一貫したデザイン(画像提供:gattahouse)

──こだわりを持った職人さんたちとの仕事には、緊張感もあるのでしょうか。

職人さんに限りませんが、人として関わる姿勢や温度感が大事だなと常々思います。

例えば、ものづくりを依頼する場合、誰かの指示のもとで行くことと、興味を持って裸で飛び込んできた個人として接するのとでは、全然違うと思います。覚悟や意気込みを職人さんは敏感に感じ取ります。

職人さんのペースを守ることも大切です。互いの仕事の進め方やスピードを理解できないと、必ず失敗してしまいます。仕事にとどまらないコミュニケーションが一番大切で、人間関係が結果的にモノの魅力として現れると思います。

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「知りたい」「やってみたい」という好奇心が原動力だと話す須藤さん

──それでは最後に、今後のビジョンについて教えてください。

山形ではいろんなジャンルで独立して活動するプレーヤーが増えています。案件に応じてベストなチームをつくれることも、このまちで仕事をする楽しさのひとつです。

クライアントにとっては経営の伴走者として、その時にできるより良い提案をしたいと思っています。

いろんな技術や人と一緒に、山形の要素をさまざまなかたちで盛り込み、デザインの範囲を決めきらずに、共に挑戦していきたいです。

これまでを振り返って、一番大切にしてきたのは、興味を持った人や技術の現場を自分の足で訪ねることです。そうして出会ってきた人や技術が、あるとき、ふと結びつくことで、新しいものが生まれていきます。

どう実になるかはわからないから面白い。わからないものの、すべてはこれまでの積み重ねなんです。

好奇心を潰さないこと。自分の直感に素直になること。魅力的な人や物と関わる、そういう純度を大切にしていきたいですね。

写真提供:東北芸術工科大学

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